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毒キノコ転生〜地下ダンジョンに閉じ込められた最弱の魔物は、チートスキルと謀略を駆使して最強最悪の魔族を目指す〜  作者: さかなかさ
一章 『毒を喰らわば命まで』

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五話 『傘を喰らわば命まで』



「アンヘルさまぁ…もっとぉ…」


「あぁ、いいぞカミラ…ぶっ飛びそうだぁ…」





ここ数日、アンヘルはキノコ部屋に入り浸っていた。

お目当ては勿論カミラだ。



喋るだけでなく、甘く囁き、自分を求め、更にはアンヘルに都合よく消化液を排出する。




毒キノコの声帯は中性的で、念じて聞けば雌のそれに聞こえなくもない。




あまりに都合の良いカミラという玩具に、アンヘルは寝る間も惜しんで蕩けていた。




手下のコボルトの間では、リーダーは毒キノコと恋仲になった、などという噂まで流れ始めていた。




「ねぇ、アンヘルさまぁ。わたしぃ、もっとアンヘル様が楽しくなれること思いついたの。」



「んん?なんだ、言ってみろカミラ」




アンヘルの口調は甘ったるい。カミラに負けず劣らずだ。自分でやっておいてなんだが、なかなか悍ましい光景である。

  



「キノコたちの毒を混ぜ合わせて、もっともっと刺激の強い毒を作るの…今以上のヤツ」



「おお、そりゃいいが…そんなこと可能なのかい。」


「そこはぁ、私に任せてほしいの。すっごいの作っちゃうんだから。」




言いながら、カミラは祈るような気持ちであった。

今までの行動も、馬鹿みたいな痴態も、このお願いを通すためのもの。



(さぁ、作戦はこっからだ。うまく踊ってくれよ、スケベ犬…)





・・・






「つーことで、作戦開始だぜ、ルーカス。」


部屋の隅に喋りかける。


もうすっかり置物のようになっていたきのこの山がそこにはあった。


「…驚いた。とっくに気が狂ってしまったかと思っていたが…」



すると、その中に一匹、返事を返すものがいる。

ルーカスだ。

このキノコたちの中で、唯一会話が可能な元・人間の冒険者。




「俺が?おいおい、絶好調だっつーの。お盛んなバタードッグとも、今じゃ気の合う友達だ。」



「どうやらそうみたいだな…それで?作戦というのは」


「あぁ、あんた、この部屋のキノコたちの毒の種類、なんとなく分かるか?」


一概にキノコの毒と言っても種類がある。

神経毒、麻痺毒、幻覚を見せる類の毒。

キノコによって千差万別だ。


「まぁ、なんとなくはな。しかし、毒殺でも考えてるんなら無駄だぞ。」


「ああわかってる。消化酵素だかなんだかわからんが、コボルトはキノコの毒を全部解毒しちまう。だが作用の全部が消されるわけじゃない。酒飲んだみたいに酔っ払ってるのがその証拠だ。」


そのまま俺は言葉を紡ぐ。


「そこで、だ。ここにいるキノコの中で持続時間と中毒性が高いものを洗い出す。そいつらを混ぜ合わせてより効果の高い毒を作る。」


「…ふむ。だか一時的に気絶させたとして、私たちじゃアンヘルにトドメを刺すことはできないんじゃないか?」


「あぁ、それは…」





そうして俺はルーカスに作戦の全容を伝えた。




明くる日。




いつも通りアンヘルは檻の中に入ってくる。

下卑たよだれを垂らしていて、どうやらすでに一服やってきた後のようだった。




「アンヘルさまぁ。昨日お話したとっておきのやつ、試してみませんかあ?」




この口調にも慣れたものだ。そう思いながら、カミラは昨日作り上げた毒入りの瓶をアンヘルに渡す。




「おぉおぉ、そりゃいい、味見させてもらおうか」


 

