第8話 待ち焦がれた戦友
気休め程度だが、少しは時間を稼げる。
その間に有効な手段を構築しようと、萌子は対抗策を考え続けていた。
車で移動し、数時間が経った頃、ニュクスにある商業都市『アイテール』の門の前に到着。
ルナはエンジンを止め、車内に軽快なメロディーを流して、寝ている二人に、観光バスのツアーアテンダントのような、よく通る声で、
「お二人とも、起きて下さいな」
薄く目を開けて、加奈が窓越しに、眼前に広がる、アイテールの街並みを見て、
「きれーい♪」
途中に降った通り雨が、規則正しく整備さ
れた石畳を濡らし、街の外灯に照らされ、鏡のように、建物と人々を映し出していた。
その外灯を見て、
「ママ、なんか動いてるよー」
加奈は注意深く外灯のヒカリを見て、不思議そうな顔を萌子に向ける。
「それは『星ホタル』って言って、照明に使われる精霊の一種なのよ」
萌子の説明に、加奈は星ホタルを見て、
「……」
少し考え込むように俯き、
「どうしたの、加奈ちゃん?」
萌子の言葉に加奈は、外灯の四角いガラスを指差し、
「あんな狭い所に閉じ込められて……かわいそう」
繊細な加奈の感性に、萌子は、
「共存って言葉、加奈ちゃん、知ってる?」
萌子は星ホタルを見て、
「うん、知ってるよ」
加奈が頷き、萌子を見上げ、
「星ホタルは、精霊の中でも、とっても儚い存在なの。普通なら、他の生き物に食べられちゃったり、短い寿命で、すぐに死んでしまうほどに、ね」
「……」
「魔法で保護された外灯の中に居れば、子孫を残したり、精霊界へ安全に戻ることも出来るのよ」
「精霊……界?」
自分が降り立った世界の他にも、違う場所が存在するかもしれない、そんな期待に胸を躍らせる加奈に、萌子は、
「私達がいる世界について、言葉で説明すると複雑で難しいの。う~ん、手短にまとめるとね」
萌子はテレパシーで、大まかに、この世界の構造を脳内で映像化し、知覚共有している加奈に伝えた。
萌子達がいる世界は、幾つもの種族が暮らすフィールドが、神々の世界『ヴァルハラ』を中心として、螺旋状に点在し、種族間を行き来するゲートが、合わせ鏡のように重なった瞬間、その扉が開き、互いの世界に干渉することが出来た。
萌子が降り立った世界『ミズガルズ』には、主に人間を中心とした社会が構築されていた。
加奈のいた世界と大きく異なるのは、同じ人間であっても、異種族間の交わりにより、魔法因子が組み込まれ、先天的に、魔力の行使が可能となった存在。
現代の言葉で表すなら『ハーフ』や『ミックス』と呼ばれる混血児に、その能力は必ず引き継がれ、人々は、敬愛と畏怖の念を込めて『ハーフエルフ』と呼んでいた。
「……」
加奈は萌子が教えてくれた、この世界の有り様を理解し、壮大過ぎる世界観に、自身の想像力が追い付かなかった。
暫く無言で、辺りの景色を、ボーッと見ながら、一言、
「なんか……すごーい」
感嘆の声を上げ、ワクワクするような冒険心が溢れ出て、
「ママ!ボク、何だか、楽しくなって来たー♪」
その言葉に、
「ふふ。その元気があれば、きっと大丈夫!」
加奈の笑顔を見て、萌子の不安は少し和らぎ、何時もの調子に戻ると、
「今の情勢も気になるし、取り合えず、ここで情報を集めないとね」
「それなら、宿屋を借りて、そこを拠点に活動の範囲を広げましょう」
ルナの提案に、
「ええ、そうね」
萌子は頷き、加奈の手を取り、アイテールの街中を、慣れた足取りで進んでいく。
二つ目の交差点を渡り、細長い裏路地を抜けると、他と趣が違う、格式高い建物が目の前に現れた。
江戸時代の武家屋敷を思わせる佇まい、異世界なのに、どこか愛着が湧く、そんな宿屋を前に、加奈が、
「なんか、ニンジャさんがいそー♪」
存外、的を射る発言に、
「ふふ、鋭いわね、加奈ちゃん」
萌子は門扉を開け、玄関の前に立ち、
「ルーファン、いる~?」
宿屋の主の名を、間延びした声で何度か呼ぶと、ガラッと引き戸が開き、初老の顎髭を貯えた男性が、萌子の顔を見るなり、
「お、おお……!」
男性は目を大きく見開き、
「信じられん、セ、セレーネ」
萌子の手を握り、幽霊でないことを確認すると、
「ただいま、ルーファン」
その言葉に、長い間、止まっていた砂時計が、再び、ゆっくりと動き出す感覚に、ルーファンは歓喜の声を上げた。
そして、萌子の来訪を心から歓迎し、おいおいと、声を上げて男泣きをする。
「ママ、オジチャン、何で泣いてるの?」
悲しくて泣いてないことは、加奈にも感じ取れたが、二人の関係性を知らない彼女には、ルーファンの流した、涙の重さまでは解らなかった。
「マ、ママ?」
加奈の言葉に、ルーファンが反応し、
「セレーネ、この子は……もしや」
萌子は笑顔で、
「ええ、私の子供よ。名前は加奈っていうの」
聞き慣れない、名前の響きに、
「……か、カナ」
愛らしい孫娘を見るように、ルーファンはその名前を呼ぶ。
加奈は、ペコリとお辞儀をして、
「はじめましてー♪」
初対面であったが、ルーファンの、自分に向ける、温かな眼差しに安心して、加奈は元気よく挨拶して応える。




