二十四話 『博打を打とう』
宴が終わり、翌日。
カミラ一行は、再びリュドガーの家に訪れていた。
面子は前日と必ず、リュドガーと、その横にエルフの若者達がカミラ達を出迎えた。
「早速だが本題だ。結論が出た。」
客間に通され席につくや否や、カミラはそう告げた。
「お聞かせ願いたい。」
リュドガーがそう短く答える。流石に緊張しているようで、その顔は真剣そのものだ。
「俺たち一同、エルフ族に手を貸そう。オーガ族に敵対することになっても、な。」
少しの静寂を経て、エルフ達からわっ、と歓声が上がる。リュドガーも一先ずほっとした様子だ。
「ただし、条件が二つある。」
俺は指を二本立てた。
リュドガーが、覚悟を決めたように頷いた。俺はそのまま言葉を続ける。
「一つ。俺はアンタらの首長になるつもりはない。この話はあくまで、種族同士の同盟として進める。」
エルフ達が顔を見合わせる。
「そして二つ。表向きには、俺たちはエルフ族の傘下という形を取る。」
今度は明らかに困惑の色が浮かんだ。
「……どういうことだ?」
リュドガーが静かに尋ねる。
「順を追って、作戦を説明する。」
俺はルーカスに目配せした。
昨晩借り受けた地下世界の地図が机の上へ広げられる。
「正面から戦っちゃ勝てねぇ。目的は、北の獣人族を味方につけること。」
その一言で部屋が静まり返る。俺は反応を待たずに言葉を続けた。
「今、西のオーガ族と北の獣人族は大戦争の真っ最中だ。」
指を西、次いで北へ滑らせる。
「そして俺たちは、この南端にいる。」
今度は南側を叩く。
「つまり、俺たちがここで暴れれば、オーガ族は北と南、二正面への対応を迫られる。」
リュドガーの眉がぴくりと動く。
「獣人族からすれば願ってもない状況だ。南側に味方が増えるんだからな。」
なるほど、とエルフ達が頷いた。
「俺たちはオーガ族から独立し、新たな第四勢力として名乗りを上げる。そして獣人族には、その独立を支援してもらう。」
北の獣人族に接触を図るのは、正直相当難しい。距離の面においても、話を取り合ってもらえるかも分からない。だが、やるしかない。
「ここで、一つ問題がある。」
俺は人差し指を立てた。
「正体不明の新興勢力を、獣人族が信用すると思うか?」
誰も答えない。
「だから看板が要る。」
俺はリュドガーを見る。
「『長年オーガ族の圧政に耐えてきたエルフ族が、ついに蜂起した』──そういう筋書きだ。」
全員が、息を呑んだ。
「俺たちはその蜂起に協力した勢力。だから表向きには、エルフ族の傘下という形を取る。」
「なるほど……。」
リュドガーがゆっくりと頷いた。
三大勢力の均衡を崩そうというのだから、それなりの大義名分が要る。そのことをリュドガーは誰より速く理解したのだろう。
もちろん、最後は相手次第だ。これはあくまで机上で組み立てた策に過ぎない。
だが。
「無茶苦茶な話だ。だが、このくらいのバクチを打たなきゃ、オーガ共には到底勝てっこねぇ。」
俺がそう言うと、リュドガー宅の客間は、しん、と静まり返っていた。
エルフ族の若者達は、話の大きさに言葉を失っている様子だ。最初に、リュドガーが口を開いた。
「…オーガ族の連中に対し、最初に弓を引いたのは、他でも無い私だ。」
神妙な面持ちで、リュドガーはそう語り出した。
「村の者たちは誰一人として、それに異をとなえなかった。内心はどうであれ、だ。…私が、私の決断で、この村の、祖先たちの歴史に幕を下ろすのだと覚悟した。」
リュドガーはそういうと、瞼を閉じた。配下のエルフ達も、俺の眷属達も、静かにその次の言葉を待った。
「だが今、そこに一筋の光が差し込もうとしている。本当に、何と言ったらいいか…いや。」
「お、おいおい、俺らまだ何もしてねーぞ。そういうのは諸々終わってからにしてくれよ。」
あまりに熱い語り様に、思わず口を挟む。
数百年生きてきた者としての凄みなのか、その言葉の節々にはただならぬ重みがあった。
「…表向きは同盟で構わぬ。内々の事情もあろう。だがこうなった以上、我が命燃やし尽くしてでも、貴殿に忠義を尽くしたい。」
瞳を開いたリュドガーがこちらに向き直る。
エルフ特有のエメラルドグリーンの瞳が、真っ直ぐに俺の方を見つめている。
「___エルフ族首長としてではなく、1人の魔族として。貴殿に我が命を捧げることを誓おう。」
そう言うと、リュドガーの体がこお、と輝きを発し始めた。
(この光…どっかで…?)
そうだ、この光には見覚えがある。
眷属たちを生み出す時に発せられる、魔力の光だ。
すると、脳内に場違いな通知音が響き渡った。
[ 個体名:リュドガーが、あなたの眷属に加わろうとしています。承認しますか?]




