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第2話 夢の中の誓い

 綺麗になった髪を優しく撫でて、萌子が湯船に入るように促す。


 二人で入っても足を広々と伸ばせる、ジャクジー付きの特注品は、マリクがこだわり抜いた、自慢の癒しの場であった。


 お風呂のなかでじゃれ合い、その様子を、お湯が入った、檜の風呂桶に浸かっていたルナが、欠伸をしてノンビリと見ていた。


 少し落ち着いたのか、加奈が萌子に抱き付いて、


 「ママ、『魔法少女まどか☆マギカ』ってアニメ、知ってるー?」


 少し前であるが、深夜に放送された、名作アニメ、そのタイトルを聞いて、


 「ええ、もちろんよ」


 『魔法少女』という単語に、違う意味で反応してしまう萌子であったが、悟られないよう、加奈の嬉々とした顔を見ながら、相槌を打つ、


 「出て来る女の子がね、みんな、カッコイイんだー♪」


 物語を回想して、弓を放つアクションをする加奈を見て、


 「ふふ。加奈ちゃんも、魔法、使いたいの?」


 その言葉に、


 「うん!」


 キラキラした目を萌子に向け、加奈は手から魔法を放つ真似をした。


 萌子は少し考える素振りをして、すぐに、


 「加奈ちゃんなら、立派な魔法が使えるわよ、うん」


 と言って、加奈を抱き寄せる。


 「ホント、ママ?やったー♪」


 空想の世界と現実が、まだ曖昧な加奈にとって、それは冗談ではなく、真実として受け取るほどの、純粋な心で、萌子の言葉を受け取っていた。


 萌子本人も、単なる親子のコミュニケーションで発した言葉とは、少し意味合いが異なるものであったが。


 お風呂を上がり、早めの就寝、マリクがいた時は、一人で寝ていた加奈であったが、父親の海外赴任は、流石に堪えたのか、今は、萌子と一緒に寝ることが日課となっていた。


 明かりを落とし、暫くは、たわいのない会話をしていたが、徐々に睡魔に襲われ、加奈は夢の世界へ。


 そんな彼女を、萌子は愛しい眼差しで、加奈の身体を優しくポンポンと触れ、安眠のおまじないを掛ける。


 加奈は不思議な夢を見ていた。


 自分の身体から抜け出し、フワフワと浮遊している。


 自分が寝るベッドには、間違いなく、自分が寝ていたが、隣に萌子の姿はなかった。


 何処にいるのだろう、そう思って、ふと天窓に視線を向けると、ホウキに腰掛け、空中に浮かび、夜風に当たる萌子の姿が目に映った。


 (え?ママ!?)


 夢の世界とはいえ、自分の母親が、物語に出て来る、魔女のようなシチュエーションに、


 (夢なのに、面白ーい♪)


 どうせ夢なら、思いっきり楽しもうと思った加奈は、萌子の側へ行く、と念じた。


 天井をすり抜け、赤い満月、最近では『ストロベリームーン』と言われる、綺麗なお月様がお出迎えするように、煌煌と辺りを照らし、加奈は空中で、障害物がない絶好のロケーションで、その月の輝きを見ていた。


 そして、萌子の元へ、泳ぐように近付いていった。


 「セレーネ、どうしたのですか?」


 萌子の肩に座っていたルナが、人の言葉を話し、クルッと回転して離れる。


 (あ!落ちちゃう!)


 言葉を話したことよりも、地面に落ちることを心配した加奈は、思わず大きな声を上げる。


 しかし、その心配は杞憂であった。


 ルナの背中から、透明な羽根が現れると、空中で音もなく留まっていた。


 (え?……ル、ルナ)


 展開に付いて行けない加奈は、目を丸くするが、二人の会話で、気になるのが、


 (ママのこと、セレーネって、どういうこと?)


 突拍子もない夢としか、認識していない加奈は、その名前にハテナ顔をするが、その答えを知るためにも、二人の会話を聞こうと、探偵のように聞き耳を立てる。


 「加奈のこと考えてたの」


 萌子はルナの頬を撫でる。


 ルナは、萌子の考えを汲んだうえで、


 「この世界では、HSPと診断されてますけど、解ってますね、セレーネ」

 「ええ」


 短く答え、


 「どうみても、魔法因子の覚醒です。信じがたいですが」


 ルナが端的に述べる。


 「私の代で消滅したと思ってたけど」


 魔法因子、聞き慣れない言葉に、


 (まほう…いんし?)


 加奈は、何を言っているのか解らず、身を乗り出し、二人の前に立つと、


 「この症状を抑えることは、現代医学では不可能です。やはり、あちらの世界に行く必要がありますが……」


 一瞬、躊躇うも、ルナは最善策を提案すると、


 「ええ、扉を開く必要があるわね」


 扉とは何か、その答えはすぐに、ルナの口から発せられる。


 「異界への門『オネイロスゲート』を開くことが出来るのは、この世界では、貴女だけ……ですが」


 言い淀むルナに、


 「戻って来れる保証は……ない」


 その瞬間、マリクの顔が思い浮かんだ。だが、


 「でも、愛しい我が子の為なら、私は!」


 萌子の強い眼差しに、一切の迷いなど無かった。


 そんな萌子を見て、夢ながら加奈は、その思いに触れ、熱い感情が込み上げると、涙が自然とこぼれ落ちる。


 「解りました、雑事は私が受け持ちます。セレーネは、ご自身の魔力貯蔵にだけ、神経を払っていて下さい」

 「感謝するわ、ルナ」


 ルナを慈しむように、萌子は顔を上げる。


 「セレーネと契約して、この世界まで来たんですもの。そうですね、この国の四字熟語で例えるなら、そう『一蓮托生』です。何処までも、この命、貴女と共にありますわ」


 凜としたルナを見て、


 「ええ、ありがとう」


 もう一度、感謝の言葉を口にする。その光景を見ていた加奈は、再び睡魔に襲われ、本来の、自分の身体へと戻って行った。

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