九話 『二匹の眷属』
「さーて、ものは試しだ…"分裂"!」
俺はさっそく、新たなスキルを試してみることにした。スキル名を唱えると、体から力が迸るのを感じる。すると俺の体から光る物体が出現し、ぽんっ、と分離する。
目の前に小さな光る物体が浮いている。
俺は念じながら、感覚に従いそれに力をこめていく。おそらく今、MPが消費されているのだろう。
ある程度で魔力の注入を止めると、光る物体の中に小さなシルエットが見え始める。
それはぽてっという間抜けな音とともに、地面に落ちた。
そこには、キノコ部屋にいたキノコたちよりもっと小さい、足の生えた毒キノコがいた。ピンク色の傘が特徴的である。
「うーん、なるほど。分裂っていうより、召喚だなこれじゃ。」
小さな毒キノコを眺めながら、俺はそう呟いた。
毒キノコはどうやら自分の意思を持っているようだ。
しかし状況は理解していないようで、周囲をきょろきょろと眺めている。
「知能はそんなに高く無いのか?こめた魔力量にもよるか」
と考察を重ねていると、ふと目の前にステータスウィンドウが表示された。
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【眷属:毒キノコ(分裂体)Lv1】
HP:3/3
MP:2/2
力:1 敏捷:1 知能:2
■スキル
・どくのからだ
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名前の横に眷属とついている。
どうやら、このキノコは俺の部下みたいなもののようだ。
試しに命令を下してみる。
「よし、それじゃあっちに前進。」
命令を受けたチビキノコは、俺が指差した方向にてくてくと歩き出す。
「おおー。よし、そこでストップ。」
簡単な命令程度ならわかるみたいだ。
その後もペットの躾のような感覚で、何個か指示を出してみた。
「ちょっと踊ってみて。」
言われた通り、チビキノコはその場で踊り出す。手がないので、足と体を使った奇妙なダンスを繰り広げてる。
(可愛いなコイツ…)
見た目こそ奇妙だが、命令を精一杯実行しようとする姿に愛着が湧く。ピンク色の傘も何となく愛らしい。
「っと、そういえば、今MPどんなもんだ?」
ふと気になりステータス欄を覗いてみる。
MP:103/123
「あれ、さっき満タンだったよな…てことは20消費して、あのチビキノコ1匹かぁ。」
MPはスキルを使用すると消費し、時間経過もしくはレベルアップによって回復する。
時間経過によるMP回復は比較的ゆっくりで、1時間で2〜3程度だ。
「一体召喚するのに、現状のMPの回復速度だと約半日分…」
あのキノコ1匹では、現状大した戦力にならない。できて精々囮くらいのものだろう。
ひとまず、なるべくMPを込めたキノコを作ってみるか。
俺はステータス画面を確認しながら、再び"分裂"を行う。
手に力を込めると、再び光の玉が出現する。
それに合わせてステータス欄のMPがみるみる減っていく。
念のためMPを20ほど残して止めておく。
すると、光の玉の中にさっきよりは確実に大きなシルエットが見えた。
(込めたMPは大体80ほど…さっきのチビキノコの約4倍)
光の玉の中から輪郭が見え始める。その姿はやはり毒キノコのそれだが、明らかに先ほどよりサイズが大きい。2〜3倍ほどあるだろう。サイズで言えばルーカスよりやや小さいくらいだった。
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【眷属:毒キノコ(分裂体)Lv5】
HP:8/8
MP:9/9
力:4 敏捷:3 知能:4
■スキル
・どくのからだ
▪️レアスキル
・王水
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「ん?レアスキル…?」
またもや初めての記述だ。王水という名前はどこがで聞いたことがある。確か、金属を溶かすことができる強力な毒の名前だ。
生まれてきたキノコをまじまじ見つめる。
見た目は毒々しい、黒と赤のマダラ模様の傘をしている。
仮にその辺に生えてたら絶対食べることはないだろう。
それ以外は他の毒キノコと大差ない。
しかし、生まれつき他の毒キノコとは違うスキルを持っている。
ダンジョンで生まれてくる魔物の中には時折こういった特殊個体がいるのだろうか?
