閑話-14 感電
安野は「安全工学」の講義の出9回、『電気の安全』の回のはじまる前の休み時間に、TouTube に上がっている「関西電気保安協会」の電気安全のCMを学生に見せる。
《僕みたいな電気の素人がへたな講義するより、このビデオを見せる方がインパクトも強くて良いんじゃないかな?》
と思う。
最近作られた新作CMよりも、昔、安野は自分が大学生時代に見た、古いCMの方がインパクトが強くて面白いと思っている。
特に接地の必要性、重要性のアピールはなかなかになかなかだ。かわいらしい人形が接地されていない洗濯機を触って、『ビリビリ』と感電して髪が総毛立つ映像は微笑ましいが、実際の感電はそんなに生易しくないぞ、と思う。
全一少年は小学校5年生の時、つまり昭和40年代の中頃に電話級アマチュア無線技士の資格を取った。受験したアマチュア無線の資格試験の問題はトランジスタ回路ではなく、まだ真空管回路の時代であった。当時の安野は「子◎の科学」や「初歩の◎ジオ」を愛読する『電気少年』だった。 …なんで化学者なんかになっちゃったんだろう?
そのころ、通販で真空管ラジオ(5球スーパーヘテロダイン式ラジオ)のキットを購入し、ハンダ付け(ときどきハンド付けで火傷)をしながらそれを組み立てて、全一少年はラジオ製作ライフを楽しんでいた。
ハンダ付けは決して得意ではなかった。当時の真空管ラジオを作るための半田ごては大きく重く、子供の手には余るものだった。そのため、しばしば『イモ付け』をしてしまった。なんどもやり直すことが出来るのが真空管ラジオ作成の救いであった。トランジスター工作では素子が焼けてしまう。
ある日、全一少年は出来上がった真空管ラジオを電源につなぎ、作動させていた。電源を入れて真空有漢が暖まるまでしばらく時間がかかる。ワクワクしながら赤く輝き出す真空管を眺めて待つ。しばらくしてスピーカーからザーと雑音が聞こえてくる。音量を少し落として、バリコンを調節して電波を拾う。NHKの放送を探す。スピーカーが放送を拾う。アナウンサーの声が聞こえる。成功だ! 全一少年はニマニマしながら番組を聞いていた。
しかし、スピーカーの音がブチブチと途切れ始める。そして、ついに音が出なくなった。
「アレェ?」
全一少年はラジオをひっくり返して見た。
トランスの端子に接続しているコードの一本ハンダ付け不良で外れていた。これが原因だった。全一少年は不用意にそのイモ付け部分にふれた。
感電した。
『ベベベベ』
指が硬直し、つまんでいた端子を離すことが出来ない。
感電はその電圧もだが電流が大きいと肉体へのダメ−ジが大きくなる。また、電流の流れる肉体の経路状に心臓があると致命的になる。雷のように高電圧高電流では電気ショックで命を失うことがある。もちろん、静電気のように高電圧でも電流量がわずかで短時間の場合は皮膚表面に痛みを感じる程度である。でも、直流、交流を問わず、一般電源から継続的に電気が流される場合、50V以上で致命的になると言われる。安全分野では42Vを『死にボルト』と呼ぶ。
今回つまんだ端子がトランスの2次側であり、比較的低電流であったのは幸いであった。
電池も油断できない。電池に蓄積されているエネルギーは存外大きい。9V(6P)積層電池とスチールウールで火を熾すことは、サバイバル・ハックだ。もっとも、1回で電池は『空』になる。
最近は、もっと大きなエネルギーを貯めたリチウム二次電池っからの発火が大問題になっている。落としたりする衝撃で陰極と陽極の間のセパレーターが破損すると、短絡して、燃え上がる。存外危険である。
全一少年は座っていた椅子から転げ落ちることで端子から手を離すことが出来た。
「ビックリした! ビックリした! ビックリした! もう、死ぬかと思った!」
作業前に電源を切らなかったのは全一少年の初歩的なミスだ。でも、当時のラジオ作成のテキストには、そのような故障時に『まず電源を切ってから作業する』ということは、あまりにも当たり前すぎて、必ずしも書かれていなかった。ダメじゃん!昭和! いや?ダメじゃん電気少年全一!




