外伝
冷戦の瓦解と鉄の支配
巨大生物の脅威が去り、傷ついた極東の海に静寂が戻ったのも束の間。ホワイトハウスのオーバルオフィスに、世界を再び震撼させる凶報がもたらされた。
「択捉島方面を哨戒中のB-36『ピースメーカー』より緊急電。ソビエト連邦軍に不穏な動きあり。旅順へ向けて部隊が移動中とのことです」
報告を聞く男の目は、猛獣のように鋭く光った。ジョージ・パットン。現実の歴史とは異なり、共産主義を心底から嫌悪するこの猛将が、いまやアメリカ合衆国大統領の座に就いていた。
ソビエトは巨大生物との戦いには一切参加せず、牙を研ぎ続けていたのだ。かねてから「怪物の残骸の回収」や「警備の強化」など、様々な言い訳を並べ立てては旅順に艦艇を集結させていた。
だが、何よりもアメリカ側を困惑させ、そしてパットンを激怒させたのは、その艦隊の中に大量の輸送船が含まれていた事実だった。
巨大生物との戦闘において、鈍重な輸送船など何の役にも立たない。その意味する答えは一つしかなかった。ソビエトは、日米が怪物を相手に血を流し、満身創痍となったその隙を突き、漁夫の利を得る形で極東へ侵略の軍を進めようとしていたのだ。
だが、彼らは致命的な見誤りをしていた。ホワイトハウスにいるのは、妥協を知らぬ男・パットンである。
かねてから連合国の一部とアメリカは、ソビエトに対する根深い不信感から、最悪の事態――すなわち共産主義との全面戦争をも想定した『最終解決計画』を極秘裏に策定していた。
報告書をデスクに叩きつけたパットン大統領は、一切の躊躇なく、冷徹な声で作戦名を口にした。
「……作戦発動だ。赤豚どもに、本当の終末を教えてやれ」
すぐさま合衆国空軍へ暗号指示が飛び、極東の空を飛行中だった巨大戦略爆撃機、B-36の機内で赤色灯が点滅を始める。
一機のB-36が、作戦指示に従って進路を急転換し、夕闇に包まれつつある旅順湾へと迫った。巨大な爆弾倉が開き、核爆弾が解き放たれる。
旅順湾の洋上、そして陸地の拠点へ、それぞれ一発ずつ、計二発の核爆弾が投下された。
閃光。次いで、すべてを蒸発させる大爆発が旅順を包み込む。集結していたソビエトの不穏な艦隊も、輸送船も、侵略の野心ごと一瞬で消滅した。B-36は何事もなかったかのように、そのままカナダ方面の領空へと飛び去っていった。
悪夢はそれだけでは終わらない。
時を同じくして、別の空域を飛行していたもう一機のB-36が、ソビエトの心臓部へと牙を剥いた。
高度一万メートル以上の高空から、モスクワに向けて二発の核爆弾が投下される。
共産主義という思想が、あまりにも行き過ぎた一極集中を生んでいたことが、この瞬間にソビエト連邦の致命傷となった。最高権力機関も、軍の司令部も、すべての機能をモスクワに集約させていたがゆえに、その心臓を撃ち抜かれたソビエト連邦は、まともな反撃の命令すら出せぬまま、一瞬にして崩壊、終焉を迎えたのである。
これ以後、世界は完全に塗り替えられた。
怪物の脅威を排し、最大の障壁であった共産主義をも一撃で葬り去ったアメリカ合衆国による、絶対的な一極支配の時代が始まったのだ。
極東の小さな島で始まった、あの怪物騒動。
それは、人類を滅亡の淵へと追い詰めた最悪の災厄であったが、最終的には全世界を巻き込み、莫大な損害の果てに、アメリカの圧倒的な鉄の秩序による「平和」を世界にもたらすこととなった。
ゴジラ三部作の始まりの話になります、次の物語は巨大生物の存在が当たり前となった世界、滅びに向かう世界で日本は生き残りをかけて非情な決断をします、どうかこの先の日本の決断を見守ってください、次回『怪獣惑星』
カルネアデスの決断は許されるのでしょうか。




