十二話 『眷属達の成長』
そうして、鍛錬を続けること2週間ほど。カミラの眷属たちは順調に成長していた。
そんな中、ついに種族進化を迎える眷属が現れた。
アンヘルである。
その日もいつも通り、カミラは手をあえて手を出さず、眷属達とダンジョンの魔物との戦闘を後ろから見守っていた。
アンヘル隊の副長であるキングが、向かってくるコボルトの攻撃をひらりとかわし、おちょくるように足を動かす。
…どうやら煽っているみたいだ。毒キノコ族は腕がないため、基本的に何かを表現するときは足を使う。日頃からの感情表現が功を奏したのか、その動きは妙に煽り性能の高いものであった。
「俺の眷属ってみんなあんな感じなのか?」
まったく、誰に似たのだろうか。
先日のサクラの頭脳プレイといい、まだそれほど知能が高く無いはずなのに、本能レベルで煽りを行っている眷属の将来にはかなり期待ができる。
イラついたコボルトは攻撃が大振りになり、キングに意識が割かれる。その隙をついてこっそり忍び寄ったアンヘルが背後から「王水」を発動させた。
コボルトは浴びせかけられる液体で全身を溶かされ、声を上げる暇もなく無惨な姿となった。コボルトの体がどっ、と地面に倒れ伏す。
すると倒れた拍子に、コボルトから弾け飛んだ王水の数滴がキングの体に降りかかる。
先ほどまで散々敵をおちょくっていたキングは、痛みにもんどりうって転がった。びたんびたんと地面に体を打ちつけている。
(…まぁ、あのくらいの量ならほんの火傷みたいなもんだ。ほっといても平気だろ。)
そもそも、キノコ同士はある程度毒に耐性があるため大した問題にはならない。
なんとか痛みから回復したキングが、アンヘルの方を恨めしそうに見つめている。アンヘルも何となく気まずそうに体を背けていた。
そんな、ダンジョンにも関わらず呑気な光景をぼんやり眺めていると__不意に、アンヘルの体が輝き出した。
「おっ…来たか!」
カミラが思わず身を乗り出す。
自身も2度体験した、全身からの魔力発光。進化の合図である。
光がアンヘルの体を完全に包み込むと、中のキノコのシルエットが少しずつ変形し始める。その傘は大きく、背も一回り高く変わる。
やがてその光が収まると、そこには見たことのない新しい種族のキノコが立っていた。
「これは…キノコマン、じゃない?」
自身の一回目の種族進化先であったキノコマンとは、その容姿に違いがあった。
キノコマン同様腕は生えているものの、その全身は鋼のような光沢を帯びており、傘はギザギザと尖っていて、まるで鋭利な刃物のようだ。
すかさず、アンヘルのステータスを確認する。
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【鋼キノコ Lv.10】
HP:52/52
MP:20/20
力:35 敏捷:18 知能:20
■スキル
・どくのからだ
◼︎レアスキル
・硬質化
・鋼の胞子
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種族名は鋼キノコ。ステータスの特徴としてはMPが低く、HPと力が高い。
さらにスキル欄に新たなスキル「鋼の胞子」が追加されている。
鋼の胞子…全身から小さな鋼鉄の胞子を勢いよく発射できる。
なるほど、これは毒性というより、耐久力と攻撃力を高めた種族進化だ。俺の眷属だとしても、必ずしも同じ種族になるわけではないという学びを得た。
やはりレアスキルが種族進化に関係しているのだろうか?しかしこれは、かなりの武闘派キノコが生まれたもんだ。しっかりと鍛えていけば、我がカミラ軍の一番槍となること間違い無いだろう。
…いや、武闘派キノコってなんだ?
そこまで考えたところで、ふと自分がこの世界に毒されていることに気づいた。
が、今更そんなことを考えてもどうしようもないだろう。まずキノコが2足歩行で歩いていることに違和感を覚えなくなった時点で…ということだ。
俺も謎の美少女の容姿になってしまったことだし。
・・・
それから約半月後。
他の2隊の隊長も、無事に種族進化を遂げることとなる。というのも、隊長達に意図的に経験値を多く分配したのだ。
ひとまずレアスキル持ちのルーカスと、通常の毒キノコであるサクラを進化させることで、種族進化の法則を確認したい、というのも目的の一つだった。
結果として、サクラは通常通りキノコマンへと進化を遂げた。上背はさほど伸びず、腕が生えたことで感情表現はさらに豊かになっている。
そして「王水」持ちのスキルを持つルーカスだが、こちらもやはりというべきか、キノコマンではない別の種族へと進化が起こった。どうやらレアスキルが種族進化に影響すると見て間違い無いだろう。
進化したルーカスのステータスは、なかなか興味深いものだった。
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【七毒キノコLv.12】
HP:28/28
MP:53/53
力:17 敏捷:30 知能:46
■スキル
・どくのからだ
・毒酸雨
▪️レアスキル
・王水
・毒薬調合
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種族名は七毒キノコ。外観の特徴としてはやや細長く、キノコマン同様に腕が生えている。傘はマダラ模様で毒々しく、黒に赤の斑点が特徴的だ。
王水に加え、新しく「毒調合」というレアスキルを獲得している。
毒薬調合…MPを消費し様々な効能の毒薬を作り出す。
読んで字の如く、ルーカスのスキルは多種多様な毒を作り出すものだった。
毒と言っても幻覚や麻痺など効果は様々。使い方次第ではひょっとしたら薬にもなるかもしれないものまである。これはかなり研究のしがいがありそうだ。また、本人の知力もかなり高い。
眷属の中で一番最初に言葉を発したのはルーカスだった。
「カミラ様、私めの命全てを持って、貴方様にお仕えいたします。」
「うおお!きのこがしゃべった!」
種族進化の直後、そう言って俺の前にひれ伏したルーカスを見た時は度肝を抜かれた。知能の上がり幅が高いと思ってはいたが、これほどとは。
「お、おう…よろしくな。あ、そんな固くならなくて良いから。」
まるで王にでもなった気分だ。
実際、こいつらからしたら俺は種族の王みたいなものなんだろう。
しかし、俺はルーカスと名付けたこのキノコにそれなりに思い入れがあった。
「気軽にカミラって呼んでくれ、ルーカス。」
「は、ですが…」
「俺の中の記憶、お前にも共有されてるんじゃないか?」
眷属達は明らかに知性が高い。それと、どことなく俺に似ている部分が散見される。何となくだが、俺の中の記憶もこいつらに受け継がれているんじゃないだろうか、と前々から思っていた。
「…ええ。____それじゃ、改めてこれからよろしく頼むよ___カミラ。」
「…おう。」
分かっている。これは所詮ままごとのようなものだ。
元冒険者のルーカスはもう死んでいる。俺が殺した。目の前にいるのは俺から分裂した眷属の1匹だ。
だが、それでも。この薄暗い洞窟の中で、自分以外に言葉を交わせる仲間がいる。その事実は何にも変え難かった。
この日、俺は数ヶ月ぶりに生物と言葉を交わしたのだった。




