第34話〘新たな四大商人の来店――御老貴族と謎の素材の正体〙
いつも『異世界で念願の店を開く転生者』をお読みいただき、ありがとうございます!
今回は『ディルサイドウ』に、新たなお客様が訪れます。
その来店が、思いもよらない出会いと発見へ繋がっていくことに……。
それでは、第34話をお楽しみください!
翌日――。
『ディルサイドウ』は、この日もいつものように営業を続けていた。
サイジョウが店内で客の対応をしていると、一人の年配の男性が店へ入ってきた。
「いらっしゃいませ」
サイジョウが声をかけると、男性は店内に並んでいる商品を見渡した。
そして、サイジョウへ声をかけた。
「少し聞きたいことがあるのだが、よいか?」
「はい。何でしょうか?」
「この店では、客に合わせた武器を作っていると聞いたのだが」
「オーダーメイドのことですか?」
「そうだ。ここでは、そのような依頼も受けているのか?」
「はい。依頼された方の戦い方や希望を聞いて、その人に合った武器を製作しています」
サイジョウが説明すると、男性は興味深そうに頷いた。
「なるほどな。では、武器の修理を頼むこともできるのか?」
「修理ですか?」
「ああ。実際に見てもらった方が早いだろう」
男性は持っていた一本の剣をサイジョウへ見せた。
サイジョウは剣を受け取ると、刃や柄など、剣全体の状態を確認していく。
しかし――。
その剣は刃だけでなく、剣全体がかなり傷んでいた。
サイジョウは剣を確認しながら、どのような方法で修復できるか考える。
(……これは、かなり傷んでいるな)
(刃を研ぎ直すだけでは、元の状態に戻すのは難しそうだ)
サイジョウは剣の状態を確認し終えると、男性へ説明することにした。
「こちらの剣ですが、刃だけでなく全体がかなり傷んでいます」
「やはり、そうか」
「はい。申し訳ありませんが、この状態では研ぎ直しや部分的な修理だけで、元の剣に戻すことは難しいと思います」
男性はサイジョウの説明を聞き、少し考え込んだ。
「では、この剣を直すことはできぬということか?」
「いえ。一つ方法があります」
「ほう?」
「この剣の形状などを参考に、新しく剣を製作する方法です」
「新しい剣を製作するのか?」
「はい。ただし、元の剣とまったく同じ物を製作することはできません」
サイジョウは剣へ視線を向けながら説明を続けた。
「それでも、剣の形状や重さ、握り心地などをできるだけ近づけた剣なら、製作できると思います」
「なるほど……元の剣に近い物を、新しく作るというわけだな」
「はい。必要な素材などを確認する必要はありますが、私としてはその方法をおすすめします」
男性はサイジョウの説明を静かに聞いていた。
「そうか。少し考えさせてもらってもよいか?」
「もちろんです。大切な剣だと思いますので、ゆっくり考えてください」
「うむ。ありがとう」
サイジョウは男性へ剣を返すと、軽く頭を下げた。
その時だった。
店の扉が開き、一人の男性が入ってきた。
「いらっしゃいませ」
サイジョウが声をかけると、男性は店内を見渡した。
「失礼します。こちらにサイジョウさんという方はいらっしゃいますか?」
「はい。私がサイジョウですが」
「そうでしたか。お会いできて良かったです」
男性はサイジョウへ近づこうとしたが、店内にいた年配の男性を見て、一瞬だけ足を止めた。
(……シュナランド国王陛下!?)
