十一話 『武者修行』
「君なんかが、この迷宮の外に出れるわけがないだろう?」
真面目そうな青年が、俺にそう語りかけてくる。
「お前は一生この洞窟の中で、俺の穴として生きてれば良いんだぁ?」
二足歩行のコボルトが、俺を嘲るように笑っている。
「どうして、僕を殺したんだ?一緒に生き延びる道があったのに…」
「俺はお前を愛していたのに、お前は裏切ったんだなぁ…」
「許せない」
「人殺し」
「許さない許さない許さない許さない」
「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない……………………」
「人殺し」
・・・
洞窟の中の小さな穴ぐらで、俺は目を覚ました。
内容は思い出せないが、非常に嫌な気分になる夢を見ていた気がする。
ふと周囲を見渡せば、眷属のキノコたちが俺を心配そうに見つめていた。どうやらうなされていたようだ。
「__っはぁ、はぁ…」
上体を起こし、息を整える。眷属の中でも一際小さなキノコ、サクラが近づいてくると、元気づけるように俺の周りを駆け回る。
「あぁ、すまん、心配かけた。お前ら、異常はないか?」
俺がキノコたちにそう語りかけると、キノコたちはうんうんと頷いた。
「よし、それじゃ出発しよう。」
俺はそうしてその穴ぐらを後にした。
しばらく歩くと、もはやいつも通りのことではあるが、魔物と遭遇した。
道の向こうから現れたのは大きな蛇型の魔物、シーサーペントだ。
「よし、丁度いい。カミラ様の眷属の力、存分に見せてやれ!」
キノコたちは、士気高く構えを取る。
「行けっ!」
俺の合図と共に、魔物に向かって駆け出す6匹のキノコ。勢いはいい。だが、低ステータスが故に足は遅い。
わーっと、それぞれなりの全力で襲いかかるキノコたち。そんな勇猛な彼らにシーサーペントが襲いかかる。
べちーん。
シーサーペントの尾は横一列で並んでいたキノコたち全員を一撃で吹き飛ばし、壁に叩きつけた。
「お前らーっ!」
も、脆い。種族として脆すぎる。壁に打ち付けられたキノコたちはぴくぴくと震えており、ほとんど瀕死状態だ。唯一直前に硬質化したアンヘルだけが立ち上がったが、彼我の戦力差に絶望した様子で立ち尽くしている。
「敵は取ってやるからな…」
結局その後、シーサーペントはいつも通り酸毒雨で消し飛ばした。
もらった経験値を適当に分配してやると、キノコたちはなんとか起き上がり、悔しさを全身で表現し始めた。
その様子は、さながら代表戦に負けたサッカーチームのようである。
「まぁ、なんだ。…今日負けたということが、いつか大きな財産になる。めげずに行こう。」
眷属たちをどっかで聞いたようなセリフで適当に励ますと、感動に震えていた。
そんなこんなで、キノコたちの武者修行は続くのだった。
・・・
「ようし、いまだッ!サクラ、GO!!」
俺の指示で、ピンク傘の小キノコ、サクラが敵に向かって走り出す。
現在戦闘しているのは1匹のゴブリンだ。
相対するは、サクラと、その副長の中キノコ。
そのほかの眷属達は、俺の後ろで一旦見学させている。
2対1とはいえ、ゴブリンのステータスと毒キノコ族のステータスにはかなりの差がある。
2匹は先ほどからヒットアンドアウェイを繰り返し、隙をついて消火液を吐き出しているが、なかなか効いている様子はない。
ゴブリンはうざったそうに2匹を追い払い、時折噛みつきでの攻撃を繰り出している。
今のところ当たっていないが、噛みつきが成功すれば倒れるのはゴブリンだ。
もっとも、体の小さいサクラもその攻撃を受ければただでは済まないだろう。
「うーん、流石に初期ステータスだと決定打に欠けるよな…」
流石にそろそろ手助けしてやるか、と思った矢先。
サクラが不意に、ゴブリンの足元に突撃した。
予想外の動きに、ゴブリンはぐらり、と足をもつれさせる。
