2・
「おい東山!」
会議が終わり、控室へ向かう東山を引き留める深山の姿があった。
「深山が歴史改変したいのは理解してるよ。だがな、小説ほど簡単じゃないんだよ。この1年で理解しただろう?」
2人の後ろを小宮山か無言で歩き、3人は控室へと入った。
「お疲れちゃ~ん」
そこには先客が居た。
「奥山、聞いてくれよ」
深山は先客に対して東山が会議で言い放った事を説明する。
「あー、俺も東山に賛成だわ」
話を聞いて、奥山はアッサリとそう答える。
「何でだよ」
深山がさらに言い募ろうとした時、控室へとさらに入室してくる者が居た。
「ダメだった〜」
「鞍山、お疲れちゃ~ん」
奥山は、深山を無視して鞍山へとそう言って続ける。
「まあ、せやろ。俺ら、このナリじゃん?野望や夢を追っかけてる人が手を取る相手じゃ無いって!」
そう、彼ら5人の見た目は15歳前後、下手をしたらより幼くも見える。
「だよな。こんな若造が車の話をしたら疑われるだけだった。『現代の知見』を吉田さんや内田さんに語っても、鼻で笑われるだけだったよ」
鞍山は、タクリー号を世に送り出すオートモビル商会を訪れたのだが、彼の語る自動車論が理解出来なかった社長の吉田や技術者内田に笑われるだけに終わっていた。
「ちゃんと説明したんだろ?」
深山が鞍山に問う。
「ムリムリ、一世紀先の話をされても詐欺にしか聴こえんって。二宮忠八もダメだったじゃん?」
彼らは日本に飛行機産業を作ろうと二宮忠八にも声を掛けていたが、断られている。
「説明が悪いんじゃないか?」
そう深山が首をひねる。
「いや、俺たちの見た目と肩書の胡散臭だな。考えても見ろよ。どう見ても『消防署の方から来ました』って感じだろ?」
東山も、そこに加わる。
「じゃあ、どうするんだ?」
小宮山がそう尋ねてくる。
「やっぱ、俺ら中心の研究所しか無いっしょ?」
半ば戯けた態度で奥山がそう言うが、その目はマジだった。
「俺たちには知識はあるじゃん?だが、実績も知名度も無いっしょ?あるのは、天皇の屋敷に突然現れたって事と、スマホやパソコンみたいな持ち物だけ」
そう言って4人を見回す。
「俺らの身の上知ってんの何人よ?深山が相手してんのは、それを知ってる連中だから話を聞いてくれんだよ」
そう言われては、何も言い返せない深山であった。
彼らは21世を生きる者たちで、たまたま同窓会で再開して飲んで居た最中、気が付けば明治時代の宮城に居たのである。
歴史改変小説好きの深山が中心となり、何とか身の上を立証する事は出来たが、扱いはなかなか決まらず、最近になって外へ出る機会を得たのだが、深山の小説知識を元にした行動は、その多くが裏目になっていたのである。
唯一、明治天皇から身の保証を授かり、元老をはじめ政府高官や軍上層部には一定の理解が得られていた。
だが、それ以外の部分ではうまくいっていない。
飛行機産業立ち上げを夢見て二宮忠八に会ったが断られ、タクリー号をより実用性のある自動車にしようとして、鼻で笑われて帰って来た。
「なあ深山、動くのは俺たちが地位や実績を身に着けてからでも良くね」
奥山がそう続けた。
「だが、それだと10年近く無為に過ごすことになるんだ。ド級戦艦どうする?今からやらなきゃ、飛行機産業や自動車産業で世界に並べない!」
そう深山が訴える。
「なあ深山。何か自惚れてないか?確かに、俺たちの頭の中には、それぞれの分野で相応の知識はある。惜しい事に医療分野が居ないが」
そう、5人はそれぞれ専門知識を持つメーカーエンジニアや研究者だった。
奥山は航空、鞍山は自動車、小宮山は化学、東山は金属、深山は電気である。
同窓会では「五賢山」などと持て囃された、一種の勝ち組だった。
