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毒キノコ転生〜地下ダンジョンに閉じ込められた最弱の魔物は、チートスキルと謀略を駆使して最強最悪の魔族を目指す〜  作者: さかなかさ
三章『マテーラ村防衛編』

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十八話 『逃走』

「へぇ、大勢の冒険者に狙われてまして____現在も交戦中でございやす。」


アンヘルがそう報告する。


「それで、近くにいたキングが加勢に行って、あっしが伝令に来た次第で…」



なるほど、じゃあ今もキングとサファイアは戦闘の最中ということか。


あの二人…特にサファイアの方は集団戦にかなり有効なスキルを持っている。すぐにやられることはないだろうが、そうは言っても迷宮の冒険者達も手練れだ。

何かある前にとっとと手助けに行くべきだろう。

 


「あのさぁ、アンヘルぅ?」


と、話を聞いていたサクラが、不意に声を発した。その声は心なしかいつもより冷たい。


「そんなアホのためにカミラさまが動かなきゃいけないの、意味わかんなくないですぅ?」



場の空気が冷え込む。

うん、ごもっともすぎる。



だが、一概にサファイアを攻めることができない自分がいる。


サファイアの、少々過剰なM気質。俺から生まれた分身だ。当然、心当たりがないわけではない。というか、前世では割とそういうのが好きだった気がする。

某変態コボルトの相手をして精神が壊れなかったのもその辺に耐性があったのが大きい。


サファイアのやらかしを他人事として捉えられない自分がいた。というかまず、自身の眷属だし。


「サクラ、ごめんな、その辺にしといてやってくれ…あれ?そういや、プラムは?」


そういえば、先ほどからプラムの姿を見ていない。

プラムはサクラの副長で、長身の女性の容姿をしている。

種族は、かつての俺と同じカレオバナタケだ。


幻術系のスキルを覚えたため、こうした面倒ごとの時は、何かとサポート役に回ってもらうことが多いのだが…



「…何となく嫌な予感がしてたので、カミラ様が来る前にアーケロンに向かわせてるですぅ。」


サクラがふい、と目線を逸らしながらそう答えた。

驚いた様子のアンヘルと目が合う。

というか、俺も驚いている。



「もう、この子ったらほんとに出来た子…!」



思わずサクラをひしっと抱きしめ、頭を撫でる。

俺もそれほど背が高い方ではないが、サクラはそれ以上に小柄だ。


突然の抱擁にサクラは驚いた様子であったが、特に抵抗するでもなく受け入れた。

表情は冷静を気取っているが、どこか綻んでいるのが伝わってくる。


「あぁ、ありがてぇ…サクラの姉御、恩に切りやす」


アンヘルがそう言って頭を下げる。

とりあえずサファイアには後で説教確定だ。

そしてそれとなく利用した店を聞き出すことにしよう、とカミラは心に決めたのだった。



・・・


迷宮都市アケローン。

絢爛な歓楽街の、裏手に広がる路地裏。

そのとある一角に、2人の青年と、それを囲う冒険者達の姿があった。冒険者達は狭い路地にひしめき合っている。その数は30人ほどだ。




「おい、サファイア!これじゃいつまで経っても逃げらんねーぞォ!」


そう怒鳴ったのは青年の片割れだ。黒髪に鋭く尖った八重歯と目元が特徴的な容姿で、手にはナイフを握っている。



「やかましいですよ、キング。先ほどアンヘル様が救援を呼びに行ってくれたのです。少しくらい落ち着きなさい。」


サファイアと呼ばれた青髪の青年は、相方を諌めるようにそう言い放つ。


「諌める側みてえなツラしてんじゃねェ!元はと言えばお前のカス性癖のせいだろうが!」


周囲の冒険者達に絶えず殺気を浴びせられながら、2人は特に気にするでもなく言い合いを続けていた。


「おい、なんだこいつら…さっきから俺たちの攻撃がまるで効いてねぇ…」



「ええい、人間に化けてるとはいえ、たかがガキ2人に何手こずってやがる!数で押しつぶせ!」


