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毒キノコ転生〜地下ダンジョンに閉じ込められた最弱の魔物は、チートスキルと謀略を駆使して最強最悪の魔族を目指す〜  作者: さかなかさ
三章『マテーラ村防衛編』

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四十話 『紡ぐ』

「カミラ様より通達です!-ネームドレスに接敵した、と!」


「了解ですぅ。」


エルフの報告を聞き、プラムは思わずこぶしを握り締めた。

地平の向こうでは、いまだセズールとアンヘルの一騎打ちが続いている。


アンヘルはスキルを駆使して何とかやり過ごしているもの、戦局は一方的だった。

少しずつ傷を負うアンヘルに対し、セズールの体にはいまだ傷一つついていない。


配下のエルフが言葉を続ける。


「分(・)配(・)についてはサクラ様に一任する、とのことです!」


「…分かってる、ですぅ。打ち合わせた通りで、変わりないですう」


エルフはそう報告すると、再び思念通話のため瞼を閉じた。


刻一刻と変わる状況を都度報告するため、各拠点の伝達役たちは一蓮托生で、思念通話の伝達に全神経を集中させていた。


「…カミラ様。」


サクラは頭上に広がる青い空を眺めながら一人呟いた。


自分の主は、いつだって弱者にやさしかった。眷属の所持上限が決まっている中、最初に少ない魔力で造られたカミラは、自身の弱さにさいなまれることが多かった。


主が自分を切り捨てないことが分かっていたからだ。ステータスが上昇し、その気になればいつでも眷属を作り直せる状況になっても、カミラは最初期に造った6人の眷属を誰一人切り捨てることなく従え続けていた。


毒キノコ族の最大の特徴ともいえる、分裂による眷属の増殖というメリットすら捨てて、カミラは眷属のことを家族のように大切にしていた。その優しさに触れ、いつも何か返せないか、とサクラは考えていた。


主の記憶から、その好みらしい甘ったるい喋り方を真似するようになった。主の優しさを弱点にしないよう、非情な判断が必要な場面では率先して自らの手を汚した。


襲い来る冒険者を初めて手にかけたあと、サクラは1週間ほど碌に眠ることができなかった。自身の中に宿るカミラの倫理観がその行動を強く戒めたからだ。


それでも。それでもなお。


結局、カミラは今、自身の命を危険にさらしてまで、役割を遂行しようとしている。


「私が、もう少し強かったらなあ…」


死に物狂いで鍛え上げたスキルも、結局はレアスキルに遠く及ばない出来損ないだった、とアンヘルの姿を見つめながらサクラは一人自責した。


頭の中によぎる負の思考を振り払うと、サクラはカミラの命に従えるように、戦局を俯瞰し始めるのだった。


・・・


「てめえらッ…!何考えてやがる…!?」



迫りくる強大な影の元、獣人族の精鋭たちは狼狽えながらエルフたちに詰め寄った。


「クソッ…こいつら全員、気狂いか!?」


「お、おい、あれ…!来るぞ!!」


強大なオーラを纏うそれは、よく見れば人の形をしていた。影のように体にまとわりついていたのは古びた漆黒の外套。その顔は長く伸びた髪で見えないが、体つきは女性的である。その影は、突如として走り出すと、恐ろしいほどの速度で加速し--モラニの元へと襲い掛かった。


「グオオッ!!」


「モラニ様!!」


「くそ、貴様ら…初めからグルだったのか!!」


「グルなんかじゃねえよ。」


「ありゃ近くにいる強い魔力を放ってるやつを見境なく襲ってるだけだ。」


「てめえ、何ぬかしてやがる!」


獣人族が怒りに任せカミラに襲い掛かる。


その攻撃をカミラは躱すことなく受け流した。

スキルで極限まで分解された体に、獣人族のサーベルが振り切れる。


「モラニにゃ到底勝てねえが、アレーーネームドレスはエルフ族お墨付きのバケモンだ。ほら見てみろよ。」


「ありゃあもう長くないぜ。」


「--!こんなことをして、いったい何が狙いだ!貴様ら、やはりオーガの手下か!」


「そう単純じゃあねえよ、言ったろ、これはプランB 。欲しいのはあんたらの力ーーいや、正確にはその経験値だ。」


「……!?」


獣人族の副官は、脳内でその言葉の意味をかみ砕いた。やがて思考は一つの結論を導き出す。


「眷属への、経験値の分配か…!」


「察しがいい。」


村への援軍はもはや間に合わない。

だが、直接人員を割かずとも、支援をする方法が一つだけ存在する。

カミラがモラニを倒せば、莫大な経験値を得ることができる。


そしてその経験値をカミラ自身が受け取るのではなく、その眷属に再分配することで村への実質的な援軍とする。だが、副官は作戦の致命的な欠点に気づいた。


「貴様ごときのステータスでモラニ様にとどめを刺そうなどと、笑わせるな!!糞、バカの命知らずが…!」



迷宮の法則(ルール)の一つ。ステータスに格差がある魔物同士の戦いでは、上位者への干渉の一切は無効化される。


そして経験値はとどめの一撃を与えたものにのみ支払われる。どれほどモラニが瀕死でも、攻撃が通らなければ何の意味もない。


副官は歯噛みした。常識も知らない愚かなエルフによって、自身の主が意味もなく命を落とそうとしているのだ。だが、カミラはその言葉を聞いてなお不遜な態度を崩さなかった。


