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角を狩るモノ  作者: Samail
三章 兵庫

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二十三話 落涙

「……ぉぁ……。」


喉が鳴る。

倒れた男の身体が跳ねる。


びくり。

びくり、と。


周囲が静まり返る。


「お、おい……。」


誰かが後ずさる。

男の腕が、不自然に膨らんでいた。


骨が歪む。

皮膚の下で、何かが動いている。


「……ソウ。」


ムジナの声が低い。


男が、ゆっくり顔を上げる。


目が濁っていた。

焦点が合っていない。


「……た、す……。」


声。


腕が、さらに歪む。

指が伸びる。

爪が黒く変色していく。


誰かが悲鳴を上げた。


「ひっ……!」


兵介が前へ出る。


「下がれ!!」


怒鳴る。


周囲が我に返ったように逃げ始める。

荷が崩れる。

木箱が倒れる。

港が騒がしくなる。


ソウは、動けなかった。


ただ男を見ている。


「……ぅ、ぁ……。」


苦しそうだった。


その顔が、一瞬だけ揺れる。


泣いているようにも見えた。


――ぱきん。


音。

ソウの背筋が冷える。




雨。


血。


『鬼になるぞ。』


父の声。




男の肩が裂ける。

骨が押し出される。

片腕だけが異様に膨れ上がる。


「……っ。」


兵介が息を呑む。


「なんだ、これ……!」


ムジナの毛が逆立つ。


「見たことねぇぞ、こんなの……!」


それが立ち上がる。


角。


額から、小さく突き出している。


非対称。

歪。

未熟。


それでも――鬼だった。


それは吼える。


空気が震える。

次の瞬間。


腕が振り抜かれる。

荷車が吹き飛ぶ。

木片が舞う。


逃げ遅れた男が弾き飛ばされた。


「がぁっ!」


地面を転がる。


「ちくしょう!」


兵介が駆ける。

倒れた男を引きずる。

その頭上を、鬼の腕が通り過ぎた。


風圧。

地面が砕ける。


「ソウ!!」


叫び。

ソウは、まだ動けない。




『刀で斬れ。』


声。


父の声。


『鬼になるな。』




目の前。

歪んだ鬼が、人を追っている。


泣いているように見えた顔が、頭から離れない。


鬼が吼える。

もう一人。

商人が転ぶ。

間に合わない。


「「ソウ!」」


兵介とムジナの声が重なる。


「――っ!」


ソウが踏み込む。

速い。

一瞬で間合いが消える。


天穿を抜く。

鬼が振り向く。

濁った目。


その奥に、一瞬だけ。


人を見た。


斬る。


音が消える。


次の瞬間。

首が落ちる。


遅れて血が噴き出す。

巨体が揺れる。

崩れる。


静かになった。


誰も動かない。


ソウは、黙って鬼を見る。


歪んだ身体。

崩れた顔。

その表情はもう分からない。


兵介が、ゆっくり立ち上がる。


「……なんだったんだ、今の。」


答えはない。

潮風が吹く。


ソウは鬼の死体を、眺めていた。

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