怒り心頭といった様子で冒険者の一人がそう吐き捨てる。先ほどから、キングとサファイアはのらりくらりと冒険者達の攻撃を躱すばかりだった。


時折反撃はするものの致命的な攻撃は避け、まるで手加減をして遊ばれているかのような立ち回りである。

その事実が冒険者達をより苛立たせていた。


「どーするよ、こいつらいよいよやる気だぞ…流石に限界か?」


「…元はと言えばこちらの不始末が発端。これで殺しては寝覚めが悪いでしょう。」


「こちら、じゃなくてお前の不始末な。擦りつけんなコラ。…ま、概ね同意だァ。」


眷属達の中でも、サファイアとキングは人間的な思考が顕著に現れていた。


悪戯な殺しを好まず、人間との交流にも積極的である。

何といっても、2人は人間の作り出す文化が好きだったのだ。


調査任務や薬の売買などでアーケロンに滞在する期間が長かった2人は、人間の文化や娯楽に触れる機会も多かった。


サファイアは言わずもがな、キングも時折市場に出ては、人間の作った玩具や本を買い漁っている。


カミラが冒険者を殺すことに肯定的ではないことも、この2匹は何となく察していた。


「…つっても、これ以上攻められたら、こっちも容赦はできねえぞォ?」


サファイアが、じりじりと近づいてくる冒険者を睨みつけながらそう煽る。場の緊張感はいよいよ上り詰め、今にも戦闘が始まらんとする、その刹那。


幻惑胞子(ファントムスポア)


不意に、どこからともなく声が響いた。

それと同時に、2人の周囲に異変が生じる。


気が付けば、そこには何人ものサファイアとキングが立っていた。

冒険者達は突然の光景に混乱する。


「うお!これは__プラムのスキルか!ありがてえ!」


いち早くその現象を理解したキングが歓声を上げる。

その声が契機となったかのように、分身したサファイアとキングがそれぞれ動き出す。


あるものは冒険者に襲いかかり、あるものはその横をすり抜け脱走しようとし、またある物は手からスキルを発動しようとする。


「な、なんだああ?!何が起こってる!?」


「お、落ち着け!!きっと幻術の類だ!本物はどれか一体だけだ!」


冒険者たちの動揺が収まり切る頃には、サファイアとキングの2人は、すでにその場から姿をくらましていた。


・・・


人目をはばかり、裏路地を駆ける3人の影があった。



「んもう!今回は何とかなったけど!お姉様が私に支持してなかったらこうはなってないんだから!」


その中の一人、赤紫の髪をした女がそう怒鳴る。

女はスラリと背が高く、モデルのような体型をしているが、その口ぶりはどこか幼い少女のようであった。


「あぁ、なんとサクラ様のご指示とは…帰還すれば、きっとあの冷たい目が私を貫いて…ハァ…ハァ…」


「おい、こいつ全く反省してねぇぞ。」


恍惚の表情を浮かべる青髪の男__サファイアを、キングが呆れた目で見つめる。


「にしても、おかげで助かったぜプラム。あのままじゃマジで本気で戦うとこだった。」


キングは特徴的な八重歯を見せてニカッと笑うと、そう女に話しかける。


「…あのさ、冒険者相手に手抜くの、お姉さまにバレたら大目玉だからね。」


プラムと呼ばれた女は、感謝に応えるでもなくそう忠告した。


サクラをお姉様と呼び慕う、赤紫髪の女。

サクラ隊の副長にして、カレオバナタケに進化したプラムである。


背が高く、容姿だけで見ればプラムの方がよほど年上に見えるが、プラムはサクラのことを誰より尊敬していた。


「わかってるよ、んなこと。報告はいい感じに頼むぜ。」


特に悪びれる様子もないキングの返答に、プラムははぁ、と溜息を吐く。


半ば同期のような関係性のこの2人は、気軽に話し合うにはもってこいだが、こうした場面で統率を取るのはほぼ不可能だ。


やはり自分はまだまだお姉様には程遠い、とプラムは心の中でつぶやくのだった。


本日2話投稿です!2本目は20時に!

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