↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
毒キノコ転生〜地下ダンジョンに閉じ込められた最弱の魔物は、チートスキルと謀略を駆使して最強最悪の魔族を目指す〜  作者: さかなかさ
三章『マテーラ村防衛編』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/41

三十九話 『図鑑に載っていない魔物』

セズールとアンヘルが一騎打ちを始めたころ。


獣人族の援軍を擁したカミラ一行は、白狼の背に乗り帰路を急いでいた。

そのカミラに、エルフの一人が慌てた様子で近寄る。


「カミラ様!村より連絡が…!」


そしてカミラはセズールが戦場に現れたと報告を受ける。


「さすがに慎重だったな、一日様子見に使うとは。まあ、こっからは時間との戦いだ。」


「ハッ!目的地に向かい、各中継地点のものと連絡を続けております!引き続き進路を案内いたします!」


伝令役のエルフとカミラの会話を、耳をそばだてて聞くものがいた。


ドラフの配下にして第二の眷属、モラニである。

虎頭の獣人はその様子を伺いながら、思索にふけっていた。


(やはり、彼らは安全な道を知っている。これもエルフ族の魔力感知の賜物か…)


獣人族とオーガ族の領土の境界。その間には、どちらの土地でもない、いわゆる空白地帯があった。両軍がその土地を進行しない理由は一つ。


正体を誰も知らない、ネームドレスと呼ばれる強力な魔物。


その縄張りがあるのだ。

その魔物は空白地帯の外に出ることはなく、何かを守るかのように徘徊を続けている。


「カミラ殿。」


先を急ぐカミラに声をかける。


「ああ、モラニさん。今回の件、恩に着るよ。」


話しかけられ、カミラはそう反応した。

その言葉に、モラニは軽い会釈で返す。


(…ドラフ様からの命は南方のエルフ族をオーガ族から守り抜くこと。だが、場合によっては-ー)


モラニはドラフの言葉を心中で反芻した。


『もしエルフ共が烏合の衆だったら、モラニ、分かってるな?私達に一番必要なのは南方への安全な移動ルート。それさえ分かれば、後は用なしだ。』


モラニはカミラから溢れ出るオーラ、そしてその魔力を改めて確認した。

強い。一介の魔物としては十分すぎるほどの魔力量。

だが、同時に自身の敵ではないことも、感覚で理解していた。


戦えば確実に、目の前の魔物を殺すことができる。それほどの実力差がある。それはカミラも理解しているだろう。


仮にエルフの集落にカミラ以上の実力者がいないのであれば、実質的な支配権をモラニが握り、獣人族の新たな領土とすることまで、ドラフ達は画策していた。


「此度の戦、敵将セズールは私が引き受けよう。幾度か刃を交えたが、その度逃げられてうんざりしていたところだ。」


「はは、そりゃあ頼もしい。」


モラニの言葉に、カミラも笑顔を返す。


軽い口調ではあったが、事実、モラニの実力はセズールに並ぶか、それ以上のものであった。


『裂牙』の二つ名で深層にその名を轟かす男の勇は、カミラでさえリュドガー伝いに把握していたほどである。


一人で何千の軍を相手取った、要塞を壊滅させた、など、一部噂に尾ひれがついたものもあるが、概ね正しい。


橙と黒の毛皮に覆われたその体軀は、獣の俊敏さと魔族としての強靭さを併せ持ち、 足取りには一切の無駄がない。獲物を狩る虎そのものの重心移動、呼吸のたびに波打つ筋肉、そのどれもが完成された機構のようだった。


それら全てが確かな実力をモラニから感じさせていた。カミラは悟られないように、ごくりとつばを飲み込んだ。


すると、様子をうかがっていたエルフが横から口を挟んだ。



「カミラ様!第三中継地点から連絡が!ここから、進路をやや西に修正いたします!」


先ほどから、エルフたちは細かく進路の変更を提案していた。

その様子を見たモラニが口を開く。


「例の魔物を避けるため、ですかな?しかしエルフたちの感覚には恐れ入ります。」


「おっしゃる通りで。いや、彼らがいなかったら、ここに来るまでに何度死んでいたことか。」


カミラは心底そう思っていた。各中継地点にいるエルフたちは密に思念伝達を行うことで、空白地帯の中に安全なルートを作成し、マテーラ村までのネットワークを構築していた。


