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角を狩るモノ  作者: Samail
三章 兵庫

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三十話 追う影

昼。


墓地。


風が吹く。

卒塔婆が揺れる。


「……行くのか。」


弥助坊が言った。

いつものように酒瓶を揺らしている。


「うん。」


ソウは短く答える。


少しだけ、間。


「……世話になったね。」


弥助坊が眉をひそめた。


「なんだよ気持ち悪ぃな。」


「本音だよ。」


「けっ。」


鼻を鳴らす。

やがて、 懐へ手を入れた。


古びた木札。


「ほら。」


ソウへ放る。


「……これは?」


「堺の口入れ屋に持ってけ。」


弥助坊が酒を煽る。


「そこの親父に見せりゃ、多少よくしてくれる。」


「……ありがとう。」


少しだけ、間。


「なんだよ。」


「いや。」


ソウが木札を見る。


「意外と、面倒見いいよなって。」


弥助坊が吹き出した。


「馬鹿か。」


笑う。


「……けどまあ。」


少しだけ、 視線を逸らした。


「死ぬんじゃねぇぞ、角狩り。」


静かだった。

ソウは小さく笑う。


「うん。」


短く返す。


「行ってくる。」



播磨屋。


荷が運ばれている。

朝から忙しい。


伊兵衛が腕を組んで立っていた。


「……そうか。」


ソウを見る。


「堺へ行くんだな。」


「はい。」


伊兵衛は懐から書状を取り出した。


「堺の鳴海屋にこれを渡せ。」


ソウが受け取る。


「昔の馴染みだ。多少、融通してくれるはずだ。」


「ありがとうございます。」


伊兵衛は小さく頷く。


その横。

兵介が腕を組んでいた。


「俺も行きてぇんだけどなぁ。」


ため息。


「新吉の面倒見ることになっちまった。すまねぇな。」


ソウは首を振る。


「いいよ。」


短く言う。


「また前みたいなことがあるかもしれない。」


新吉を見る。


「しっかり守ってやって。」


兵介は少しだけ黙った。


「……ああ。」


奥。


新吉がこちらを見ていた。


「おにいちゃん。」


「ん?」


「ひとりで、さみしくない?」


静かだった。

その時、ひょっこり顔を出すムジナ。


「安心しな。」


小さい声。


新吉の肩に飛び移る。


「おれがついてるからよ。」


新吉が少しだけ笑う。


「……そっか。」


そして。


「……ほんとうにありがとう、おにいちゃん。」


ソウは少しだけ目を細めた。


「達者でね、新吉。」


背を向ける。

歩き出す。

背中が小さくなる。


「へいすけ!」


突然、新吉が叫んだ。


「やっぱり、おにいちゃんについていってあげて!」


兵介が振り返る。


「でもお前、警護――」


「大丈夫だよ。」


新吉が言う。


「ね、父上。」


伊兵衛は静かに頷いた。


「ああ。」


腕を組む。


「いくら角狩りが強くても、一人じゃ限界があるかもしれん。」


兵介が目を見開く。


「……伊兵衛さん。」


「優秀な手練れが二人もいなくなるのは惜しいがな。」


伊兵衛が笑った。


兵介はしばらく固まっていたが。

やがて。


「……ったく。」


頭を掻く。

嬉しそうな顔。


「そういうことなら仕方ねぇなぁ!」


新吉と伊兵衛へ深く頭を下げる。


そして。

ソウを追って駆け出した。


「おーい!!待てよ、ソウ!!」


遠ざかる声。


新吉が、その背中を見ている。


「……父上。」


「ん?」


「ぼくも、強くなりたい。」


伊兵衛が少し驚く。


「ぼくが強かったら、二人を追いかけられたのに。」


静かだった。


やがて。

伊兵衛が笑う。


「腕っぷしばかりが、強さじゃないぞ。」


新吉が顔を上げる。


「大丈夫だ。」


伊兵衛は遠ざかる背中を見る。


「あの二人は、腕っぷしだけじゃねぇ。」


新吉も見る。

小さく頷いた。


「……うん。」


二つの影が見えなくなるまで。


親子は、 いつまでもそこに立っていた。

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