するとその隙を見逃さず、副長の中キノコが背面から華麗なドロップキックをゴブリンにお見舞いした。
どん、と大きな音がして、ゴブリンは派手に前方に転がり、地面に強かに打ち付けられた。
「おお、いい動き。連携はバッチリじゃないか」
あの程度の威力では決定打にはなり得ないだろうが、ステータスが上がればそれも解決する。
キノコ達の思わぬチームプレイに感心するカミラ。
しかし、攻勢はそこで終わらなかった。
派手に吹き飛ばされたゴブリンは、しかして大怪我をするでもなく、前に倒れ伏して腹部に多少擦り傷を負った程度だった。
ややふらつきながらも状態を起こそうとするゴブリンに対し、中キノコは駆け寄ると、ぴょんとジャンプしゴブリンの体にのしかかった。
ゴブリンは仰向けのまま中キノコに噛みつこうとする。しかし中キノコはそのまま足をゴブリンの顎に当てがい、体全身を使ってゴブリンの噛みつき攻撃を封じた。
すかさず、そこにサクラが駆け寄ってゆく。
そして傷ついたゴブリンの脇腹に近寄ると、迷うことなくそこに消化液を噴出した。
「うお、まじか。何とも下衆…賢い攻撃だ。流石俺の眷属。」
その容赦ない攻撃手段に思わずそう口走る。
あれ絶対痛いだろ。ちょっと見てられない。
傷口から消化液をもろに浴び、思わず身悶えるゴブリン。しかし、サクラは手を緩めない。
バタついていたゴブリンがピクリとも動かなくなるまで、サクラは消化液を放出し続けた。
「…あんな無邪気に飛び跳ねてた割に、結構えげつないこと思いつくな。副長も良い動きだった。」
普段のサクラの印象から考えづらい、冷静かつ効果的な作戦である。副長との連携も含め、カミラはステータスで見える以上の器量の良さをサクラに感じていた。
「しかし、ずっと副長って呼ぶのも分かりづらいな。」
戦いを終え、こちらに駆け寄ってきた2匹を見つめながらそう呟く。
サクラは褒めろと言わんばかりにカミラの前をぴょんぴょんと飛び跳ね、必死にアピールしていた。
副長のキノコがそれを宥めるように後ろから見守っている。サクラの副長のキノコは、赤紫の傘が特徴的だ。
赤紫の植物って何かあったろうか?サクラが植物だし、せっかくならそれにちなんだものにしたい。
「うーん…よし、サクラ隊副長、今日からお前の名前はプラムだ。」
そういうと、プラムは脚をきちんと揃え、こちらにお辞儀した。なんか礼儀正しいなこいつ。
傘の色がスモモみたいだったから、そのまま英名でプラム。
安直オブ安直だが、これから眷属の数が増えることを考えると、覚えやすいほうが後々楽だろう。
後ろに控えていた、ルーカスとアンヘル隊の副長達も呼びつける。
「ルーカスは王水のスキルを持っている。だから君の名前は王だ。」
ルーカスの副長を任命されたキノコがこくり、と頷く。
「アンヘルのスキルは硬質化だから…」
硬質化。何か固いもの。石、いや宝石とか?
中キノコをちらと見やる。真っ青な傘が特徴的だ。
「よし、アンヘル隊副長、今日からお前はサファイアだ。」
イメージの中の青い宝石といえばサファイアだったため、そのまま命名。
こうして俺の眷属6匹には、正式な名前がついたのだった。トータル合わせても10分くらいしかかかってないんじゃないだろうか。
安直かつスピーディな名付けで名前が決められた、眷属のキノコ達。
しかしてこの6匹のキノコ達は、後にカミラがダンジョンを攻略していく上での足掛かりとなる、強大な力を身につけてゆく。その中でもサクラ、アンヘル、ルーカスは、カミラ一派の三柱としてその名を轟かせることとなるのであった。
・・・
*眷属一覧
サクラ…ピンク色の傘。一番小さい。
ルーカス…スキル「王水」を持つ。毒々しい、黒と赤のマダラ模様の傘。
アンヘル…スキル「硬質化」を持つ。最悪の思い出に由来して名付けられた。
プラム‥サクラ隊副長。傘の色がスモモに似ている。
キング…ルーカス隊副長。
サファイア…アンヘル隊副長。傘の色が青色。




