十四話 守り人の日々
呼ばれる。
「蒼司殿。」
振り向く。
男が一人、立っていた。
額に汗を浮かべている。
「畑の奥で、また出た。」
息が少し荒い。
頷く。
それだけで足を向ける。
畑の先。
土が荒れている。
踏み跡が残っていた。
風が、低く流れる。
いる。
一角。
背を向けている。
踏み込む。
距離が消える。
斬る。
深い。
肉が裂ける音。
一角が振り向く。
遅い。
もう一歩。
斬る。
首が落ちる。
音が、遅れて来る。
静かになる。
天穿が淡く光る。
後ろで、息を呑む音。
「……さすが、蒼司殿。」
振り返らない。
刀を納める。
「助かりました。」
頭を下げられる。
「構わない。」
その場を離れる。
道の途中。
子供が一人、立っている。
「蒼司!」
手を振っている。
足を止める。
「見たぞ!今の!」
息を弾ませている。
「すげえな!」
少しだけ、口元が緩む。
「……近づくな。」
短く言う。
「分かってるって!」
笑っている。
そのまま、走っていく。
背を見送る。
別の日。
家の前に、人がいる。
視線が集まる。
一歩、前に出る女。
「……蒼司様。」
声が震えている。
「夫が、戻らないんです。」
山の方を見る。
「……昨日から。」
頷く。
天穿に触れる。
「わかった。」
それだけ言う。
女は何度も頭を下げる。
「お願いします……蒼司様……。」
背を向ける。
山へ入る。
奥。
木々の間。
空気が違う。
足を止める。
いる。
人の形。
動かない。
近づく。
顔が、残っている。
目が、合う。
「……ここじゃないだろう。」
それだけ言う。
動かない。
風が鳴る。
少しだけ、間。
「……帰りな。」
言葉を足す。
視線が、揺れる。
ゆっくりと、輪郭が薄れる。
消える。
静かになる。
戻る。
女が、まだ立っている。
「……ちゃんと帰した。」
それだけ言う。
膝から崩れる。
泣いている。
「……ありがとうございます……。」
頭を下げる。
何も言わない。
その場を離れる。
呼ばれ方が、増えた。
蒼司。
蒼司殿。
蒼司様。
どれも、変わらない。
天穿に触れる。
重い。
離さない。
また別の日。
山を歩いている。
一角を見つける。
斬る。
首を落とす。
ふと足元に目をやる。
狸が死んでいる。
その母親を揺するように子狸が一匹。
ため息を落とす。
穴を掘って親狸を埋めてやる。
その様子を見ていた子狸は、納得した様に奥へ消えた。
遠くで鳶が鳴いた。
空を見上げると、雲が流れていた。




