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キャンパスでは「ご安全に!」  作者: リオン/片桐リシン
022−電源コード 全5話
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022−電源コード 2 <コードを踏むな!>


 安野の目の前で、椅子に乗ったまま室内をゴロゴロと移動していたひとりの学生がエクステンションコードを椅子のキャスターで轢いた。

 「あっ!」

それを見た安野は思わず叫んだ。 

 「コードを踏むな!轢くな!」

安野の叱り声をぶつけられた学生はキョトンとしている。自分の行為の何を叱られたのか、全然わかっていないようだ。


 「プリンターが動かなかった理由がわかった。エクステンションコードの断線だ。」

 よく見ると、対面の机の下から伸びていたエクステンションコードのビニール被覆の上には、椅子のキャスターで轢いた跡が何カ所も黒く残っている。

 「先生、電気コードを踏んでも、電気は止まりませんよ? 水道のホースじゃないんですから。」

学生が訳知り顔で言う。論より証拠だ。安野はエクステンションコードを外させて、川瀬にテスターで通電を確認させる。

 「あれっ? このコード、断線している。」

川瀬が間抜けな声を出す。安野はエクステンションコードを取り返すと、右の親指と人差し指の爪の間にはさみ、しごくようにコードを調べる。

 「ここだな。ほら、触ってごらん。中の銅線が切れている。」

椅子のキャスターで轢いた黒い跡の部分で、塩化ビニルの被覆の下の電線が感じられない。その付近でコードを曲げると、その部分で鋭角に折れ曲がる。

 「ほら、ここで中の銅線がちぎれている。この部分の被覆をはいで見たらわかる。」

安野はコードを切断し、その部分の被覆をカッターで切り裂いた。すると、確かにその部分で中の銅線の縒り線は変色してちぎれ、その周辺の被覆の内側が黒く焦げていた。

 おそらくだが、何回か椅子のキャスターのローラー・ギロチンで中の銅線の縒りが轢き潰れその部分の線の力学強度が落ちたところで、塩化ビニルと銅線の伸縮率の違いで轢かれるたびに線が引っ張られ、ちぎれていったのだろう。そして、局所的に電気が流れ難くなり、抵抗熱が発生したのだろう。細くなった銅線が熱を持ち銅が劣化し、また周囲の塩化ビニルをジワジワと焦がしていったのだろう。


 「プリンターの電源を同じ壁側のタップから取りなさい。そして、電源コードを床に這わしてはダメだ。」

 同じ側の壁のパソコンの電源をつないでいるタップにプリンターの電源を差すと、動かなかったプリンターは正常に動き出した。


 「電気のコードは踏んだり轢いたりしてはダメだ。だから床面を這わしてはダメだ。」

 「でも、先生。情報系の教室では電源タップが床からにょきにょき出てますよ。あれは良いんですか?」

痛いところを突かれた。

 「あれは…ボクはあまり良くないと思うけどな。でも、踏んでも切れないような太い丸い被服の厚いコードを使っているはずだ。」

 たしかに、床配線からのタップのコードは単純な塩化ビニル被覆ではなく、銅線の周りの塩化ビニル被覆をさらに布や紙などの『伸びない』被覆で覆い、その周りを硬く厚い塩化ビニルで覆っている。

 「だけどね、あんなに太いコードが床においてあると、つまずくよね。」

安野の指摘に別の学生が笑って言った。

 「僕、椅子のキャスターがあのコードを越えられなくて、椅子ごと転んだことがあります。」

 「それは、不安全だが電気的にはそれなりの安全対策になっているな。」

 緊張の切れた学生居室で笑いが生じた。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 100Vの電源は便利な強力なエネルギー源だ。使い方を間違えれば、火事を起こし、感電して死ぬこともある。皆、簡単に気楽に使うから、その危険を忘れてしまう。

 床面に近い高さの壁コンセントは目につき難く、電源そのものの存在を忘れさせてしまう。机の下で壁電源からタップにつながれ、そのタップから別のタップにつないだ『タコ足配線』は、大学の居室では大変しばしば見かけられる。目の前にそのようなタコ足配線があれば、『ヤバいな』と認識されるのに、見えないとその危険を意識できない。『見える化』は安全対策の基本なのに、それを机の下に隠すような壁コンセントの配置は..解せぬ。


 さらに低い位置の壁コンセントは、今回のように電源コードが床を這うことを誘発する。『電源コードを踏むな!』と言うのではなく、踏ませないように配置する方が重要であろう。

 床面に電源コードを這わせる場合に、『見える化』のために『虎テープ』を貼るのは、言い訳にしかならない。『プラカバー』を配するのは一つの見識だが、『つまずき』事故を誘発しやすい。


 なんで、電源を『天井からのぶら下げタップ』にしないのだろうと、安野は首をひねる。


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