すでに酔っ払っているアンヘルは、なんの疑いもなく毒を飲み干した。


「んー?全然効いてないぞぉぉ、カミラぁ」


「んもうアンヘルさまぁ、ここからですよぅ。」



あまりに気色の悪いやり取りに、視界の端で一際でかいキノコ(ルーカス)が体を震わすのが見えた。野郎、笑いを堪えてやがる。



後で覚えてろよ。



そう強く思いながら、俺は演技を続けた。



・・・



「おし、もう充分だろ。」



1時間と少しあと。


そこには、もはや生者のものとは思えぬ虚な瞳で、虚空を見つめてニタニタと笑うアンヘルがいた。


四肢を地面に放り出し、全身はだらしなく弛緩している。


「あぁあぁ…あうあ…」



言葉にもならぬ音の羅列を発するアンヘルを無視して、俺はとどめを刺すためその口元に近づいた。



「これで、あとは大量の消化液を飲ませれば…っと。おい、お前も手伝えよルーカス。」




クソ野郎(アンヘル)に空けられた穴から、どほどほど溶解液を吐き出し、その口元に液体を流し込んでいく。


倒し方はシンプル。


消化液による、窒息だ。



どんな生き物でもこれに敵うやつはいないだろう。



__すると、端のほうでその様子を眺めていたルーカスが、数刻ぶりに声を発した。





「無駄だよ、カミラ。それじゃ、いつまで経ってもアンヘルを倒せない。」




と思えば、そんなうわ言を並べてきた。




「あぁ…?お前、今更何を…」




「ダンジョンとは。」


俺の言葉を遮るように、ルーカスが急に語り出した。



こんな時に何を、と一瞬呆れたが、その声は普段よりさらに凛として、思わず気押される。



「いいかい。元冒険者として有難いアドバイスをするよーーダンジョンとは、そもそも__強大な魔族が作り出した大きな"卵"だと言われているんだ。」




アンヘルの言葉は澱みない。何か口調に、確信めいたものがある。




「ここで生まれた魔物たちは2つの特殊なルールを持つ。」




アンヘルは、澱みない足取りで立ち上がると、こちらに向かって歩きながらこう続けた。




「1つ、彼らは自分たちの能力を"ステータス"として確認することができる。

そして2つ。魔物間の戦闘において、格下の魔物からの攻撃は、格上の魔物には無効化される。つまり、君の消化液でアンヘルが窒息することはない。」




「なっ…!?だったら、なんで今の今までそれを言わなかった…!?」


俺は思わず疑問をぶつけた。この野郎、何が狙いだ?今更裏切りなど考えづらい。


実はストックホルム症候群でした、なんて言われたら話は終わりだが。




「この2つのルールはすべて、"事故"を防ぐためにある。

自分の実力がわからないまま強い魔物に挑めば、簡単に死ぬ。ステータスがわかればそれを防げる。」




ルーカスは、狭い室内に剥き出しの岩肌の近くで足を止めた。そこは他の壁面と比べても一層凹凸が強く、ゴツゴツとした岩肌が除いている場所だった。




「逆に強い魔物でも、寝込みを襲われれば簡単に死ぬ。ならば格下の魔物の攻撃は無効にすればいい。ーーで、結局それはなんのために?」




「…順当に、強い魔物だけが、生き残っていくため…?」




まさか。頭の中で、何となく嫌な予感がする。




「おお、察しが早いね。海にいる魚の一種…鮫ってやつはね、お腹の中で何匹も赤ちゃんを産むんだ。でも、産まれてくるのはたった一匹。」




「__何でだと思う?」




薄々察しがついてきたが、俺は黙ったままだった。なんとなく、こいつが何を言いたいのか分かってきた気がした。




息を呑む俺を前に、ルーカスは場違いに明るいトーンで、こう続けた。



「他の赤ちゃんは、その一匹が、全部食い殺すんだ。海に解き放たれるのは、他の赤ちゃんの栄養をぜーんぶ、ぜーんぶ吸い取った___"強い一匹"だけ。」



そこまで言うと、ルーカスはおもむろに自分の傘を、側の岩肌に当てがう。


「おい…何をしてる?」



「ここは、蠱毒の壺の中なんだ。最後には一人にならなくちゃいけない…それと、もう一つアドバイス。」



ルーカスは一呼吸置くと、覚悟のこもった声でこう続けた。