「知ってるよ、そんなの。…だからまあ、こっからが賭けだな。」


カミラは、何かの意思を固めたように、目を瞑った。

そのまま天を仰ぎ、口を開いた。


「私は、獣人族首長ドラフ=シャヴァンヌの威光に強く敬服し、その御力を実感して感銘を受けた。」


まるで小馬鹿にしたような、おどけた口調で、カミラはそう喋り出す。


「…!?」


「ーー私、カミラは、ドラフ=シャヴァンヌの眷属に下ることを表明する。」


突拍子もない、戯言のような言葉。

だが、迷宮はその言葉を聞き逃さなかった。

こお、とカミラの体に光が宿る。


(ーーやっぱり。)


リュドガーが自身の眷属になった時、カミラは違和感を感じていた。強く心から願うだけで、別の種族の眷属になることが出来る。


眷属になることの意義や効果を、カミラは詳しく知らない。だが、明確な利点が一つだけあった。


(土蜘蛛に、アンヘルの攻撃が通ったのと理屈は同じ。)



「ま、まさかーーー貴様、ドラフ様の威光を利用して…」



震える副官の声を無視し、カミラは自身の腹部に意識を集中させた。


狙うタイミングは一瞬。

ネームドレスがモラニにとどめを刺す直前。

そのタイミングで、最大出力の攻撃をモラニにぶつける。


目を向ければ、圧倒的な力の前に、モラニはもはや虫の息であった。全身からは夥しい量の血を流し、その足は立つのもやっとな様子で震えている。



「グオオオオオオ!!!この俺が、こんなところで…!!」


モラニが大声で吠える。歴戦の勇の遠吠えは、死に体とは思えぬほどの迫力を持っていた。だが、そんなものはお構いなしとばかりに、ネームドレスの猛攻がモラニを襲う。両の手に握られた双剣が、モラニの前身を切り裂く。


「ガアアアアアアアアアア!!」


その攻撃をもはや避けることもなく、モラニはネームドレスに量の手を振りかざした。

ネームドレスはそれを躱すと、その右腕を容赦なく切り落とした。



スパンっという音とともに腕が方から落ちると、流石のモラニの動きも止まった。

ゼエゼエと肩で呼吸をし、その双眸はまっすぐにネームドレスに向けられている。


そして、そこにゆっくりとネームドレスが近づいていく。

その右腕が高く振りかざされ、モラニの首を落とそうとする寸前。


「ーー魔毒砲」


夥しいほどの魔力が込められた毒液の砲弾が、虎頭の魔物を襲った。


そうして、モラニの体はカミラが放った毒液によって包み込まれた。


「グ、ガアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


毒液の中で、あまりの激痛にモラニが身もだえる。

全身の傷から毒液が侵食しているのだろう、あたりにできた毒の沼の中でモラニは数秒の間のたうち回り、やがてぱたりと動くのを止めた。


「ぜえ…はあ…」


あたりを、先ほどまでとは違う異質な静寂が包み込んでいた。

カミラは肩を上下させて息を整えようとしていた。


先ほどの砲撃に、カミラはほとんどすべてといっていい量の魔力を込めていた。


(やった...のか…)


ふと、暗闇の向こうから、ネームドレスがこちらに体を向けるのが見えた。

この場でモラニの次に力があるものは誰なのか、彼女自身はカミラと判断したようだった。


背後を見れば、主をなすすべなく失った獣人族たちがいた。既にその周囲に散らばっていたエルフたちは無残な姿になっていた。彼らは最後まで自身の役目を全うした、と、カミラは内心でその働きを労った。



静かな怒気をはらんだ視線が、四方八方からくまなくカミラを襲った。

じりじりと、その具現化した怒りがカミラの周囲に近づいてくる。


(まだ、まだだ…あと、もう少しだけ…)


魔力切れで朦朧とする視界の中で、カミラは念じた。


先に動いたのは、獣人族たちだった。何かが決壊したかのように、雄たけびを上げながら屈強な戦士たちがカミラに突撃を始めた。


そしてそれに呼応するようにして、ネームドレスも駆けた。


全員の牙が、剣が、カミラに差し迫るその寸前。

脳内に、場違いに明るい通知音が鳴り響いた。



[眷属に経験値の配分が可能です。配分しますか?]



(ーー届け。)



カミラはそう祈りながら、力なく微笑むと、意識を手放した。


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