六話 『更なる進化』
[種族進化可能 毒キノコ→キノコマン]
[進化を行いますか? はい/いいえ]
ティロン、っと音がして、ステータス画面に初めての通告が表示された。
もう何も考えたくない。半ば放心気味に、俺は「はい」を選んだ。
すると、全身が眩い光に包まれる。
暗い室内を照らした光が一瞬、その惨状を俺の視界に叩き込んだ。
部屋には、未だピクピクと四肢を震わすアンヘルと、そこら中に散らばる何かがあった。
それは無惨にも全身から体液を吹き出した、キノコたちの死骸だった。
もはやどれがルーカスか、皆目見当がつかないほどに、(それら)は部屋中に散らばっていた。
視界に映った景色を脳が処理する前に、俺の目の前には新しいステータス画面が表示されていた。
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【キノコマン Lv.15】
HP:28/34
MP:40/48
力:19 敏捷:26 知能:82
■スキル
・どくのからだ
・毒酸雨
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画面の端には、新しくなった自身の姿が俯瞰視点で映っている。
見れば、今までの姿に大きな差異がある部分がある。
両腕が生えているのだ。
四肢が揃い、その見た目はますます滑稽なものになっていた。
だが、全身に沸る力を感じる。
ちら、とアンヘルの方を見やる。
情けなく項垂れたままの獣に、一歩一歩踏みしめるように近づく。
「みんな、連れてってやるからな…」
新しく生えた手を、アンヘルの顔面に向かって高く振りかざす。
ゴッ、と硬い音がして、アンヘルの目が見開く。
「ぐがっ…!!あっ…?」
間違いない。着実にダメージが入っている。
その鼻っ面からは血が吹き出ている。
ゴッ、ゴッ。
「あぁあ…かみらぁあ…」
ゴッ、ゴッ、ゴッ。
「か……み…ら…ぁ…」
そして、最後の一撃を振り翳した瞬間、俺の耳は、確かにその言葉を聞き取った。
「あ…ぃし…て…る…」
「…ーーふざ、けやがって!!!」
トドメの一撃が入ると、アンヘルはぴくりとも動かなくなった。
しかし、もうそんなことはどうでも良かった。
あれだけ心の中で憎んだアンヘルまでもが、俺の心を激しく揺さぶっている。
何なんだ。いったい俺は何をしているんだ。
異世界に急に飛ばされて、と思ったら自分は毒キノコで。
冷静に、この世界の基準で考えれば、俺は数匹魔物を倒しただけだ。
それも、冒険者なら何食わぬ顔で片付けるような低級の魔物たちだ。
数匹の毒キノコと、野犬もどき。
「ただの、キノコ、だ…。」
それが、一体何だと言うのだ。暗い洞窟のなかで、その問いかけに答えは返ってこなかった。もはやそこに知性を持った生き物は、何一つ存在していなかった。
洞窟に跳ね返った自身の声が、その事実をひしひしと俺に感じさせた。
[レベルアップ!]
静寂を切り裂いたのは、その日何度も聞いた通知音だった。
その音を皮切りに、何かが弾けたように、それは再び鳴り響き出した。
[レベルアップ!]
[レベルアップ!]
[レベルアップ!]
[レベルアップ!]
[レベルアップ!]
[レベルアップ!]
[レベルアップ!]
予想通り、アンヘルの実力はコボルトの中でも相当なものだったようで、その通知は止まることを知らないかのようになり続けた。
[レベルアップ!]
[レベルアップ!]
[レベルアップ!]
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[レベルアップ!]
[レベルアップ!]
[レベルアップ!]
[レベルアップ!]
しばらく、ただ茫然とその通知を聞き流していると、本日2度目の、ティロン、っという通知音が聞こえた。
[種族進化可能 キノコマン→カレオバナタケ]
[進化を行いますか? はい/いいえ]
迷わずはいを選択する。
特に拒む理由もなかった。
体が輝きだす。
自ら発されている光によって、再び洞窟の惨状が照らし出されそうになる。
慌てて、足を動かす。
もうあんな景色を見るのはごめんだ。
べちゃり、べちゃりと、一歩踏みしめるたび何かを踏みつける。足の裏に伝わる感触をなるべく無視して、俺はその場から、逃げるように飛び出した。




