第3話 規格外の素質
次の日の朝、加奈はユックリと寝返りを打ち、大きな欠伸をして起きた。
カーテンは全開で、朝日が優しく加奈を照らしている。
はだけたパジャマを気にせず、周りを見回すと、萌子の姿はなかった。
「不思議な夢だったなぁ」
まだ夢見心地の加奈は、昨夜のファンタジックで、リアリティのある出来事を思い出し、
「でも、楽しかったー♪」
現実の自分の身体が、地面にしっかりと立っているのを確認し、少し残念そうな顔をするが、すぐに、
「うー、お腹空いたー」
キュルルと、可愛い音が鳴り、足早に一階に降りていく。
階段からでも香ばしく、美味しそうな匂いに、加奈はクンクンと、子犬のように鼻を鳴らして、
「やった!」
料理をイメージし、加奈は勢いよくドアを開ける。
テーブルには、すでに準備が整い、萌子が、笑顔で加奈を迎えた。
「おはよ、加奈ちゃん」
「ママ、おはよー♪」
萌子は何時ものように、加奈とハイタッチして、二人同時に椅子に座ると、南部鉄器で沸騰させた天然水を、急須に淹れて、色鮮やかな、薄緑色のお茶を湯飲みに注ぐ。
「あ!」
「どうしたの、加奈ちゃん?」
「……」
次の言葉を話したくても、我慢している加奈を見て、萌子は、
(ふふ、朝から縁起が良いわね)
加奈の、可愛い桜色の湯飲みには、一本の茶柱が立っていた。
人に話すと、幸運が逃げる、そうマリクから教えて貰った加奈は、ウズウズと、喉から出そうな言葉を抑えるのに必死だった。
そんな彼女の気持ちを汲んで、萌子は、
「さ、食べましょう」
「はーい!」
食卓には、加奈が思った通りの献立が並んでいた。
炊き込みご飯に、豚汁、それに副菜には、木製のボウルに、なみなみと盛られたフレッシュサラダ。
加奈が大好きな、コーンとシーチキンが鏤められ、萌子特製の手作りドレッシングが、真っ赤なトマトや瑞々しいレタスなどの野菜に、網の目のように規則正しくトッピングされ、見ているだけでも食欲が湧いてくる。
フローリングに、ルナのご飯も置かれ、
「頂きます」
「いただきまーす♪」
その合図で、ルナも一緒に食事を始める。
パクパクと、美味しそうに頬張る加奈に、
「もうっ、ほっぺに付いてるわよ」
萌子はご飯粒を摘まんで、加奈の口に入れると、
「だって、美味しいんだもーん」
ニコニコしながら、萌子の顔を見る表情は、この家が加奈に取って、安全な空間であることを、如実に証明していた。
ご飯を食べながら、加奈は昨夜見た、不思議な夢を萌子に話し始める。
「ママって、魔法使いなんだね♪」
「え!」
唐突な言葉に、流石の萌子も、思わず動揺し、箸を落としそうになる。
「ニャニャ!」
それ以上に、ルナは、飲み込んだご飯で、大袈裟なほどむせ返ると、その場で転がり、悶絶していた。
「ルナ、ちゃんと噛まないと、ダーメ!」
加奈は椅子から立ち上がり、ルナの背中をユックリと擦って、優しく抱き、顔を近づけて念を押した。
「……」
それ以上に、心臓がバクバクとなり、不意を突かれた萌子は、お茶を一気に飲み干し、加奈に悟られないよう、呼吸を整えるのに精一杯だった。
そして、
「か、加奈ちゃん。どうして、ママが魔法使いだって、思ったのかな?」
平静を装いながら、萌子は加奈に訪ねる。
その言葉に、加奈は、
「……えっと、ねー」
昨日見た夢を、加奈は、まるで絵本を語るように、夢見がちに萌子に話すと、
(そ、そんな!)
思わずルナを見て、テレパシーで、
『ルナ、これって!』
その言葉よりも早く、
『信じられません、加奈は!』
頷くように、萌子とルナの思考がリンクし、
『もう魔法が使える!!』
魔法の種類では、正確には『アストラル』と呼ばれる高等魔法。
自身の魂を、肉体から一時的に解き放つ、解り易い言葉では、幽体離脱と呼ばれる現象は、そう簡単に出来るものではなかった。
興味本位で、オカルトに耽溺する者達が使おうとすれば、魔境へと至り、正常な精神状態に戻ることが出来ない、そんな危険性を孕んでいた。
だが加奈の状態は、まるで自然体。魔法の行使による反動も一切ない。
そればかりか、自身が無自覚に発動出来るほど、万物の法則や、摂理を一切無視した、規格外の素質。
二人の驚きようは凄まじかった。
「どうしたの、ママ?」
ルナと目を合わせ、静かになった萌子を見て、加奈は、
「ルナなら大丈夫だよ、ほら!」
加奈はルナを抱っこして、お腹をコチョコチョ擦って、いたずらすると、
「ニッ、ニャーン!」
テレパシーが中断され、ルナはこそばゆさに我慢出来ず、身体を捻って、スルッと加奈の腕をすり抜けると、対面するように、彼女の瞳を注意深く見つめる。
「!」
ルナの魔力を宿した両眼には、ハッキリと加奈の周りを覆う、神々しいまでの、金色のオーラに、その眼を思わず細めると、放射線状に勢いよく流れ込んだ。
ルナは堪らず、視覚強化の魔法をすぐに解除した。
「……」
その場でへたり込み、ルナが突っ伏すと、
「ル、ルナ!」
冗談が過ぎたと、加奈が心配そうに、ルナの顔を見るが、
「大丈夫よ、加奈ちゃん」
萌子はルナを抱っこして、加奈に、
「心配いらないわ、ね♪」
加奈に知覚出来ない速さで、治癒の魔法を詠唱し、ルナの視覚を瞬時に回復させる。




