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毒キノコ転生〜地下ダンジョンに閉じ込められた最弱の魔物は、チートスキルと謀略を駆使して最強最悪の魔族を目指す〜  作者: さかなかさ
二章『虚穴の亡霊』

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十六話 『迷宮の亡霊 後編』

リディは、動くのも止めて、思わず絶句した。

少年の見るも無惨な姿にではない。



目の前には、摩訶不思議な光景が広がっていた。


少年は、微動だにせずにぼんやりとこちらを見つめていた。


それと対照的に、少年の後方には、キャンキャンと痛みに悶える狼の魔物が転がっている。


その爪先からは、血が噴出していた。



何が起きたのか。

狼の爪は確かに少年の頭部を捉えていた。


しかし、その攻撃は全く効くことなく、狼の爪は岩肌に当たったかのように粉々に砕け散ったのだ。



「あっしの名前はアンヘルと言います。」



少年はそのまま、何もなかったかのようにそう名乗りをあげた。



「薬のことなら、以後お任せを。」


ニコ、と少年がこちらに微笑む。



アンヘルはそのまま、ゆっくりと狼の方を振り向いた。


痛みに悶える狼型魔物の方にてくてくと近づいてゆく。


リディは最早何も言葉を発することができなかった。目の前の光景に理解が追いついていない。

あの少年は冒険者だったのか?さきほどの、見たことのないあれは自分がまだ知らないスキルの一種か?あんな小さな子供が?


