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角を狩るモノ  作者: Samail
三章 兵庫

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二十二話 不穏の種

朝。


港は、もう動いていた。


船が軋む。

怒鳴り声が飛ぶ。

潮の匂いと、魚の臭いが混ざっている。


「そっち運べ!落とすなよ!」


荷が積まれていく。

その中を、兵介が木箱を抱えて歩いていた。


「……重てぇっ。」


「情けねぇな浪人。」


肩の上で、ムジナが笑う。


「お前運んでねぇだろ!」


「応援してる。」


「腹立つなぁ……!」


少し前。


新吉の父親に頼まれた。

人手が足りない。

半日でいいから手伝ってくれ、と。


「悪いな。」


商人が言う。


「最近、荷が増えててな。」


「忙しいのは良いことじゃないですか。」


ソウは箱を運びながら答える。


「まあな。」


商人は笑う。


「境の方が景気良くて助かる。」


その時。

近くで別の商人が声を上げた。


「聞いたか?境の酒。」


「ああ、例の。」


「なんでも、とんでもなく美味いらしい。」


「一杯で忘れられなくなるとか。」


「極一部の金持ちしか飲めねぇんだろ?」


「一回呑んでみてぇなぁ、そんな酒。」


笑い声。

兵介が眉をひそめる。


「そんな酒があるのか?」


「あくまでも噂だよ。」


男が肩をすくめる。


「何でも仙人様が作ってるって話だ。」


「へぇ。仙人様、ねぇ。」


ソウは短く返す。

あまり興味なさそうだった。


「呑んでみてぇな、そんなにうまいなら。」


兵介がいう。


「そうかい?」


「気にならねぇ?」


「別に、かな。」


「……そうかよ。」


ムジナが鼻をひくつかせる。


「……なんか嫌な臭いがするな。」


小さく呟く。


「酒じゃねぇのか?」


「わかんねぇけど。」


ムジナは尻尾を揺らした。


「なんか、臭ぇ。」


ソウは少しだけ目を細める。


その時だった。

どさ、と音。


振り向く。

荷を運んでいた男が、一人倒れていた。


「おい!」


周囲がざわつく。

男は苦しそうに喉を押さえている。

息が荒い。


「大丈夫か!?」


誰かが駆け寄る。

男の目が、妙だった。

焦点が合っていない。


「……ぉ……。」


喉が鳴る。

びくり、と体が跳ねた。

周囲が静かになる。


「……おい。」


兵介が低く言う。

男の腕が、不自然に膨らんでいた。

骨が、軋むような音。

ムジナの毛が逆立つ。


「……ソウ。」


低い声。

男が、ゆっくり顔を上げる。

その目は、濁っていた。

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