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角を狩るモノ  作者: Samail
三章 兵庫

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二十五話 拐われた子

夜。


宿の戸が、乱暴に開いた。


「ソウさん!!」


飛び込んできたのは、播磨屋の若い衆だった。

息を切らしている。

顔色も悪い。


「……どうしました。」


ソウが顔を上げる。

男は肩で息をしながら言った。


「新吉坊ちゃんが……帰ってこねぇんです!」


静かになる。

兵介が眉をひそめた。


「帰ってねぇ?」


「昼から遊びに出たままで……旦那が町中探してるんですが、まだ……!」


言葉が途切れる。


「西の通りで見たって話を最後に、誰も……。」


ムジナが小さく鼻を鳴らした。


「……嫌な感じがする。」


ソウは立ち上がる。


「伊兵衛さんは。」


「港です!人集めて探してます!」


「わかりました。すぐ行きます。」


短い。

兵介が刀を掴む。


「俺も行く。」


「……ああ。」


夜の町へ出る。

昼の喧騒は消えていた。

灯りは疎ら。

人通りも少ない。

潮風だけが抜けていく。



港。



人が動いていた。


「新吉ー!!」


声が飛ぶ。

提灯が揺れる。

伊兵衛もいた。

疲れた顔をしている。


「……ソウ、すまねえ来てくれたか。」


「新吉は?」


伊兵衛は首を振った。


「駄目だ。見つからねぇ。」


その顔は、普段より少し老けて見えた。


「町の連中にも声かけた。港も探した。」


拳を握る。


「……あいつ、こんな時間まで帰らねぇガキじゃねぇ。」


ソウは黙って聞いている。

兵介が辺りを見回した。


「最後に見たのは。」


「西の通りだ。菓子屋の辺り。」


「誰といた。」


「一人だったらしい。」


風が吹く。

ムジナが、ふと顔を上げた。


「……なあ。」


「どうした。」


「変な臭いがする。」


静かに言う。


「新吉のか?」


「うっすら。」


ムジナが鼻を動かす。


「こっち。」


歩き出す。

西の通り。

昼間なら賑わう場所も、 今は静かだった。


閉まった店。

揺れる暖簾。

遠くで犬が鳴いている。

ムジナが地面へ飛び降りる。


「……こっからだな。」


低い声。


「本当に分かるのか?」


兵介が聞く。


「馬鹿にすんな浪人。鼻はいいんだよ。」


「頼もしいな。」


「もっと褒めろ。」


そんな軽口を挟みながらも、 空気は重かった。

細い路地へ入る。

湿った臭い。

人の少ない道。


「……複数いるな。」


ムジナの声が低くなる。


「人間の臭いだ。」


さらに進む。


町外れ。


崩れた塀。

木々。

暗い。

兵介が顔をしかめた。


「……寺か。」


廃寺だった。


屋根は崩れ、 壁も朽ちている。


それでも。

奥に、灯りが見えた。


ソウが手を上げる。

止まる。

風が抜ける。


声。


「ぎゃーぎゃーうるせぇガキだな。」


男。


「仕方ねぇだろ。まだガキなんだからよ。」


笑い声。


兵介の顔色が変わる。

ソウは静かに、 廃寺を見ていた。

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