第4話 萌子の告白、加奈の選択と決意。
萌子はルナの鼻に人差し指を当てる。
安心したのか、腕の中で、うたた寝をするように身体を伸ばし、リラックスする姿を見て、
「ママ、すごーい!」
憧れにも似た眼差しを向け、加奈は萌子の腰に抱き付いて、その手当てに感激し、ワクワクした気持ちが抑えられない。
萌子は、ルナをソファに寝かせると、ブランケットを掛け、加奈に向かって、
「……加奈ちゃん、ちょっと、いい?」
萌子はルナの横へ座り、ポンポンと、隣のスペースを叩いて促す。
無邪気に隣に座り、萌子は神妙な面持ちで加奈を見るが、
「なーに、ママ?」
クリッとした、大きな目を真っ直ぐに向ける。
萌子は覚悟を決めて、
「も、もし、加奈ちゃんの病気がね……今の医療で治らないって、そう、お医者様に言われたら、その……」
口籠もる萌子の感情を読み取り、不安な表情を浮かべる加奈。
だが、すぐに、
「でも、治せる方法があるの!」
その意志は、強く、温かな感情の波となって、加奈に伝わると、
「ほんと、ママ?」
加奈の、僅かに残る不安を拭うように、
「ママ、加奈ちゃんに秘密にしていたことがあるの」
「え?」
加奈の目を見て、萌子はゆっくりと目を閉じ、静かに精神を集中させる。
そして、魔法を詠唱するスペルを唱えた。
「!」
萌子の身体から、無数の星屑が周囲に拡散されると、リビングダイニングの空間は、緑豊かな深い森へと変わっていた。
「ここ、裏山の神社だよね?ええ~!!」
加奈は驚きを隠せず、大声を上げる。
信じられないことに、一瞬にして、すぐ近くにある裏山、古くからの住人は『神鳴きの森』と呼ぶ場所に、空間転移すると、
「ママって、もしかして」
次の言葉を発する前に、
「加奈ちゃん、私、魔法使いなの」
夢のような出来事に、理解が追いつかない加奈だったが、いま自分が置かれている状況を、徐々に受け入れると、
「……すごーい」
言い知れない高揚感に、空想の夢物語が現実に起きたことに、フルフルと身体を震わせ、これが夢で終わらないで、と強く願っていた。
そんな加奈に、
「昨日見た、加奈ちゃんの夢。あれって、実は……」
萌子の説明によって、夢でなく正夢。
正確には、アストラルと呼ばれる、魔法で見た現実であると明かされ、
「え!じゃあ……ボクも」
「そう。加奈ちゃん、貴女も、魔法が使えるのよ」
その言葉は、まさに加奈にとって、夢が叶った瞬間であった。
だが、その余韻に浸るよりも早く、萌子は、
「でも、いまの状態だと」
「?」
嬉しさで、テンションが上がっている加奈に、萌子は押し潰すような声で、
「貴女は死んでしまうわ」
「……」
その言葉に、加奈の思考はフリーズした。
夢と引き換えに『死』というフレーズが重くのし掛かり、強烈なリアリティとなって、暗く、粘着質を帯びた感情の波が、加奈の心を蝕んでいく。
「や、やだよ、イヤー!!」
事実を受け止められない加奈は、その場で倒れ込み、不安のオーラが、漆黒の闇で、加奈の周りに立ち籠めると、周囲の草木を枯らしていく。
萌子は冷静に、そんな彼女を抱き寄せ、闇のオーラが、茨の棘となり、自身の肉体を傷つけるが、構わず、優しく語り掛ける。
「大丈夫、大丈夫よ」
「うっ、うう」
言い知れない恐怖に、加奈は涙を流し、鼻水が出るのも構わず、泣きじゃくるが、
「私が貴女を護るから、絶対に!」
そう言って萌子は、額を加奈のおでこに合わせて、心の中で、加奈が助かる方法をテレパシーで伝えた。
それによって彼女が、この世界で再び暮らす為には、萌子がいた世界に赴き、その解決策を模索する旅に出なくてはならないこと。
そして、マリク達がいる、この世界を離れる覚悟が必要だった。
一頻り泣いて、加奈は顔を上げ、萌子を見上げる。
その瞳には、先程までの弱々しさは消え、強い意志が芽生えていた。
「ボク、ママがいた世界に行く!」
「か、加奈ちゃん」
今迄のような、甘えるだけの、頼りない態度から、一つ、大きな一歩を、自らの足で歩もうとする、毅然とした眼差しに、萌子は驚いた様子で見つめていた。
加奈の意志を確認すると、
「次の満月の夜、この世界を旅立つことになるわ。だから、その前に、色々と準備をしなくちゃね」
その中には、マリクとの最後の語らいや、身支度、それに異世界転移に関わる、萌子のコンディションなど、時間が限られるなか、することは一杯であった。
この世界にいられる、僅かな時間を慈しむように、二人は抱き合うと、
「あの~、私のこと、お忘れじゃありませんか?」
ルナが、木の枝に引っ掛かったまま、二人を見て苦笑いし、
「は、羽根が絡まって、動けませんの。お二人とも、何とかして頂けませんか?」
転移した場所が悪かったらしく、身を捩らせ、懇願するルナを見て、
「ぷっ!」
「ふふ」
加奈と萌子は、顔を見合わせて笑い出す。
先程までの、トラジェディーな展開とは真逆の、コメディ要素タップリの、間抜けで、情けないルナを見て、緊張が一気に解けると、
「私は、オチ担当じゃありませんわー!」
ニャーニャーと、涙目になりながら、ルナはジタバタと、木々の中で泳ぐように暴れていた。




