023−電源コンセント 1 <蹴飛ばされたプラグ>
誤字のご指摘感謝します。
...誤字が多いのは、5時に更新しているノロイでしょうか。
安野はその時たまたま学生居室で院生とディスカッションをしていた。本当にたまたまなのだろうか? 何か予感があったのかもしれない。
学生との研究打ち合わせ(ディスカッション)は出来るだけ他の学生もいる場所で行うことにしている。特に叱責などの予想されない場合は、他の学生にもその様子を見せて、『何をどのように指導されるか』を共有してもらう。だから、その声は少し大きめだ。さらに、時々、傍で耳をダンボにしている学生に、
「なあ、君はどう思う?」
などと無茶ぶりをする。安野研では『自分に関係ない』という態度は叱責の対象になる。研究(進捗)セミナーでは、他の学生の研究の進捗状況を聞かせる。問題点を明確にしたら、対策の腹案があっても、安野はあえて
「どうしたら良いと思う?」
と他の学生に遠慮なく振って行く。これでセミナー時の緊張感を維持している。そして、そのような知恵の寄せ集め(ブレインストーミング)こそが、研究室と言う組織の醍醐味だ。
さて、本日は正式なセミナーではないが、院生君を捕まえて、前回のセミナーで話し合った実験のその後について進捗の報告を受けている。その時、居室に居る学生たちは、いつ無茶ぶりが来るかと、ビクビクしている。正当な理由なく逃げたら次のディスカッションの餌食になるので、逃げ出すこともできない。
しばしの考え中の間、ディスカッションをしている院生の横に座っていた4年生が退屈そうに足をぶらぶらしていた。
《足癖が悪いなあ。ああゆう無駄な、不注意な行動がいらん事故を招くのだ。》
と安野は眉をしかめる。イヤな予感がして、その行動について注意しようとした瞬間、突然に
『パン!』
という、破裂音とも少し違う音が、足をぶらぶらしていた学生の使っていた机の下から学生居室に響く、同時に学生居室の照明が落ちる。
《あ〜あ。やったな》
とガッカリして、安野が呟く。
「足立! 怪我はないか? オマエはコンセントを蹴飛ばしたろう!」
その現行犯を指摘された4年生が目を逸らす。そしておもむろに立ち上がった。
「すんません。すぐにブレーカー・スイッチを復帰させます。」
「待て待て、ちょっと待て。まず状況を確認してからだ。ブレーカー・スイッチを半切れではなく、完全に落とせ。」
安野は胸ポケットから懐中電灯を取り出し、セールスマン・デスクの下に潜った。
「足立おまえ〜。足が長いなあ、あんな奥のコンセントを蹴飛ばしたんか。」
「エヘヘ♡」
「全然ほめてないぞ。喜ぶな。 あ〜ぁ。コンセントに刺さっていた差し込みプラグがひん曲がってるじゃないか。」
コンセントに差し込まれていたのはテーブルタップにつながっていた古いタイプの硬質プラスチック製の差し込みプラグであった。そのプラグが蹴飛ばされて、あり得ない方向に曲がっている。横向きに蹴飛ばされたであろうと推測されるプラグの差し込まれていた片方の金属のブレードはコンセントからはずれていた。そして、もう片方のブレードは差し込まれたまま、ほぼ直角にひん曲がっている。
《これはプラグのブレードをペンチで真っすぐに直す、ではダメだな。ブレードが金属疲労で折れたりしたら手に負えない。プラグ部分の交換が必用だな》
と安野は判断した。面倒なことをしてくれたもんだ。
「まだ漏電ブレーカーは復帰するなよ。オレが感電する。 いいか。『押すなよ押すなよ』じゃないぞ。絶対にブレーカー・スイッチを入れるなよ。」
と安野は念を押す。院生君が苦が笑いをしながら応える。
「はい。ディスカッションが終わるまでは先生に死なれちゃ困ります。」
「言うなぁ。おまえさんも。」
安野は苦笑しながら中途半端に切れているブレーカー・スイッチを院生君が完全に切ったことを確認してから、また机の下に潜った。
へしゃげたプラグをグリグリとコンセントから引っこ抜いた後、安野はコンセントを見て呟いた。
「こりゃまずいな。」
「先生、もうブレーカースイッチをあげても良いですか?」
と発災者の足立が問うてくる。
「ダメだ。結構、ヤバいことになっている。」
安野が頭を机の下に突っ込んだまま応えた。
安野はドライバーでネジを外し、コンセントのプラカバーを外した。プラカバーの裏面には短絡した痕跡の焦げ跡があった。
露出したコンセントの内側を見ると、片方の差し込み口の『刃受けバネ』が機能していなかった。ぶらぶらしている。これではコンセントにプラグを差し込んでも、しっかり通電しない。接触不良を起こす。 これは受けバネを支えているプラスチックの部分が割れたな。しかも、内側でショートしたらしく、外側のカバーと同様に、内側のプラスチックの部品も少し焦げている。
「お〜い。プラグだけじゃなくて、壁側のコンセントも壊れている。設備課の鈴木さんに電話して、大至急来てもらうよう、お願いしてくれ。」
院生君が慌てて准教授室へ電話をかけに行った。




