七話 『茸の中の蓬』
キノコ部屋から出て数瞬後、ぐっと視界が高くなるのを感じる。
どうやら進化が終わり、体の形が変化したようだ。
人間だった時の目線に近くなったように感じる。
目の前にパッとステータス画面が映し出される。
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【カレオバナタケ Lv.25】
HP:78/85
MP:96/94
力:41 敏捷:52 知能:89
■スキル
・どくのからだ
・毒酸雨
・菌糸変形
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ステータス画面に映る自身の姿に、思わず目を見開く。
そこには、ワンピースを身に纏った、真っ白な肌の少女がいた。
だがよく見ればその肌は人間の皮膚ではなく、キノコの菌糸でできている。
身に纏っている衣服も同じくキノコの菌糸で模られており、全体としてフィギュアの様な無機質な趣きがある。
(キノコで造られた人モドキって訳か…それにしてもこの顔、どこかで…?)
「阿澄そら、か。ぶりっ子タレントの…」
前世の記憶を辿る。思い出した。
その少し幼い顔立ちは、ぶりっ子で有名なタレントの顔に似ていた。
「カミラを演じる時の参考にはしてたが、見た目にまで影響されたか?…どうやら相当参っちまってるみたいだな。」
未だおぼつかない思考で、ぼんやりとそう呟く。
ふと、廊下の奥の方に、数匹の魔物の気配がした。
アンヘルの手下のコボルト達だろう。
普段はこの部屋に勝手に入ることを禁じられているが、先ほどの騒動に流石に異変を察知したのだろう。
気配は5〜6匹ほどだ。
ーー腕試しには丁度いい。
自分のステータスの、スキル欄に目を向ける。
いくつか試してみたいスキルがあった。
廊下の先にコボルト達の姿が現れる。
「おい、何だあいつ…人間か?」
「貴様!どこから入ってきた!アンヘル様はどこだ!」
各々吠え始めたコボルト達をじっと一瞥し、カミラはワンピースを腹の辺りまで捲り上げた。
脚部、次いで下半身が視界に映る。
あくまで人間を模した造形というだけで、体の作りは複雑ではない様だ。生殖器も確認できない。
そして、その腹部、胃の辺りには、アンヘルから開けられたものより少し大きくなった穴が、背中まで貫通してぽっかりと空いていた。
カミラは本能的に、何をすればスキルが発動するかを理解していた。
「お、おい、あの人間、腹に穴が空いてやがるぞ…!」
「なんだ、何かやるつもりだ!お前ら、やっちまえ!」
狼狽えながらも、こちらに攻勢を仕掛けようと駆け出すコボルト達。カミラはそれを睥睨しながら、短くスキルを唱えた。
「…毒酸雨」
瞬間、カミラの腹に空いた孔から、前方へと勢いよく毒液が噴出した。
放射状に広がったそれは、向かってくるコボルト達の全身に容赦なく浴びせかけられる。
「がっ、ぎゃああああ!!」
コボルト達の悲鳴が木霊する。
見れば、毒液が当たった箇所は体毛ごと溶けて無くなっており、目の前には散弾銃がばらまかれたかのような光景が広がっていた。
あたりどころが悪かった数匹はすでに息をしていない。あまりにも凶悪なその性能に、カミラ自身も舌を巻いた。
「ステータス差もあるだろうが…こりゃ酷い。」
カミラはコツコツと踵を鳴らして歩き出す。
先ほどの一撃で、コボルト達は殆ど一網打尽にされてしまっていた。
微かに息をしている個体もあるが、先は長くないだろう。
「さあて、どこを目指そうか。」
そんな惨状すらどうでもいいというように、カミラは呑気にそうこぼした。
通路を通り、コボルト達の寝床を通り抜けていく。
しばらく歩みを進めると、ぽっかりと広い空間に躍り出た。
すると、洞窟のはるか下、自分の足元の方から、強力な気配を複数感じた。
心なしか、誘われているようにも思える。
じっと足元を睨みつけると、カミラは意を決したように呟いた。
「なるほどね。より強いものは、より深層に。それがこのダンジョンの仕組みってわけだ。…受けて立ってやるよ。」
カミラは再び歩き出した。今度は、ダンジョンの深部を目指して。
「…お前ら全員倒して、俺がこのダンジョンの頂点に立つ。そんで、外の世界をルーカス達に見せてやる。
…見守ってて、くれたらだけど。」
カミラは、小さな歩幅で、一歩ずつ歩みを進めゆく。
そのとき、向かう道の奥からごおお、と一際大きな風が吹いた。
まるで、ダンジョンが彼女の誕生を祝福するかのように。
真っ白な少女は、その深い暗闇の中に少しずつ溶けていくと、やがて完全にその姿を眩ました。




