十三話 天穿(てんせん)
刀を振る。
風を斬る音。
前より、深い。
踏み込みも、迷わない。
もう一度。
斬る。
もっと疾く。
汗が流れ落ちる。
振る。
刀を。
「……そこまでだ。」
声がした。
振り向く。
父上が立っている。
雨は、降っていなかった。
刀を納める。
息を整える。
「……ついて来い。」
それだけ言って、背を向ける。
後を追う。
石段を上がる。
遠くで鳶が鳴いている。
見慣れた家。
居間。
中は静かだった。
座る。
父上も、向かいに座る。
間。
何も言わない。
やがて、父上が手を動かす。
刀を置く。
父の腰にあったもの。
「……持て。」
言われるまま、手に取る。
重い。
「天穿だ。」
父上が、こちらを見る。
「今日から蒼司、と名乗れ。」
言葉が落ちる。
そのまま、残る。
「……。」
何も言えない。
ただ、天穿を握る。
「受けるな。」
短い。
「あれに飲まれるな。」
あの時のことだと分かる。
腹の奥が、わずかに熱を思い出す。
「刀で斬れ。」
「……はい。」
声が出た。
自分の声だった。
「お前が当代の守り人だ。」
天穿を、見下ろす。
重い。
だが、離さない。
「……励め。」
そう言って父上は奥へ行った。
庭に出る。
天穿を抜く。
振る。
重い。
振り回される。
振る。
抑える。
今度は上手く振れる。
どれほど経ったか。
空を見上げると雲の間から光が漏れていた。
「天を穿つ、ね。」
もう一度、天穿を振った。
読み方は天穿です。




