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毒キノコ転生〜地下ダンジョンに閉じ込められた最弱の魔物は、チートスキルと謀略を駆使して最強最悪の魔族を目指す〜  作者: さかなかさ
三章『マテーラ村防衛編』

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三十二話 『夜を待つ 後編』




「プラムさん、すげえっすよ!オーガ達が散り散りに逃げてく!」


エルフの一人が、興奮した様子でそう叫ぶ。

だがプラムは、それに喜ぶでもなく現状を分析していた。


(オーガ族の反応が思ったより悪い…やはりスキルがバレているのが大きい。)


プラムは一度、村を襲ったオーガ族相手にスキルを使用している。逃げ延びたオーガが敵にあらましを話せば、幻覚だと気付かれてもおかしくはない。


「このまま、アンタたちは弓を打ち続けて!ルーカスの毒だ、食らったらオーガでも暫くは動けない!」


弓の先に塗布したのはルーカスがスキルで作り出した強力な麻痺毒だ。


その効力の長さに着目し、足止めに最適な毒として予め用意してもらっていた。


「ウチは山上のフォローに行ってくる!」



山上では、数人のエルフが落石や手製の爆弾をオーガ達の列に投げ込んでいた。


「お、俺もついてくっす!」


若いエルフの一人が、護衛のためプラムの跡を追う。



そうして戦場を駆け回るプラムの影を、遙か遠方より視認する者たちがいた。セズールと、その配下のバウマンである。


「バウマン、見えてるかぁ、あいつ。幻覚じゃなく、魔力そのものを見ろ。あの赤紫の髪のエルフだ。」


「ええ、見えてますお頭。ありゃあどうやらエルフじゃない。耳の形からして、ニンゲンですかねぇ。」


「…この辺の近くに、上層に続く階段があったはずだ。冒険者どもが情にでも絆されたか?」


セズールの予測は当たらずとも遠からずであった。

謎の助力者達の正体に見当をつけると、セズールはバウマンに指令を下した。


「ニンゲンってんなら相当脆いはずだ。柔こくていい肉だが、今はしかたがねぇ。バウマン、撃て。」


「承知いたしました。」


そういうと、バウマンは巨大な弓に矢を番える。ギリリ、と弦が唸り、その矢先が獲物を捉えた。


その瞬間、バウマンの照準に入ったプラムは、全身に悪寒が走るのを感じた。


(__何だ、狙われて___?)


だが、その体が反応するより先に、バウマンの弓が放たれる。巨大な弓から放たれたその矢は、凄まじい速度で戦場を横断し___


プラムの喉元に迫ったその瞬間、背後から声が響いた。


「避けて!!!」


その声と共に、プラムの背中がどっ、と押される。

それを認識するより早く、ボッ、と背後から凄まじい衝撃音が鳴る。


咄嗟に振り返ると、そこには凄惨な光景が広がっていた。


「あ…」


思わずプラムは呆然とする。背後には、先ほどの若いエルフの姿があった。その半身は削り取られたかのように跡形もなく、そのまま地面に倒れ伏している。


「プラ…さ…逃…げて…」


息も絶え絶えに、そのエルフが言葉を吐く。誰が、どう見ても助からない。プラムは一つの言葉も発さずに、その場から駆け出した。


動かなければ。

突然の衝撃に混乱する頭で、ただその思考だけが彼女の足を突き動かした。


(…すぐに、二撃目がくる…!)


プラムは周囲をぐるりと見渡す。先ほどの矢の方角から死角を計算すると、ちょうど近くに大きな岩があるのを見つけた。


一直線にそこへ駆け出す。しかし、死地に冴え渡り始めた頭脳が、ある一つの可能性を導き出した。


(あそこが絶好の隠れ家だと、敵は当然読んでいる…!いつだ、いつ次が来る…!?)


プラムの思考が更に加速する。先ほどの矢の威力。その飛距離と飛んできた方角。そして何よりプラムの魔物としての本能が、直感となってプラムの体にそのタイミングを教えた。


「___ッ!!!」


大岩まであと数歩。敵からすれば最も動きが読みやすいタイミング。プラムはそこで、咄嗟に上体を屈めた。



___その直後、プラムの左側面を、巨大な何かが掠めた。





「ぎ、あっ……!」


あまりに強い衝撃に、プラムはそのまま体ごと前に倒れ込んだ。その勢いで大岩に転がり込むと、プラムは自身の身に何が起こったのか、そこでやっと理解した。



左腕が、丸々無くなっている。プラムを左方から襲った矢は、その左腕と背中の一部を削り取っていた。


「あ"ぁ…ああっ…!!」


あまりの痛みに、プラムがその場で体を捻じる。

元がキノコのくせに痛みを感じるなんて、と常々思っていたが、その痛覚は確かにプラムに生命の危険を教えていた。


必死に息を整える。襲い掛かる激痛に体を慣らすため、体を仰向けにし、瞼を閉じる。

(…なんで。)