「カミラ様!度々の報告失礼いたします…!進路を、僅かに東に修正すると!」

配下のエルフが再び報告を入れる。


その光景を眺めながら、ふと、モラニは疑問を感じた。


「ところでカミラ殿。敵将セズールとは、既に交戦状態にあると。村には、それに対抗できるような力を持つものがいるのですか?」


「…ああ、耐久力が売りのやつが一人…いや、一匹いますね。デカい狼なんですが。」


「ほう、それはぜひともお目にかかりたい。セズールと渡り合えるほどの実力者で…?」


「いやあ、流石にそれは厳しいでしょうね。」


カミラはどこか遠くを見るような表情でそう返した。


「まあざっくりとした見立てですが、スキルを駆使しても半日耐えればいい方でしょう。」


「…?いや、いまの速度で半日では、流石に村にまでたどり着けぬのでは…?」


疑問は、少しずつ困惑に変わる。

目の前の男は何を言っているのか。セズールが前線に出ているというのに、カミラからはさして焦りを感じられない。その事実がモラニには不自然に思えた。


「ええ、村までは、どれだけ飛ばしてもあと2日はかかります。」


「…?それではーー」


その後の言葉が続くよりまえに、異変が起こった。

先ほどから報告を続けていたエルフが、二人の間に割り入ってきたのだ。

その顔はどこか高揚しているように赤らんでいた。


「カミラ様!!」


ぞわりと、モラニの毛が逆立った。

戦場で幾度となく死線を潜り抜けてきたモラニの本能が、警鐘を鳴らしていた。

——このエルフの顔に、覚えがある。


開戦の直前、突撃を命じられた兵が浮かべる顔だ。生還を諦め、それでも前へ進むと決めた者だけが纏う、あの死に顔。



「間もなく目的地に到着いたします!目標ーー目の前!」


「…は?」


気づけば、辺りには不自然なほどの静けさが満ちていた。虫の声も、鳥の羽音もしない。ただ、空気だけが、粘りつくように重かった。


背後に控えていたモラニの精鋭百人――ドラフ直属の手練れたちも、その異様な静寂に気づいたのだろう。並んだ隊列の中に、目に見えて緊張が走った。


「モラニ様、これは……!」

副官格の獣人が声を上げる。

モラニの毛皮という毛皮が、粟立ったまま戻らない。 気配だ。今まで嗅ぎ分けてきたどんな強者とも違う、桁の違う圧が、すぐそこにいる。

「お、おい!これは一体――」

問いかけた声は、途中で凍りついた。 振り返ったカミラの顔に、先ほどまでの人懐こい笑みは欠片も残っていなかった。

「選択肢は、色々あったんだがな。」

静かな声だった。だが、その静けさが何よりも恐ろしい。

「これは援軍が間に合わなかった場合のーーいわばプランBだ。もっとも、アンタらがもう少しお人よしだったら話は違ったんだが。」

「な――」

「援軍ついでに、そのまま村を乗っ取るつもりだったんだろ?」

唖然とするモラニの前で、カミラはああいや、と言葉をつけ足した。

「ま、逆の立場なら俺だってそうするよ。」

カミラの瞳が、初めて本性を覗かせる。

「悪いけどさ。ーーアンタ、ここで一緒に死んでもらうぜ。」


その双眸は、狂気的な熱を帯びていた。



そして、その背後に――何かがいた。 姿形も朧げな、黒い影が。輪郭さえ曖昧な、けれど確かにそこに"在る"という、圧倒的な質量。木々をなぎ倒し、地面を軋ませるほどの気配が、カミラの後ろに、姿を現した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。