二十六話 繋がる影
「播磨屋の大事な大事な一人息子だ。こいつを使って兵庫を牛耳ろうって算段なのさ。」
男の声。
「はあ、欲深い旦那だねぇ。ま、俺たちは言われたことをやるだけだ。」
「ピィピィピィピィうるさいガキだ。」
「腕の1本でも切り落としとくか。」
笑い声。
兵介の顔色が変わる。
「新吉……。」
ソウが、静かに手を下ろす。
次の瞬間。
二人同時に踏み込んだ。
床板が砕ける。
「なっ――!?」
男たちが振り向く。
遅い。
兵介の刀が走る。
一人。
血が散る。
「て、てめぇら!!」
さらに一人。
抜刀。
兵介が受ける。
重い音。
「うらぁ!!」
押し返す。
崩す。
斬る。
男が倒れる。
その横を、ソウが抜ける。
間合い。
一歩。
天穿が走る。
首が落ちる。
遅れて血が噴き出した。
「新吉!」
兵介が縄を断ち切る。
新吉の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
「へいすけぇ……!」
「大丈夫か!」
「う、うぅ……。」
泣きながらしがみつく。
「怪我は!?」
「だ、だいじょうぶ……。」
兵介が息を吐く。
奥。
まだ一人いた。
頭らしい男。
顔を引き攣らせている。
「くそ……!」
懐へ手を入れる。
小瓶。
「それは――」
ソウの目が細くなる。
男は栓を抜き、 中身を一気に煽った。
次の瞬間。
男が喉を押さえる。
「がっ――!?」
崩れる。
身体が激しく痙攣する。
兵介が眉をひそめた。
「……毒か?」
男は何か言おうとしていた。
だが、 声にならない。
喉が潰れたような音だけが漏れる。
「ぁ……ぁ……。」
床を掻く。
見開かれた目。
その顔が、 一瞬だけ。
泣いているようにも見えた。
ソウの背筋が冷える。
――ぱきん。
嫌な音。
男の肩が、僅かに歪んだ。
骨が鳴る。
兵介が息を呑む。
「……これは。」
男は口から泡を吹き、 そのまま息絶える。
静かになる。
風だけが、 廃寺を抜けていった。
ムジナが鼻をひくつかせる。
「……嫌な臭いだ。」
低い声。
ソウは答えない。
ただ、死体を見ていた。
兵介が新吉を抱えたまま、 ゆっくり息を吐く。
「……なんなんだよ、これ。」
返事はない。
新吉が震えていた。
「へいすけ、おにいちゃん……。」
「もう大丈夫だ。」
兵介が背を撫でる。
その時。
兵介の視線が、 死体の脇で止まった。
「……これは。」
布。
汚れている。
拾い上げる。
見覚えがあった。
紋。
それは武家屋敷で見たものと、 同じだった。