痛みと混乱の中で、プラムは気づけば先ほどのエルフの顔を思い浮かべていた。

(なんで、ウチのことを、何も知らないアイツが…)

あのエルフとは、ろくに言葉を交わしてなどいない。

それにも関わらず、その半身を擲ってまで、プラムを生かそうとした。


___分からない。



するとふと、見覚えのない光景がプラムの脳裏に閃いた。

薄暗い洞窟に、二匹の魔物がいる。

名も知らぬ一方が、もう一方を庇って崩れ落ちてゆく。ただ、その身を捧げて。庇われた者の顔は、霞んで見えない。


何故、こんなものが視えるのか。プラムには分からない。

だが、その光景は痛みよりも鮮明に、プラムの奥底を強く揺さぶった。


(今、のは…)


意識を現実に引き戻したのは、ガサガサと茂みを掻き分けで誰かが近付いてくる気配だった。

「プラムさん!あぁ、何てことだ…!!」


その正体は近くにいたエルフの1人だった。

プラムの姿を視認すると、その痛ましい怪我に思わず顔を顰める。


「動けますか!撤退しましょう!これだけやれば十分だ!」



「…駄目だ…」



「なっ…!こんな体で、無茶を言うな!死んでしまいますよ!」



「…私のために、死んだ奴がいるんだ…」



そう言うと、プラムは眼を開いた。

「変幻自在」のスキルを用いて、体を無理やり変形させる。


衣服を模る肌がウネウネと形を変え、消化液を排出している傷口を塞いでゆく。

残った右腕でなんとか立ち上がると、プラムは自身に言い聞かせるように口を開いた。


「作戦は続行だ…!夜まで、敵をここに食い止める!」



最早、助けに来たエルフもその様子を見つめる他なかった。


プラム自身にも、自身の気持ちの出処は分からない。ただ沸々と沸き立つ強い衝動が、その体を無理矢理突き動かしていた。


プラムは残った魔力を全て集中させると、自身の分身をその場で複数作成し、それに更に魔力を込め始める。


「アイツらは、魔力の量でウチを見破った…!そんな手練がもう出てくるとは思わなかったが…分かっていれば、対応できる…!」


「そっ、そんなことをしたら、すぐに魔力切れで意識を失って…」


「うる、せー…魔力だけなら、眷属の中でも一番だ…お前らは、撤退の準備を始めろ。」


それだけ言うと、プラムは眼を閉じてうずくまり、魔力操作に意識を集中させる。そして、岩場から一斉に分身を散開させた。


直後、戦場に再び轟音が響き、そのうち一体の幻覚が霧散する。


「…分かりました。」


エルフの若者はそう言うと、プラムに対し最低限の手当てを済ませる。処置が終わると、悩みながらも、再び元の持ち場へと戻る事を決意した。

プラムはその気配を察知すると、息も絶え絶えの中、ニコリと微笑んだ。


「…ウチと一緒に死ぬことはない。お前らは、どうか生きてくれ…」


「…えぇ、勿論です。」




そこからは、まさしく死地という言葉が相応しかった。


未だ憎らしいほど青い空の下、プラムの意識は何度も底に沈みそうになった。

だがその度、塞ぎかけた傷口へ自ら指をねじ込んだ。ぶつり、と何かを裂く感触。

「ああ"っ…!」

遅れて走る激痛が、霞んだ視界を一瞬だけ白く灼き、その熱で無理やり体を起こす。


「痛い、けど…痛い、なら、まだ生きてる…!」



朦朧とする意識の中で、プラムは全神経を研ぎ澄ませ、分身を操り続けた。

山中に鳴り響く太鼓の音が、仲間を鼓舞するかのように激しさを増していく。



どれほどの時間が経っただろうか。

数時間にも、濃縮した一分にも感じられる時の中で、ひたすらに目の前の敵を屠り、欺き、躱す。


その内、一つ、また一つと幻覚がその姿を霧散させてゆく。

オーガ達が徐々に混乱から回復する中、プラム達は死に物狂いの抵抗を続けるのだった。








・・・








ドン、ドンと、遠くから大きな音が聞こえる。

その音にふと、意識が覚める。


「………?…ここ、は……」


ぼんやりとした視界の中、プラムは意識を覚醒させた。視界が揺れている。どうやら、何か生き物の背中に乗っているらしい。


「…おお、プラム様が…プラム様が眼を覚ましたぞ…!」


あたりを見れば、白狼の背に乗るエルフ達の姿があった。思考は徐々にクリアになり、意識がはっきりとし始める。


「ここは…!?戦いはどうなっ‥ゲホッ…」