何はともあれ、まずは王水がどんなスキルかが気になる。
「よし、とりあえずそこの壁に"王水"を使用だ!」
生まれてきた中くらいの大きさのキノコ(以下中キノコと呼ぶ)に、王水を使うよう命じる。
中キノコの腹部あたりから、ドバッと毒液が溢れ出る。
その液体が前方の岩肌に着弾すると…
ジュウウ…という音ともに、頑強な岩肌が瞬時に溶けた。
「うおっ!すげー威力…」
これはかなり有用なスキルだ。
しかも、これは現状の課題を解決する光明になるかもしれない。
俺は期待に胸を躍らせると、小キノコと中キノコを後ろに従え、ある場所へと向かうことにした。
・・・
「お、やっと見つけた…リベンジしにきたぜぇ、クソゴーレムちゃんよぉ」
俺が向かった先。それは一度敗走に喫した、鋼鉄のゴーレムのテリトリーだった。
ゴーレムはこちらを捕捉すると、3.4メートルはあるであろう体をズズズと動かし、こちらに向かって前進を始める。
俺の足元で小キノコがすくみ上がり、びしっと足に抱きついてきた。
一方中キノコの方はやる気満々といった様子で俺の命令を待っている。
「おチビはその辺に隠れてな。敵は俺が惹きつける。俺の合図で、中キノコはゴーレムに近寄ってスキルを発動してくれ。」
中キノコがこくり、と傘を縦に振った。
それを確認すると、俺はゴーレムに向かって駆け出す。大丈夫、ゴーレムは攻撃力こそ高いが動きはトロい。
読み通り、俺の動きにゴーレムはついてこれず、緩慢な動きで俺のいた場所に拳を振り下ろす動作を繰り返していた。
「ま、当たったら1発でゲームオーバーだけどな…」
ドシン、という音と共に、拳の振り下ろされた地面が砕け散る。
その威力に恐々としながらも、俺は機が熟すのを待った。
「今だ!」
ゴーレムは俺に気を取られているが、その真後ろに中キノコが忍び寄っている。
俺の合図と共に、中キノコはゴーレムに向かって毒液を射出した。
ジュウウという音とともに、ゴーレムの背面の金属が溶けてゆく。
咄嗟の出来事にゴーレムの動きが鈍る。
背面からの攻撃を察知したようだ。その体が背面の中キノコの方に向き直る。
「流石に一撃じゃ倒れないか…だが…!」
ゴーレムの、鎧の溶けた背面。そこには赤黒い皮膚組織が露出していた。
「よし!中身まで鋼鉄ってわけじゃない!それなら…!」
俺はゴーレムに近づくと、中キノコに向かって拳を振り下ろそうとしてるゴーレムの背面に乗り上がる。
そのまま、超至近距離でスキルを起動する。
「溶けきっちまえ…!!毒酸雨…!!!!」
「____!!!」
地肌に強力な毒を浴び、ゴーレムの体が痛みに身悶えする。肌組織がジュウジュウと溶け出し、赤黒い液体が滲み出てきた。
やがてその体は軋み、ガクガクと震え出す。
そしてーーズズゥンという大きな音共に、ゴーレムの巨体が大地へ倒れ伏した。
「ーーーよぉぉぉし!」
思わず、勝利の雄叫びを上げる。なかなか手強い敵だった。何より中キノコの王水のスキルがゴーレム相手でもしっかりと効果があったのが大きい。
どこからか、隠れていた小キノコが駆け寄ってきて、俺の足元でぴょんぴょんと跳ねる。
どうやら勝利を祝ってくれているようだ。
中キノコはなにやら誇らしげな様子で、ゆっくりとした足取りでこちらに向かってきた。
こいつら、眷属という割には自我が強いな。
達成感の余韻に浸っていると、ステータス画面に新たな通知が届いた。
[眷属に経験値の配分が可能です。配分しますか?]




