三話 『犬×茸』
「おら、てめーの住処は今日からここだ」
コボルトに捕まり、やってきたのは薄暗い地下牢のような場所だった。
さっきまで群れを取り仕切っていたリーダー役のコボルトに尻を蹴られ、鉄柵の扉を潜る。
檻の中には複数の気配があった。
目を凝らせば、さまざまな笠をもつ毒キノコが何匹も捕まっていた。
「あー、ちくしょう…」
「おぉ、やっぱりてめーキノコのくせに喋れるんだなァ。よえーくせに、知能だけは高えのか?」
チンピラみたいな口調のリーダー役に話しかけられる。
黙りこくっても仕方がない。ここはせいぜい媚びを売ることにしよう。
コボルトの方を向き直り口を開く。
「あぁ、あんたも犬畜生にしてはそれなりな言葉遣いだな。」
「…あぁ?」
間違えた。軽い挨拶をしようと思ったのに。
生来の口の悪さが仇になったか。
「うんまぁ、もちろん冗談でーー」
言い切る前に、強い衝撃が体を襲った。
コボルトの蹴りで、体ごと吹き飛ばされる。そのまま壁に叩きつけられた。
毒キノコたちが、怯えながら部屋の隅に逃げていく。
「てめえらクソキノコどもが出す毒はよぉ…俺らコボルトにとっちゃ最高にキマるクスリになんだよ」
リーダー役は薄ら笑いを浮かべながらそう話し出した。
「採っても採っても勝手に再生するから、尚のこと都合が良いよなぁ。」
「…ぅ…がぁ」
蹴られた痛みで、声も碌に出せない。圧倒的な力の差を感じる。
「コボルトだけじゃねぇ、地下都市にいる冒険者まで…ソレをチラつかせれば尻尾振って寄ってきやがる。全員、俺のドル箱って訳だ。」
リーダー役は俺に顔を近寄ると、あたまの傘を鷲掴みにし、顔を近づける。目尻が歪んでいて、口からは強烈な獣臭と、独特な甘い匂いがした。
こいつ、既にキメてやがる。
「自己紹介をしようぜぇ。俺はアンヘル…おめーは?」
「…名前なんてねーよ」
言うと、アンヘルは一瞬目を見開いたあと、唐突に笑い出した。
「はっはっはっはっは!!!!あぁーそうか!!そうだよなぁ!!」
唐突に笑い出したアンヘルに、呆気に取られる。
と、唐突に、本日何度目かの衝撃が体を襲った。
どすっ、と鈍い音がして、アンヘルの腕が腹にめり込む。
「がぁっ…!?あっ…!!」
犬のような前足に生えそろった鋭い爪が、俺の腹を切り裂いていく。
「あああああ!!!ああああああああ!!」
あまりの激痛に絶叫する。
痛みで意識が落ちそうだ。
アンヘルは容赦なく、まるで幼子が工作でもするかのように、俺の腹を内側からかき出していく。
ずぼっ、と嫌な音がした。
見るとアンヘルの手には、筒状にくり抜かれた俺の身体の一部が握られていた。傷口から吹き出した消化液で、その手はてらてらと光っている。
俺の腹は丸く切り取られ、穴が空いていた。
「お前らの毒はよ、もちろん俺らにとってサイッコーのオヤツだ。」
アンヘルの息は、先ほどより一層荒くなっていた。
目は血走り、ひどく興奮している。
「じゃあお前らが吐き出す消化液はどうだ?ヌルヌルしてるだけの水モドキ。だが、天才の俺様は使い道を考えた。」
朦朧とする意識の中、改めてアンヘルの姿を見た俺は、ある最悪の事実に気づいた。
アレが、猛々しく隆起している。
「いいかぁ?名前が無いってんなら名付けてやるぜぇ。」
震えと寒気が止まらない。
嫌な予感がする。
俺の腹には今、穴が空いている。ちょうど、何かを収められるほどの。穴からは、消化液が尚もドクドクと流れ出ている。
「あぁ…ちょっと待ってくれ…」
「お前の名前は、今日からカミラだ。俺の初恋の女…」
「嫌だ…頼む…」
「喋れるなんて嬉しいぜぇ…他のキノコじゃ味わえねー体験ができそうでさぁ………!!!」
手についた毒液を舐めとり、身震いしながら、アンヘルはにじり寄ってくる。
「嫌だあああああああああ!!!!!!やめっ、やめ…」
・・・
そうして俺は、雄としての尊厳を失った。
俺の叫び声と、アンヘルの雄叫びが、洞窟に一晩中木霊していた。
どこまで表現していいか分からずビビりながら書いています。
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