二十五話 『新たな眷属』
[ 個体名:リュドガーが、あなたの眷属に加わろうとしています。承認しますか?]
俺は初めて見る通知に少し驚く。
(眷属って、後からなることも可能なのか?)
という疑問が頭によぎる。
これまで一度も低層の魔物が仲間になることはなかった。それに、眷属の所持数には上限があったはずだ。迷宮のシステムはいまいち理解しきれない。
疑問は尽きないが、ひとまず置いておく。
先ほどの口ぶりから、リュドガーの決意は相当固いようだ。慌てる俺の顔をじっと見つめている。
この男には本当に驚かされてばかりいるな、と内心呟く。
「リュドガー。ステータス画面は見えているか?」
「あぁ、見えている。…このような表示は初めて見るが、どうやら私の願いに呼応したようだ。」
周囲のもの達を置いてけぼりにして、俺とリュドガーだけで会話が進む。
「皆、聞いてくれ。リュドガーが、ウチの眷属に加わろうとしている。異論があるものはいるか?」
俺はそう全員に問いを投げかけた。眷属達だけでなく、エルフの若者達にもだ。
ざわざわと、客間に喧騒が満ちる。ウチの眷属達も、突然の展開に驚いているようだ。
すると、アンヘルが口を開いた。
「…僕たちとしては、特に拒む理由がないように思う。眷属とその主には強い繋がりが生まれる。それは言葉なんかより遥かに固い信頼関係だ。問題は、エルフの皆さんがそのことをどう思うか、だけど。」
そう言って、エルフ達の方に視線を投げる。彼らの多くは困惑している様子だった。
すると、その中の一人が口を開いた。
「元々、我々は貴殿らの傘下につくつもりだった。…しかし眷属になるということは、リュドガー様が明確にそちらの陣営に加わると言うことを意味する。…昨日初めて会った、貴殿らの下に、だ。」
彼から溢れたのは、反対でも賛成でもなく、感情の吐露であった。見れば、苦々しい顔がこちらを見つめている。すると、リュドガーが再び口を開いた。
「私がカミラ殿の眷属になろうと、そなたらの首長であることには変わりない。」
言うと、リュドガーは俺に向かって頭を下げた。
「この集落に生きるもの達のため。そして何より貴殿のために、我が魂を使ってはくれないだろうか。」
リュドガーがそこまで言い切ると、エルフ達からはそれ以上声が上がることはなかった。
こうして、俺は7番目の眷属として、エルフ族首長のリュドガーを迎え入れたのだった。
・・・
「それじゃ、策は伝えた。あとは実行あるのみだ。」
俺がそう言うと、エルフ達は神妙な顔で頷いた。
オーガ族の連中が来るまでに獣人族との同盟を結ぶ必要がある。
「この集落から獣人族達の中心都市までは早くて片道2週間ほどかかる。急ぎ、使いのものを向かわせよう。」
「あー、そのことだが。伝令役ってのはとても大切だ。何ぶん、獣人族の首長に直談判するんだからな。」
少々伝え方が難しいが、事実だ。
ある程度の実力があった方が舐められない。となれば必然、遣いの者はカミラ陣営で用意した方が良い。
それも、なるべくステータスの高いやつを。
「…アンタ、昨日崖の上に一人で来ただろ。それも、周囲に味方を忍ばせることもせずにだ。」
昨日の朝、リュドガーは首長にも関わらず一人で話をつけにきた。
禍々しい俺らの魔力を一身に受けながら、一つも不快な顔を見せず、堂々と、且つ友好的にこちらとの交渉を進めた。
結果として、最も穏便な形で事を進めるに至ったのだ。その行動に対し、群れを代表する1匹の魔物として、カミラは強く敬服していた。
「…俺もアレを、見習おうと思ってな。」
俺がそう言うと、リュドガーはその言葉の意図を察したのか、驚愕の表情をその端正な顔に浮かべるのだった。
・・・
「はあ、ここでやーっと半分か!想像以上に長え道のりだな!」
それから1週間後。カミラと数名の眷属、そしてエルフ達は、獣人族の首都"カームロア"に歩みを進めていた。
エルフの集落との連絡は、彼ら固有のスキル思念通話で行うことになっている。
とはいえスキルの使用距離には限度がある。そこで、中継地点として、道のりに一定間隔でエルフを配置し、連絡を行う形にした。
エルフの集落には、総大将としてリュドガー、戦闘要員としてアンヘルとプラム、指揮官としてサクラを残してきた。
キング、サファイア、ルーカスの3人は、それぞれエルフ達の中継地点の護衛役を担う手筈だ。深層の魔物は野良でも強力な力を持つ。彼らの命を守るための最低限の措置だ。
「しかし、この白狼達がいて助かった。」
道中は、エルフ達が飼っている白狼という巨大な狼に乗って移動している。馬以上のスピードでぐんぐんと森の中を突き進んでくれるが、それでも首都までの道のりは遠い。
度々遭遇する魔物達を躱すのにも体力を使う。
カミラはこの1週間、夜の見張りなども含めほとんど不眠で行軍を続けていた。
(いつあの集落にオーガが現れるか分からねえんだ。こんなところでもたついてるわけには行かねぇ…)
そんなことを考えていると、行軍しているエルフ達がざわつき出した。何やら思念通話で報告が行われたようだ。そのうちの一人が、青ざめた顔で報告を行う。
「い…今し方報告がありました!村にオーガが接近、数は三十名ほど!」
「始まったか…!」
思わず歯噛みする。1週間ほどと想定していたが、嫌な予想ほど当たるものだ。だが、まだ数は10数匹だ。
辺境のエルフの集落にそこまで警戒しているとは思えない。
(上手くやってくれよ…あいつら)
俺は歩みを進めながらも、ひたすらに村の安否を願うのだった。