だが、明治日本には、彼らが活躍する場所すら、未だ存在していない。
いや、すでに東山にはある。だからこそ、彼の発言力が5人の中で一番高いのだが。
「とりあえず、八幡製鐵所をマトモに稼働出来る道筋はつけられそうだが、足りないものが多いし、俺たちには地位も実績もないな。早くて10年、欲を言えば15年は欲しい」
東山が奥山に賛同する。
「だから、それからじゃ遅いって!第一次大戦終わるじゃないか!!」
と、深山は言い続ける。
「それが自惚れだってんだよ。パソコンや電卓作れとは言わんけど、まだプラグひとつ作れねぇじゃん?日本の電気工学って。深山のひと声で明日出来んの?」
深山も、それを言われとると返す言葉がなかった。
「別にこの時代の人に任せる必要ないんだよ。自動車なら僕が造れば良いんだし、そこに使える素材や部品を造ってくれない?今じゃなくていい。10年後でも遅くはないと思う」
鞍山もそこに加わった。
「俺は流体力学で船にも関われるかもなぁ。いきなり船体の仕事とか無理だろけど。あ。俺もアルミ合金ヨロ〜」
奥山もそう言って参加してくる。
「本当に、呑気だな。第一次大戦でほぼ日本の歩むルートは決まるんだぞ?」
深山は呆れたようにそう言った。
「まあ、総力戦だとか、大陸政策なんかそうだろうな。けどな、現状で日本は欧米に対抗できる力もない。どうあがいても経済も技術もないんだ。何をどう変えるんだ?それなら、俺たちが一定の水準になる様技術を高めて、それを政治や軍に見せつけてから話を進めても、一緒じゃないのか?」
東山がそう深山を説得した。
こうして、彼らは自分達を中心とした研究所設立という、元老たちも望んだルートへと歩みを進めることになっていった。
「まあ、現状でやれる事はやったんしょ?」
奥山がそう問う。
深山は頷き、口を開いた。
「ああ、ピクリン酸と50口径12インチ砲についてはな。三八実包にも懸念はあるが、弾丸や装薬の改良でどうにかなる。ルイス機関銃も鹵獲してるみたいだし、後は軍上層部がどうにかするだろう」
さらに東山が続ける。
「世論を半島や大陸から引き離す。鞍山、まずはガスエンジンや石油発動機を何とか出来ないか?小宮山も、明治から手を付けられるモノを頼むよ。国民や政治家の目を国内産業に向ける事も必要だ」
「分かった。石油発動機は趣味の分野だから、それを手掛けるに否やは無いよ」
という鞍山。
「ナイロン系の実用化が日本からってなれば、産業構造も変わるだろう。やるよ」
小宮山も同意した。
「農業と繊維か?」
深山が東山にそう問いかけた。
「ああ、工業化するには、農業を機械化して人口流動性を高める必要がある。都市労働者が農繁期の季節労働者になるのでは、イギリスの様な労働争議が待っているだろう」
「つかさ、農家って、経営感覚なさ過ぎね?」
奥山が遠慮なしに問う。
「他責になるが、それは農地解放のせいもあるだろうな。農業を経済じゃなく、家業や神事って感覚が、本人たちにも、変に農業保護考えてる人らにも居た」
東山は怒るでもなく、そう返す。
「それに、農家やJAってところが、食品会社みたいに値付け出来る訳じゃない。『市場原理』と言ってるが、利権の塊なんだよ。深山じゃないが、歴史改変やるなら、戦後のアレを潰したい」
東山はそう言って笑う。
「なんだよ、俺と変わんねぇじゃん」
奥山はそう言って笑う。
「おれは、アメリカの関係ねぇ所で自由に飛行機作りたい」
「あ、それは一緒。ヨーロッパの環境規制だとか対人衝突安全だとかに囚われない、自由な車が作りたい。あ、ドライバーの安全は守るよ?」
鞍山がそこに賛同する。
「お前ら、結局自分勝手だな」
小宮山があきれた様に見回し、ため息をついた。




