二話 『喋る魔物とご対面』
キノコに転生してから、体感で1週間ほどが過ぎた。洞窟内では時間感覚が薄れる。
毎日ある程度活動すると、キノコの癖に眠気を覚える。
適当な岩と岩の間に体を忍び込ませては、魔物の襲撃に怯えながら眠る日々が続いている。
ラッキーだったのは、見た目がただの毒キノコのため、動かない限りは魔物が寄ってくることはないということだ。
この1週間で分かったことは二つ。
一つ目は自分の体について。
どうやらキノコにとって、肉体の欠損は再生可能なもののようだ。
ゴブリンに食われて損傷した脇腹だが、少しずつ元の形を取り戻し始めている。
とはいえものすごい痛みに加えHPもがっつり減っていたので、一定以上失えば死に至るのだろう。
そして分かったことの二つ目。
自分が新たに得たスキル、「消化液分泌」の詳細だ。
酸性の液体を吹きかけるというスキルで、頭の中で念じると発動する。
(消化液分泌…!)
ぴゅっ。
間抜けな音ともに、視界のやや下、人間であれば口があったろう部分から液体が放出される。
前方の岩壁にべちゃっと当たるが、特段何が起こるわけでもない。
「こんなクソスキルでどうやって戦えってんだよ…」
肉体も弱く、消化液も使い物にならない。
唯一効きそうなのはHPを削って相手に体を食わせることくらい。
このままでは辻斬りのように強い魔物に殺され、レベルアップの糧にされておしまいだろう…
と、突然前方の方から喧騒が聞こえ始めた。
獣同士が威嚇しているような鳴き声。
恐る恐る様子を確認しに行くと2体の魔物が鉢合わせ、争いが始まろうとしていた。
ナイフを持った二足歩行の犬と蛇型の魔物が互いを睨み合っている。
「シーサーペントが…俺ら"コボルト族"に勝てると思ってんのかよォ…!」
不意に、魔物の片方がそう叫んだ。
二足歩行の犬型の魔物だ。
(…!人の言葉を喋った…!?喋ることができる魔物もいるのか)
驚く間も無く、戦いが始まった。
蛇型の魔物が"コボルト族"と名乗る犬型魔物に襲いかかる。
コボルトは襲いかかる牙をひらりとかわす。
少し距離を取ると、コボルトはすう、と大きく息を吸い込んだ。
「アオーーーーーン!!!!!」
洞窟に雄叫びがこだまする。
すると、コボルトの更に後方、洞窟の分岐路から複数の気配が近づいてくる。
(仲間を呼んだのか…?)
現れたのは、やはり大勢のコボルトたちだった。
しばらく距離をとっていた大蛇型の魔物が、現れた群れに威嚇し、シャーシャーと鳴き始める。
蛇の魔物はかなり大きく、全長で言えば15mほどはあるだろうか。
相対するコボルトは数こそ多いがかなり小柄だ。人間で言えば小学校低学年くらいのサイズ感。
「かかれ野郎共!久々の大物だ!とどめは俺に献上しやがれ!」
すると、コボルトたちは一斉に動き出した。
素早い動きと巧みな連携で、シーサーペントはあっという間に翻弄された。
そのうち、一匹のコボルトが手に握ったナイフを大蛇に切り付ける。
その攻撃を皮切りに、コボルトたちは少しずつ大蛇を削っていく。
あっという間に大蛇は切り傷だらけとなり、動くのもやっとの状態になった。
「よーし、お前らよくやった!…ちょっとどいてろ」
そういうと指示役のコボルトが近づき、その脳天にナイフを振り下ろす。
「シャーーー……!」
微かな断末魔を上げ、シーサーペントは絶命した。
(やけにとどめを指すことに固執してるな、あのコボルト…手柄が大事なのか?)
呑気にそう眺めていると、ふと群れの一匹と目が合う。
(…あ)
まずい。先ほどの素早さから見るに、逃げても勝ち目はない。ここは…
(普通のキノコに擬態する…!)
腹のあたりに力を込め、ぴくりとも動かない。
俺は無害な毒キノコだ、頼むどうか無視してくれ。
「あ、リーダー。あそこに毒キノコがありやすぜ」
「おういいじゃねえか、品種によっちゃ最高のクスリになる。どれ、捕まえていこう。」
そう言うと、指示役のコボルトが近づいてくる。
「…ちくしょう!」
そう吐き捨てると、俺は全速力で駆け出した。
「はは、逃げやがった…ん、待てよ?あいつ今喋らなかったか?」
後方からコボルトの声が聞こえる。
そして複数の獣の唸り声、爪が大地を駆ける音も。
「くっそぉ…」
あっという間に手下のコボルトたちに捕えられた俺は、体を拘束されたまま、洞窟の奥へと引き摺られていくのだった。
本日あと3話ほど更新予定です!