「毒キノコの弱点はあたまの傘。ここが胴体と離れると簡単に命を落とす。…やっぱり、先に言わないでよかったよ。君はコレ、止めようとしただろうし。」




ずり。ずりずりずり。

ルーカスが岩肌に、傘を擦り付ける。

その動きはどんどん加速し、みるみるうちに傘は削れていく。




「ルーカス!もういい、分かった!!いますぐそれを止めろ!!」




人間における切腹のようなそれは、キノコからして見るに耐えない光景だった。本能が、その行為を恐ろしいものとして認識していた。



目の前の男は、自主的に命を落とそうとしている。

否、正確には__




「…がっ…はぁ…君の、ことは、よく知らない。」




息が絶え絶えになりながら、ルーカスは俺の制止を振り払うように喋り続けた。あたまの傘はもう半分も削れていて、胴との付け根が露出している。




「__けれど、ここ数日見ていて思った。君には、全てを投げ打ってでも、自分の生命を輝かせようとする心がある。それを僕は、もうほとんど失ってしまったが…」



「おい…ルーカス…おい…なぁ…」


「…君には"強い一匹"になる資格がある。この地獄を出て、生きていく資格が。」



ルーカスの動きはすでに止まっていた。その体は地面に崩れ落ち、アンヘルと同様だらしなく転がっている。しかして、発せられる言葉には強い意志がこもっていた。



「アンヘルを倒すため…君の糧として…僕を…」



それだけ言うと、ルーカスは先ほどまでの演説が嘘のように、言葉を止める。


「…くそっ…畜生…なんでだ…俺のことを何も知らないアンタが…勝手に…」


口から恨み節が溢れでる。後ろでアンヘルが呻いているのが、なんだか無性に頭に来る。


だが時間には限りがある。アンヘルがいつ意識を取り戻し始めるか分からない。



「あぁっ、クソっ、クソったれ!!持ってってやるよ!!お前の、魂も記憶も!!絶対忘れねえ!!」



「………そうか、それは嬉しいな…母に、感謝を…ありがとう、と…」



「あぁ分かった!!分かったよ!くそっ…」


「僕だけ、じゃ足りない…あの子たち、も…」


そう言われて、ふと周囲を見る。


普段は部屋の隅で怯えているだけのキノコたちが、気づけば俺の周りに集まってきている。


「この子達も…皆、君の役に立ちたい、って……」


わらわらと、集まってくるキノコたち。そのどれもが俺の方に体を向け、じっと何かを待っているようだった。


「あり…が…とう…それじゃ、とどめを…」


そう言うと、ルーカスはそれ以上何も言わなくなった。生命の灯火が、急速に萎んでいくのが、何となく分かった。


「くそっ…があああああ!!!!」


自分を奮い立たせるように吠える。ルーカスの、わずかに残った灯火を、俺が吹き消すのだ。

今から、俺は初めて人を殺す。


そんな恐ろしい脳内変換を掻き消すように、俺はなるべく大きな声を上げながら___ルーカスの傘を、思い切り蹴り飛ばした。


ぐしゃ、と何かがひしゃげた音がして脳内にバカみたいな通告音がよぎる。


[レベルアップ!]



「うお、うおおおおおおおああ!!!」


その通告音すら振り切るように、俺は他のキノコたちも蹴り飛ばした。だが、あれだけアンヘルから逃げ惑っていたキノコたちは、全く動くそぶりすら見せなかった。ただ大人しく、自分たちの命を捧げようとしている。



「がああああああ!!!ああああああ!!!」



[レベルアップ!]

[レベルアップ!]



「あああ…ううっ、がっ、おえっ………ご…め…」


[レベルアップ!]

[新しいスキルを習得した]

[レベルアップ!]



「ごめん…ごめん、なさい……うぷっ…」



[レベルアップ!]

[レベルアップ!]



「ごめん…ごめ…………」



……



………



[種族進化可能 毒キノコ→キノコマン]



[進化を行いますか? はい/いいえ]




今日から毎日20時に投稿します!

応援いただけますと幸いです…!

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