頭の中で疑問が渦巻く。


すると、狼に近づいたアンヘルが、纏っていた薄手のシャツの一部を捲り上げた。


陶器のような白い地肌が垣間見える。

そこでまたしてもリディは理解し難い光景を目撃した。


少年の、陶器のような真っ白地肌。その背中の真ん中に丸い黒点が見える。


よく見れば、それは黒点ではなく、ぽっかりと空いた孔だった。


少年の背中から腹にかけて、槍で貫かれたかのような、孔が空いているのだ。


すると、孔の周辺がこおぉ、と光り輝き、魔力の奔流が生まれる。


____次の瞬間。



少年の腹の孔からドバッと溢れ出した紫色の液体が、狼型の魔獣に降り注いだ。



その液は狼の全身を即座に溶かしてゆく。

痛みに雄叫びを上げながら、やがて狼だったものは骨ごと溶け消えてしまった。



アンヘルはシャツをただすと、ゆっくりと後ろを振り向く。


「兄貴、お待たせしてしまいました。どれ、先を急ぎま……あれ?」


その場には、既にリディの姿はなかった。

みれば、通路のはるか向こうに、こちらに背を向けてひた走る影が見える。



「あららぁ…?行っちまったあ?」


少年は、その背中をどこかもの寂しそうに見つめるのだった。


・・・



「ハァ…ハァ…あぁっ、とんでもねえものを見ちまった…!」



まるで騙されたような気分だった。先ほどの、少年のような何か。その正体を考察しながら、リディはひたすらに洞窟の入り口を目指していた。



「あの魔物は不味い、不味いぞ…クソッ!なんてったって、俺のことを、()()()()()()()()()()()…!」



迷宮の魔物は、基本的に気性が荒い。他の生物を見た際には即座に互いに戦いを仕掛けるようにできている。

それは迷宮が巨大な蠱毒の壺だという仮説からすれば至極真っ当だ。


逆に、他の生物を見ても本能に従わず、殺そうとしない魔物。これは警戒に値する。


それは即ち、本能を上回る知性を身につけている証拠だからだ。


ただでさえ身体能力の高い魔物が、狡猾な策を弄するようになれば、その厄介さは想像に難くない。


最も、迷宮の深層ともなればそんな魔物ばかりなのだが…


「こんな低階層に…深層から漏れてきやがったのか!?くそ、アーケロンのバカ共は何をやってやがる…!」


ここは初級冒険者も多くいるエリアだ。他の魔物の攻撃を寄せ付けず、一方的に屠って見せたあんな魔物が気まぐれを起こせば、大惨事が巻き起こるだろう。


「とにかく、まずはギルドに連絡を…ん?」



ひたすらに地上に走ってゆく道のりの前方に人影が見えた。


「おいあんた、そこをどいてく…」


その人影の姿をはっきりと視認して、リディは

ドクン、と胸が動悸したのを感じた。


そこには、一人の少女が立っていた。しかしその姿にはどこか覚えがある。ピンク髪の少女。その地肌はまるで陶器のように白い。


「アンヘルのことだから、なーんかやらかすと思って。着いてきたら、案の定ですぅ。」


「はは…。お前らが何者かは知らんが…俺の命運も、尽きたってわけか。」



頭の中で、殊更に嫌な予感がしていた。

先ほど、あの少年(アンヘル)は自分にはボスがいると言っていた。そして、目の前にはアンヘルと全く同じ気配を持つ少女。


もし仮に、こいつらが何者かの眷属だとしたら。

それはこいつらの上に、それ以上の実力を持つ上位個体がいることを意味する。




「嬢ちゃんは、さっきの子の兄妹かい?」


なるべくフランクに、軽い口調でそう話す。

目的は時間稼ぎ。リディは後ろに回した手で、こっそりと魔道具を起動する。


「ま、兄妹みたいなもんですぅ。私たちみいんな、愛されてここまで育ったんですぅ。」



伝書バトと通称される、小型の紙でできた魔道具。

リディは会話を続けるフリをしながら、それに魔力を込める。すると道具が思念を読み取り、紙には文章が自動で記載されてゆく。

必要最低限の情報を入力すると、リディは魔力を込めるのをやめた。紙がパタパタと自動で折り畳まれ、折り鶴の形となる。


「何をこそこそやっているんですかぁ?」


少女が、こちらを睨みつけながら、衣服をたくしあげる。その腹には、やはり先ほどと同じようにぽっかりと孔が空いていた。


孔に魔力が収束されてゆくのを見てとる。




(…この狭い通路、避け切ることはできない。)



リディは、自分の命運を悟った。




「ーー毒砲(アシッドカノン)。」


少女の腹から、凝縮された毒液が飛び出す。それが自分に当たる直前、リディは渾身の力を込めて、手に持った折り鶴を通路の方へとぶん投げた。


折り鶴は少女の視界を掠め、洞窟の入り口へとものすごいスピードで羽ばたいてゆく。


その行き先を見届けること叶わず、リディの視界は紫の毒液に覆われる。体全身に熱い何かを感じると共に、リディは思考の端で折り鶴の無事を祈りながら、永遠の眠りにつくこととなった。



・・・


『浅層にて特級魔物の群れが出現。幼い子供に擬態。亡霊のように真っ白な肌。腹には孔。知性が異様に高く、浅層の魔物を一方的に蹂躙。』


「…これは、イタズラじゃ、ないだろうな。」



王国内、とあるギルドの事務室にて。ギルド内の内勤作業を担当している事務員が、部署宛に届いた一通の伝書鳩を確認する。


この職員はその後直ちに内容を上長に報告。

伝書鳩の送り主がギルドでも新進気鋭で将来を見込まれていた中級冒険者リディ・バージェスだと正式に確認される。


当人との連絡がその数日間取れていなかったことが決定打となり、この凶報は直ちにギルド全体へと共有されることとなった。


ギルドは即座にダンジョン内にある地下都市アーケロンに連絡を行うと共に、この新たな魔物に対して討伐依頼を掲載した。この一件以降、ギルドからは度々依頼を受けた冒険者が「悪魔の揺籃」へと討伐に向かうこととなる。



カミラがこの世界に転生し、1年と6ヶ月後の出来事であった。


そして討伐に来た冒険者たちとの戦闘をきっかけに、カミラは「虚孔(うつろあな)の亡霊」として、大陸中にその名を轟かすこととなる。












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