しかし、すぐに表情を戻し、何事もなかったかのようにサイジョウへ向き直った。
「実は、ナルガスさんからこちらのお店を紹介していただきまして」
「ナルガスさんからですか?」
ナルガスは、以前サイジョウが武器を製作した護衛団【楓鳳凰】の一人だった。
(ナルガスさんが紹介してくれたのか……)
「失礼しました。まだ名乗っておりませんでしたね」
男性は丁寧に頭を下げた。
「私は、王都で商団『トラーリス』を営んでおります、フレイと申します」
「フレイさんですね。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
フレイは、シュナランド国王の専属商団を率いる四大商人の一人だった。
その四大商人には、以前サイジョウが取引した『バルヴェル』のナルバスも名を連ねている。
サイジョウはフレイを迎えると、ナルガスから紹介された理由を尋ねた。
「ところでフレイさん。ナルガスさんからの紹介とおっしゃっていましたが、どういったご用件でしょうか?」
「実は以前、ナルガスさんたち【楓鳳凰】へ護衛を依頼したことがありまして」
「ナルガスさんたちに護衛を?」
「はい。その時に、少し驚く出来事があったのです」
フレイは当時の出来事について説明し始めた。
護衛の途中で魔物が現れ、ナルガスたちが戦闘に入ったという。
しかし、フレイが驚いたのはその後だった。
「ナルガスさん、ボランダさん、レイアさん、ミューラさんの四人が、それぞれ魔物を一体ずつ、たった一撃で討伐してしまったのです」
「そうだったんですね」
「ええ。もちろん、皆さんの実力も素晴らしかったのですが、私は彼らが使用していた武器にも興味を持ちまして」
「武器ですか?」
「はい。そこでナルガスさんに尋ねたところ、こちらのお店を紹介していただいたのです」
フレイは店内に並ぶ商品へ視線を向けた。
「ナルガスさんのお話では、皆さんが素材を持ち込み、サイジョウさんへ武器の製作を依頼されたとか」
「はい。確かに皆さんから素材をお預かりして、それぞれの武器を製作しました」
「なるほど。やはりそうでしたか」
フレイは納得したように頷いた。
「それだけではありません。こちらでは回復アイテムも製作していると伺いました」
「はい。ポーションなども製作して販売しています」
「そうでしたか。ナルガスさんからお話を聞いて、ぜひ一度こちらのお店へ伺いたいと思っていたのです」
「ありがとうございます」
サイジョウはそう答えた。
自分が製作した武器を使っているナルガスたちから、新たな客を紹介してもらえた。
それは店を営むサイジョウにとっても嬉しいことだった。
すると――。
フレイが何かを思い出したように声をかけた。
「サイジョウさん。実はもう一つ、お見せしたい物があるのですが」
「見せたい物ですか?」
「はい。こちらなのですが……」
フレイは持っていた荷物から、一本の枝と一枚の葉を取り出した。
サイジョウは、その葉と枝へ視線を向けた。
葉は鮮やかな緑色をしており、普通の植物とは異なる美しさがあった。
枝もまた、表面には美しい木目が浮かび、普通の木とは異なる独特の質感があった。
「綺麗な葉と枝ですね」
「ええ。実はこれ、西側にある『ヴェルセント樹海』で偶然発見した物なのです」
「ヴェルセント樹海ですか?」
「はい。ですが、私もこのような素材は初めて見ました。色々と調べてみたのですが、結局何なのか分からなかったのです。サイジョウさんなら、何かご存じではないかと思いまして」
「そうだったんですね」
サイジョウは改めて葉と枝を確認した。
その瞬間――。
神様から授かった知識によって、二つの素材が何なのか理解した。
(……まさか、この素材は!?)
サイジョウは驚いていた。
目の前にある素材は、神様から授かった知識の中に存在していた物だった。
しかも、簡単に手に入るような素材ではない。
(どうして、こんな物がここに……?)
