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キャンパスでは「ご安全に!」  作者: リオン/片桐リシン
025 点呼 全2話+3話
103/104

025 点呼 2 <足りない>


 「安野先生!2人たりません。」

 「なにっ? 誰ですか?」

 「松本冬彦くんと、松田秋男君です。」

事務のお姉さんの報告に安野は大きな声を上げた。

 安野は学生に呼びかけた。

 「お〜い。だれか松本冬彦と松田秋男に連絡できないか? 携帯番号を知っている奴は居ないか?」

 何人かの学生がスマホを取り出す。しかし、誰の電話にも応答は無い。

 「先生、回線が混雑していて、つながらないそうです。」

 「あちゃ〜っ!輻輳(ふくそう)か!」

一時期に電話が集中すると、回線がパンクしてつながらなくなる。これは輻湊(ふくそう)と呼ばれる現象で、災害時によく見られる。

 

 その時、余震が来た。

 ゆさゆさと数秒間、揺れた。グリーンベルト上の何人かの学生がしゃがみ込み、小さな悲鳴も聞こえた。


 「先生、どうしましょう?」

事務のお姉さんが不安げに安野に尋ねる。

 「逃げ後れているかもしれません。救助に向かいます。」

するとそれを聞いていた男性の事務官が安野に声を掛ける。

 「逃げ遅れが他にも居るかもしれませんので、お灯します。」

 「一人では危険ですから、ありがたい。 学部長、許可を。」

学部長は頷きながら

 「許可します。」

と許可を出した。


 結局、3組の救助隊が変成され、ヘルメットと懐中電灯を受け取り、工学部1号館講義室への救助活動に取りかかった。


 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪


 その頃、グリーンベルトの隅でメールを打っていた学生が松本冬彦との連絡に成功していた。

 《おい!冬! 生きてるか》

 《ほっとほ〜ぃ。春彦か? 生きてるよ。》

 《今どこだ?》

 《ん〜。下宿で寝てた。》

 《テレビを見ろ。地震が起きた。》

 《あ、本当だ。気がつかなかった。》

 《おまえ、安野の講義の点呼簿に名前を書いて、ばっくれたな!》

 《あ、ばれた? って春彦 どこ?》

 《今グリーンベルトの上で点呼中だ。おまえが居ないって大騒ぎだ。》

 《え〜。有機化学ダルいから代返を頼んでおいたんだけど…》

 《今、おまえを救助するために先生が何人か救助に向かっている。》

 《どうしよう?》

 《どうしようもないな。すぐに大学に来い!叱られろ!》


 ♪ ♪ ♪ ♪ ♪


 安野は『点呼簿』は大規模災害時の点呼に付くのであり、授業への『参加』確認は毎回課酢ミニッツペーパーで行うと最初の講義時に述べていた。実際、これまでに点呼簿は成績評価二関して一考だにされていない。また、仮に出席していることになっていても、ミニッツペーパーを提出しなければ『講義に参加していない』とみなす旨を厳命していた。 それでも、学生の中には、点呼簿を出席確認の手段として使っていると勘違いしている者がいた。そして、点呼簿に記入していれば出席は認められると勘違いしていた。シラバスを読んでいない、他人の話しを聞かないアホである。

 そして、松本冬彦も松田もそんなアホであった。アホは一人だと不安になるが、2人以上になると、相互に間違った思い込みを確認して、不安を払拭してしまう。よりたちの悪いアホになる。


 彼らの行為は『ピ逃げ』とか『キセル』と呼ばれ、それが成績評価に直接つながるなら、『成績評価に対する不正行為』として、最悪半期の単位が取り上げられ、留年が確定する。

 しかし、点呼簿の場合、成績評価とは無関係なため、学則上はそのようなペナルティは無い。それでも、教職員に命がけの捜索を行わせる原因になってしまった。彼らの名前は教授会などで共有され、その悪印象は今後の彼らの行動を縛ることになる。そして、研究室配属で、希望の研究室に受け入れられ憎くなったかもしれない。

 信頼関係を毀損したのであるから、自業自得である。


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