二十七話 歪んだ三つ巴
朝。
播磨屋は慌ただしかった。
店の者たちが走り回っている。
荷が運ばれ、 怒鳴り声が飛ぶ。
その奥。
「……本当に、助かった。」
伊兵衛が深く頭を下げた。
「礼を言わせてくれ。」
「いえ、無事でよかったです。」
ソウは短く答える。
兵介は胡座をかきながら息を吐いた。
「まったく、肝冷えたぜ。」
「おにいちゃんと、へいすけ、かっこよかった。」
新吉がいう。
「刀、すげぇ速かった。」
「はは、見てたのか。」
少し照れくさそうに笑う。
「ソウの方がすげぇけどな。」
少しだけ、 空気が緩む。
だが。
伊兵衛だけは笑っていなかった。
「……昨夜の話だが。」
静かに口を開く。
「攫った連中は何者だ。」
兵介とソウが視線を向ける。
「……わかりません。ただ、兵庫を牛耳る、と。」
兵介が言う。
「旦那がどうとかもな。」
伊兵衛が眉を寄せる。
「……。」
ソウが目を細めた。
「何か心当たりが?」
少しだけ、間。
伊兵衛は周囲を見た。
店の者たちが離れているのを確認してから声を落とす。
「最近、堺から妙な連中が流れてきてる。」
潮風が吹く。
「羽振りがいい。だが、どこで何をしてるか分からねぇ。」
「流れ者か。」
「ああ。」
伊兵衛が頷く。
「腕の立つ連中を囲ってるって話も聞く。」
ソウは黙って聞いている。
「……しかも。」
伊兵衛が少し言葉を切る。
「最近、港で鬼絡みの話が増えすぎてる。」
静かだった。
「人が消える。妙な死に方をする。知らねぇ連中が増える。」
拳を握る。
「偶然にしちゃ、出来すぎてる。」
兵介が腕を組んだ。
「全部、堺に繋がってるってのか。」
「断言は出来ねぇ。」
伊兵衛は低く言う。
「だが、流れは向こうから来てる。」
「そういえば、こんなものを見つけました。」
ソウが懐から例の家紋を出す。
伊兵衛はそれを見て目を見開く。
「……これは、赤松家の。いや、違うな。似せてはいるが別物だ。」
「別物?」
「ああ。三つ巴の一つが歪んでいる。あとこれは、引両が三本ある。」
伊兵衛が指を指して説明する。
「赤松家は一度滅んでいる。が、再興も果たしている。」
しばらく、沈黙が落ちた。
やがて。
「……連中がどういうつもりでこの紋を持っていたのかはわからねぇが、おそらくロクなもんじゃないな。」
伊兵衛が言う。
「……そうですか。」
短い返事。
伊兵衛は小さく笑った。
「また何かあったら、頼む。」
「わかりました。」
帰り道。
空は少し曇っていた。
兵介が腕を組みながら歩く。
「……堺と赤松。」
ぽつりと言う。
「なんか、キナくせぇねぇな。」
「確かにそうだ。」
ムジナが鼻を鳴らした。
「人も鬼も増えてる。」
「……。」
ソウは黙って歩いている。
「武家屋敷。」
兵介が指を折る。
「人攫い。」
さらに折る。
「妙な流れ者。」
「鬼。」
ムジナが付け足した。
「あと、あの変な死に方な。」
風が吹く。
ソウは少しだけ空を見る。
曇り空。
重い。
「堺、ね。」
小さく呟いた。