サイジョウは葉と枝を見つめながら考える。
しかし、その正体をすぐに口にすることはしなかった。
フレイはもちろん、先ほどから店内にいる年配の男性も、サイジョウが何を考えているのか分からない様子だった。
その時――。
再び店の扉が開いた。
「いらっしゃいませ」
サイジョウが入口へ視線を向けると、そこには見覚えのある人物が立っていた。
商業ギルド長のエルフィだった。
「エルフィギルド長」
「やあ、サイジョウ」
エルフィはサイジョウへ声をかけると、店内にいたフレイに気づいた。
「おや? フレイではないか。久しぶりだね」
「エルフィさん。お久しぶりです」
二人が挨拶を交わす。
しかし――。
エルフィが隣にいる年配の男性へ視線を向けた瞬間、表情が変わった。
「…………って、シュナランド国王陛下!?」
「……え?」
サイジョウは思わず聞き返した。
「シュナランド……国王?」
エルフィは、自分が思わず国王の正体を口にしてしまったことに気づいた。
一方、シュナランドは特に気にする様子もなく、驚いているサイジョウへ笑いかけた。
「サイジョウよ。この方は、アマヴィルディ王国の国王陛下だよ」
「…………えええええええっ!?」
サイジョウは思わず大きな声を上げた。
先ほどまで普通の客として接していた年配の男性。
その人物が、まさかアマヴィルディ王国の国王だったとは思ってもいなかった。
「こ、国王陛下!? どうして陛下が私の店に……!?」
驚くサイジョウを見て、シュナランドは穏やかに笑った。
「ははは。そう驚かずともよい」
「い、いえ……驚きますよ!」
「実はな、ナルバスからお主のことを聞いておったのだ」
「ナルバスさんから……ですか?」
その名前を聞いた瞬間、サイジョウは以前ヴァランから聞いた話を思い出した。
ナルバスは、シュナランド国王に仕える四大商人の一人であり、商団『バルヴェル』を率いる人物だった。
そして、先ほど店を訪れたフレイもまた、四大商人の一人だった。
(そういえば……ヴァランさんから、ナルバスさんの商団が国王陛下の専属商団だと聞いていたな)
サイジョウは改めてシュナランドへ視線を向けた。
「ナルバスから、お主が武器や回復アイテムを製作していると聞いてな。どのような人物なのか、一度会ってみたくなったのだ」
「そ、それでお忍びで……?」
「うむ。もっとも、完全に一人で来たわけではない」
「そうなんですか?」
「店の外には、護衛騎士を六人待機させておる」
「ろ、六人もいるんですか!?」
「ははは。さすがに国王が護衛もつけずに街を歩けば、周囲が黙っておらぬのでな」
シュナランドはそう言って笑った。
サイジョウは、ようやく少し落ち着きを取り戻した。
「そうだったんですね……」
「うむ。そう畏まらずともよい。先ほどまでと同じように接してくれればよいのだ」
「そ、そう言われましても……相手が国王陛下となると……」
「ははは! 先ほどまで普通に話しておったではないか」
「それは、国王陛下だと知らなかったからですよ……」
サイジョウは困ったように答えた。
まさか、自分の店へ国王が訪れるとは思っていなかった。
しかも、先ほどまで傷んだ剣の修理について普通に説明していたのだ。
サイジョウは改めてシュナランドへ頭を下げた。
すると、シュナランドは先ほどの剣について話し始めた。
「ところでサイジョウよ。先ほどの剣のことだが」
「はい」
「お主の説明はよく分かった。元の剣とまったく同じ物は難しいが、それに近い新しい剣なら製作できるということだったな」
「はい。そのとおりです」
「うむ。では、その件については改めて考えるとしよう」
「分かりました」
サイジョウはそう答えた。
国王だからといって、剣の傷み具合が変わるわけではない。
自分にできることと、難しいことを正直に説明する。
それは、どの客に対しても変わらないことだった。
話が一段落したところで、サイジョウはフレイが持ち込んだ葉と枝を思い出した。
「そういえば、エルフィギルド長。少し見ていただきたい物があるのですが」
「見てほしい物?」
「はい。フレイさんが持ってこられた素材なのですが」
サイジョウは、先ほどフレイが取り出した葉と枝をエルフィへ見せた。
「こちらの葉と枝を見たことはありますか?」
エルフィは二つの素材へ視線を向けた。
そして、しばらく確認していたが――。
「……いや。私も初めて見る素材だね」