言葉を発しようとすると、体全身に痛みが走る。そういえば左腕を持っていかれたのだった、とプラムは徐々に記憶を蘇らせた。


「どうか安静に…!……プラム様が意識を失った後も、魔力を込められた分身は動き続けておりました。そこで我々は機を伺い、撤退を行なったのです。」


プラムは、その報告を聞き僅かに安堵した。


だが、すぐにその言葉に違和感を感じる。

周囲にいるエルフの数が、余りに少ないのだ。三十名余りで陣を率いたプラムの周りには、最早三名のエルフしかいない。


(他のエルフ達とは、散り散りになってしまったのか?)



白狼の背に揺られながら、プラムはふと後方を見やった。背後の山岳からは、未だドン、ドンと太鼓の音が鳴り響いている。プラムが鳴らすように指示をした、戦太鼓の音。


その音は、距離が離れるにつれ、少しずつ遠くなってゆく。




「…なぁ、誰だ…?…」




プラムは、ふとそう呟いた。


「私の…分身には…実体が無い。誰だ……?」



遠ざかる山の方角を指さし、プラムは声を震わせる。



「あ(・)の(・)太(・)鼓(・)は(・)、(・)誰(・)が(・)鳴(・)ら(・)し(・)て(・)る(・)…?」





プラムの問いに、エルフ達は咄嗟に目を逸らした。

場に沈黙が流れると、戦場の騒乱と、太鼓の音が一層明瞭に聞こえる。


「………起きたばかりだというのに、プラム殿は聡明で敵いませぬ。」


その問いに、横にいた初老のエルフが絞り出すようにして答えた。その眉は困ったように垂れ下がっている。


「我々は、サクラ殿から命を仰せつかっておりました。プラム様は無茶をするだろうから、何が何でも連れ戻せ、と。」


そのエルフは、遠くなっていく山々を振り返ると、言葉を続けた。




「我が同胞達は、未だ戦いを続けておりまする。」




太鼓の音は、殊更に小さくなった。距離だけの所為ではない。その音数は先ほどから一つ、また一つと消えていっているのだ。


「…そんな…私は…私が…もっと上手く…」


「それ以上は、言ってはなりませぬぞ。」


プラムが搾り出そうとした言葉を、初老のエルフが制止する。


「我々は、心よりあなたに感謝しております。カミラ様でも、リュドガー様でもない。お若いながら、決死の覚悟を持って戦に臨まれたあなたに、です。」


そう語ると、初老のエルフの体から、魔力の光が発し始める。


その横を走る、若いエルフ二人からもだ。

それは、先日リュドガーが眷属になった時に見えた光と同じものであった。


「プラム様と共に戦い、死ねたこと。あ奴らも誇りに思っておりまする。どうか、後悔でなく、賛辞を持って手向けとしていただきたい。」


プラムは、その言葉の全てを理解することはできなかった。脳内は織り混ざった感情に混線し続けている。


頭の中に聞こえたステータスウィンドウの通知音も無視して、ただ、今も尚後方から鳴り続ける太鼓の音に、全ての意識が注がれる。


「……死ぬな…!」


プラムの言葉に呼応するかのように、戦場からはドン、と太鼓の音が鳴り響く。


その音に、何故か、視界の端が滲む。



「死ぬな…死ぬなっ…!」



ボロボロと、目元から何かの液がこぼれ落ちる。

傷口から、消化液が染み出したのであろうか。

その不思議な事象も、感情も、プラムには初めての経験であった。


「頼む…どうか、お願いだから…皆、生きて、帰って……」


懇願するように何度もそう呟くプラムの様子に、奥を走るエルフが、堪え切れず空を仰ぐ。



するとそのまま、その眼が大きく見開いた。




「プラム様。空を、空をご覧ください。」




ゆっくりと、プラムが空を見上げる。

見れば、空は僅かながら青く染まり__そこには煌々と、ヴォイドが輝き始めていた。



「我らの、勝利にッ…ございます…!」


口を震わしながら、若いエルフはそう叫ぶ。

その言葉を聞いた瞬間、プラムは全身から力が抜けるのを感じた。

張り詰めていた何かが、ぷつりと切れる。

プラムは力なく白狼の背へと倒れ込む。温かな毛並みに身を預けながら、ゆっくりと瞼が閉じていく。


ドン。


ドン。


一つ。


また一つ。

音が消えていく。

それでも、プラムの意識が途切れる最後の最後まで。


確かにその太鼓の音は、戦場に鳴り続けていた。





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