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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第九章 『悪の組織と冬の寒さと』

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決戦! さらばダークエルダーよ! その9

 半神と成った怪人は地に堕ちた。

 仰向けに倒れた黒雷の腹へと大槍が突き立てられ、一見するとそれは飛竜を地に縫い付けている様にも見える。

 「……ふ、ふふ。……良くやった、サラマンダー」

 黒雷は己の意思で変身を解き、その姿をツカサへと戻す。

 土手っ腹に穴を空けられたのだ、これは紛うことなき敗北であろう。

 「わ、わりぃ司さん。オレ、手加減できなくて……」

 慌てた様子でツカサへと謝るサラマンダー。その手に握られた大槍が抜かれた瞬間、腹部に激痛が走ったが……なんとか表情に出さずに済んだようだ。


 「兄さん! 今応急処置をします!」

 慌てたようにカレンが走ってきて、応急キットを取り出してくれる。実際は気功と半神化の影響で見た目ほど大事ではないのだが、真剣な妹の目を見たらツカサは何も言えない。

 大人しく上着を捲り……邪魔だからと脱ぎ捨てろと命令されたので寒空の下で上裸にさせられた。

 これ怪我よりも風邪の方が深刻になるんじゃない?

 「馬鹿と半神は風邪を引かないって言いますよ。兄さんはどっちもなんだから風邪なんて言葉は辞書にも載っていないでしょう?」

 「随分と酷い言われようだ……」

 これでカレンの目に涙が浮かんでさえいなければ口論でもしてやるつもりでいたのに、ツカサは二の句が継げないでいる。

 あとそこの土浦 楓さんは脱いだ服を抱き締めないでください。


 「しかし、黒雷さ……司さんも随分と強くなりましたね。まさかルナとアスカの力を用いてすら劣勢にさせられるとは」

 怪我を見慣れているからと応急処置に加わっていた水鏡 美月が苦笑しつつ、傷口用の大セロハンを貼ってくれる。

 その細い指が皮膚をなぞる感触がとてもこそばゆくて身動ぎしてしまいそうになるが、我慢。

 「そりゃあ、俺はキミ達の背を追っていたんだ。このくらい強くならないとライバルは名乗れないだろう?」

 ツカサがおどけたように言うと日向 陽から「だからって人を辞めることはないだろ」と冷静にツッコまれてしまったが、そちらは不可抗力なのでなんとも言えない。

 これほど大きなルミナストーンを使っていれば遅かれ早かれではあったらしいし。

 成りたくて成ったワケではないのだ。


 「……はい、ひとまずは完了です」

 穴の空いた腹部を隠すようにぐるぐると包帯が巻かれ、最後にキュッと圧を掛けられる。

 傷口は消毒して塞いだし、ツカサには人並み以上の治癒能力もある。内臓に傷が付いてないかは不安だが、これでしばらくは保つだろう。

 「何はともあれ、今すぐ病院に行きましょう。これからの話はその後です」

 「いやホント、ごめん……」

 未だにツカサを刺した事を気にしている様子の日向。ツカサ自身はこれくらいじゃないと決着が付かないと思っていたので気にしていないのだが、こういうのは本人の気の持ちよう次第なので、なんと声を掛けたらいいか……。


 「誇りたまえよブレイヴ・エレメンツ。キミ達は日本征服をあと一歩のところで達成するはずだった悪の組織を、壊滅へと追いやる一手を担ったのだ。そしてサラマンダー……日向 陽。キミはその幹部を討ち取るという名誉を成した。決して恥じることはない」

 嘆くな、誇れ。自身が強者であると。

 そして笑え。自身の討ち果たした者もまた強者であったと。

 それこそが負けた者が望む在り方である。

 ……なんて、面と向かって言えるほどツカサはポエマーではない。

 なので誤魔化すように咳払いをひとつ。そしてヴォルト・ギアから、この時の為にと用意していた物を取り出す。


 「俺を倒したキミ達へのご褒美だ。一応貴重な物だけど、できれば身に付けてくれると助かる。いやホント、これはできれば売らないで手元に残してね……」

 カレンに『そんなこと今やらないでさっさと病院に行け』とせっつかれながらも、ツカサはこれだけはと意地を張って彼女達へと黒い細長い箱を手渡す。

 その箱を迷いなく開けたカレンは数秒固まった後にツカサを睨み、あろうことかツカサの脛を思いっきり蹴り上げた。


 「ぎゃあああああああ!!?」

 「バッカじゃないですか!? 兄さんのバーカ!!」

 脛と腹を押さえながら蹲るツカサに対し、カレンはどこまでも辛辣に罵声を浴びせ続ける。

 一体何が入っているんだと、他三人も箱を開けてみれば……。そこに入っていたのは、ほんの小さな石が嵌められた金色のネックレス。

 三人のリアクションとしては、『そんなに怒るほどの物か?』といった感じだが。


 「……皆さんは分からないでしょうから教えてあげます。これ、多分純金製で嵌めてる石はおそらく極小のルミナストーンです。……世に出せば国家予算ですよホントに馬鹿じゃないですか!?」

 脛蹴りもう一発。悶絶するツカサを尻目に、何やらアホな代物を受け取ってしまったと判明した日向達は震える手で蓋を戻す。


 「いやいや、こんなん貰えないって!」


 「……歌恋のいない時に個人で受け取っていたらと思うとゾッとしますね。無知なまま身に付けて後から知ったら後悔で吐きそうですよ」


 「どうしてボク達全員に贈り物なんてするんですか! ボクだけにドーナツとか奢ってくれた方が百倍喜びますよ!」


 三者三葉。

 一人は若干毛色が違うが、『こんな高価な物は受け取れない』というスタンスは変わらないらしい。

 「いやね……これはお守りだよ、お守り。俺がヒーローとしてのキミ達を認めた証として、是非受け取って貰えると助かる」

 純金の部分は置いておくにしても、極小ルミナストーンの方は削りカスを凝固させたものに過ぎない。それでもドえらい価値ではあるが、天然物には劣る。

 そんな物が彼女達に必要になるのかと問われれば、それはまたいずれの決戦を見据えた転ばぬ先の杖……だからこそ『お守り』であると言える。


 「いずれ来たるべき厄災に向けて、キミ達にはより強くあって貰わなければならない。俺達ダークエルダーはその為に結成された組織であり、その厄災を乗り越えることこそが悲願なんだ」

 悪の組織ダークエルダーが生まれた理由。

 ツカサも最初に聞いた時は冗談かと疑ったものだ。

 「なんなんだ、その『厄災』ってのは」

 日向の疑問も尤も。これに関してはカレンも知らない話だから、全員が揃っているこの場で話すのが一番手っ取り早いかもしれない。

 病院に向かう道すがら、とはなってしまうが。

 「それは……」

 と、ツカサが口を開いた時だった。


 「言うに及ばず。百度説明するよりも、一度見た方が早かろう?」


 その声は天に轟き、空が割れ、そして……。


 「人間が『厄災』と呼んだ者。即ち我である」


 ──神と天使が舞い降りた。

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