「エルフィさんでも分かりませんか」
フレイが少し驚いたように尋ねた。
「ああ。随分と珍しい素材のようだが、一体どこで手に入れたんだい?」
「西側のヴェルセント樹海で、偶然発見した物です」
「ヴェルセント樹海か……」
エルフィは改めて葉と枝を見つめた。
「それにしても、不思議な素材だね」
その会話を聞いていたサイジョウは、少し考え込んだ。
(……やっぱり、エルフィギルド長も知らないのか)
サイジョウは神様から授かった知識によって、二つの素材の正体を理解していた。
しかし、これほど貴重な素材について、簡単に説明してよいものなのか迷っていた。
(これは……下手に話したら、大変なことになるかもしれないな)
サイジョウは店内を見渡した。
そして、一つの判断をした。
「すみません。少しよろしいでしょうか?」
「どうしたのだ?」
シュナランドが尋ねた。
「実は、この素材についてお話ししたいことがあります」
「ほう?」
「ですが、その前に少しだけお待ちいただけますか?」
サイジョウはそう伝えると、ベルティを呼んだ。
「ベルティさん」
「はい。サイジョウ様」
「ベルティさん。申し訳ありませんが、少しの間、お店を閉めてもらえますか?」
「えっ? お店をですか?」
「はい。少し大切なお話がありますので」
「かしこまりました、サイジョウ様」
ベルティは店内にほかの客がいないことを確認すると、店の入口を閉め、サイジョウへ報告した。
これで、外部の客に話を聞かれる心配はなくなった。
サイジョウはシュナランド、エルフィ、フレイの三人へ向き直った。
「お待たせしました」
「サイジョウよ。店を閉めてまで話すということは、それほど重要なことなのか?」
シュナランドが尋ねた。
「はい。シュナランド陛下。実は……私はこの葉と枝が何なのか知っています」
「何だと?」
フレイとエルフィも驚いた表情を浮かべた。
「サイジョウさん。この素材をご存じなのですか?」
「はい。実物を見るのは初めてですが、何なのかは知っています」
「そうなのかい?」
エルフィも興味深そうに尋ねた。
「はい。ただし、これからお話しすることは、できれば外部に漏らさないでいただきたいのです」
サイジョウの言葉を聞き、三人は表情を引き締めた。
「……そこまでの素材なのか?」
シュナランドが尋ねた。
「はい。私の知る限り、幻に近いほど貴重な素材です」
「幻に近いほど……」
フレイは、自分が持ち込んだ葉と枝へ視線を向けた。
偶然発見した素材が、そこまで貴重な物だとは思っていなかったのだ。
シュナランドはサイジョウの真剣な表情を見つめていた。
店を一時閉めてまで話そうとしていること。
そして、素材の正体を明かす前に口外しないよう求めていること。
それだけでも、二つの素材が普通の物ではないと理解できた。
「分かった。この場で聞いたことは、決して外へ漏らさぬと約束しよう」
シュナランドはそう答えた。
「私も約束するよ、サイジョウ」
エルフィも頷いた。
「もちろん、私も口外いたしません」
フレイも同じように約束した。
サイジョウは三人の言葉を聞き、安心したように頷いた。
「ありがとうございます。では、お話しします」
サイジョウは三人の顔を順番に見つめた。
そして――。
「この葉は【世界樹の葉】。そして、こちらの枝は【世界樹の枝】です」
サイジョウの説明を聞いたシュナランド、エルフィ、フレイの三人は驚いていた。
フレイがヴェルセント樹海で偶然発見した、正体不明の葉と枝。
それが、幻に近いほど貴重な世界樹の素材だったとは、三人とも思っていなかった。
そしてサイジョウは、神様から授かった知識によって、その正体を知っていた。
こうして『ディルサイドウ』では、国王シュナランドの突然の来店に続き、世界樹の素材という新たな発見が明らかになったのであった。
第34話を最後までお読みいただき、ありがとうございました!
新たな四大商人フレイの来店、そして思いがけない国王シュナランドとの出会い。
さらに、フレイが持ち込んだ謎の素材は、なんと【世界樹の葉】と【世界樹の枝】でした。
この貴重な素材が、今後どのような展開へ繋がっていくのでしょうか。
次回もぜひお楽しみに!
これからも『異世界で念願の店を開く転生者』をよろしくお願いします。
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