第30話〘新たなオーダー依頼――二人が目にしたサイジョウの集中力〙
いつも本作をお読みいただき、ありがとうございます。
大商団『バルヴェル』の商団長ナルバスから、新たな依頼を引き受けることになったサイジョウ。
今回も『ディルサイドウ』での日々を通して、製作へ向き合うサイジョウと、彼を支える仲間達の姿が描かれていきます。
少しずつ店としての歩みを進めていくサイジョウ達の様子を、今回も最後までお楽しみいただけましたら幸いです。
ナルバスから依頼されたポーションと魔力ポーション、そして短剣十本の製作。
その依頼を引き受けることを決めたサイジョウは、ナルバスへ向けて頷いた。
「分かりました。その依頼、お引き受けします」
「ありがとうございます、サイジョウ様」
ナルバスはそう言うと、先ほどマジックボックスから取り出した【魔力草】と【魔水草】をサイジョウへ差し出した。
「こちらをお使いください」
「ありがとうございます。使わせてもらいます」
サイジョウはナルバスから【魔力草】と【魔水草】を受け取ると、自身のマジックボックスへ収納した。
これで魔力ポーションを製作するために必要な素材も揃った。
そして話を終える前に、サイジョウはナルバスへ一つ伝えておきたいことがあった。
「ナルバスさん。ヴァランさんに会ったら、私が店に来てほしいと言っていたと伝えてもらえますか?」
「ヴァラン様に、ですか?」
「はい。お願いします」
「承知致しました。ヴァラン様にお伝えしておきます」
ナルバスはサイジョウの言葉を了承すると、席を立った。
サイジョウもナルバスを見送るため、一緒に店内へと向かう。
「それではサイジョウ様、依頼の品についてよろしくお願い致します」
「はい。任せてください」
ナルバスは最後に丁寧に頭を下げると、『ディルサイドウ』をあとにした。
ナルバスを見送ったサイジョウは工房へ戻ると、さっそく依頼されたアイテムの製作に取りかかることにした。
今回依頼されているのは、ポーション二十個と魔力ポーション五個。
まずはポーションから製作を始める。
「まずはポーション二十個からだな」
サイジョウは必要となる素材と製作道具を準備すると、作業台の前に立った。
最初に使用する薬草の状態を一つずつ確認していく。
傷んでいる部分があれば丁寧に取り除き、まだ使用できる部分については無駄にせず、細かくしてから粉末状になるまですり潰していく。
ある程度の量を用意すると、今度は粉末にした薬草を液体と混ぜ合わせていく。
そして――。
「【錬金】」
サイジョウがスキルを発動すると、混ぜ合わせた素材から回復に必要となる成分が抽出されていく。
抽出された成分を確認しながら調整を行い、完成した液体を用意していた瓶へと入れていく。
一本を完成させると、すぐに次の製作へ取りかかる。
サイジョウは一度製作に集中すると、周囲のことがほとんど気にならなくなるほど作業へ没頭していた。
素材の状態を確認し、僅かな違いにも気を配りながら、一つ一つの工程を丁寧に進めていく。
製作を始めた瞬間から、完成するその時まで。
その集中力が途切れることはなく、まるで意識のすべてを目の前の製作だけに研ぎ澄ませているかのようだった。
そして――。
製作を始めてから数時間。
サイジョウが製作を続ける姿を、少し離れた場所から見つめている二人がいた。
ベルティとウルティだった。
二人は声をかけることもなく、サイジョウの製作する姿をじっと見つめていた。
素材の状態を確認する時も、薬草を加工する時も、【錬金】を使って回復に必要となる成分を抽出する時も、サイジョウの手が止まることはほとんどない。
次に何をするのか迷う様子もなく、一つ一つの工程を正確に進めていく。
そして何より二人を圧倒していたのは、製作を始めてから完成するまで、一度も途切れることのないサイジョウの集中力だった。
まるで目の前にある製作だけへ、すべての意識を研ぎ澄ませているかのように。
「ウルティ、サイジョウ様の集中力、凄すぎるわね。私達がいることにも気づいてないみたい」
ベルティが小さな声で話しかけると、ウルティもサイジョウから目を離さないまま頷いた。
「私達もサイジョウ様の製作工程を実際に見て、同じやり方で製作しているのに、何が違うのか分からなかったけど……今、少し分かった気がするわ」
「確かにそうだね。私達は、サイジョウ様の製作に比べたら、まだまだ未熟よね、ベルティ」
二人がサイジョウから教わった製作方法は、決して間違ってはいない。
同じ工程を繰り返し、自分達でもポーションを製作できるようになっている。
それでも、実際にサイジョウの製作する姿を最初から最後まで見ていると、自分達との違いが少しずつ見えてくる。
一つ一つの工程に迷いがなく、僅かな変化にも意識を向けながら、完成するその瞬間まで集中を途切れさせない。
ベルティとウルティはサイジョウの製作工程を見つめながら、自分達にはまだ足りないものがあることを感じ取っていた。
そして――。
「ふぅ……これで二十個完成だな」
最後のポーションを瓶へ入れ終えたサイジョウは、そこでようやく作業の手を止めた。
数時間にわたって続いていた集中が解けた、その時だった。
「サイジョウ様、今大丈夫でしょうか?」
突然後ろから声をかけられ、サイジョウは振り返った。
そこにはベルティとウルティの二人が立っていた。
「ベルティさん、ウルティさん? いつからそこにいたんですか?」
サイジョウは二人が工房にいたことに、今までまったく気づいていなかった。
「実はサイジョウ様に、ご報告がありまして」
ベルティの言葉に、サイジョウは首を傾げる。
「報告ですか?」
「はい。店で販売していたアイテムが、すべて売り切れました。それと、武器と防具も残り僅かで、ほとんど売り切れている状態です」
「そんなに売れたんですか?」
「はい。それをお伝えするために、こちらへ来ました」
ベルティから報告を受けたサイジョウは、完成したポーションをマジックボックスへ収納すると、二人と一緒に店へ向かった。
店内へ入ったサイジョウが商品棚を確認してみると、ベルティの言葉通り、アイテムが並んでいた棚は空になっている。
武器や防具も僅かに残っているだけだった。
その光景を目にしたサイジョウは、嬉しそうに微笑んだ。
「良かったです。それじゃ、今日は店を閉めましょう」
「「分かりました。サイジョウ様」」
ベルティとウルティは返事をすると、閉店するための準備を始めた。
サイジョウも二人を手伝いながら店内を片付け、その日の営業を終える。
片付けを終えたサイジョウは、明日の営業に必要となる商品を補充するため、製作の準備を始めようとした。
その時――。
「サイジョウ様、お待ちください」
声をかけてきたのはカルロゼだった。
その隣にはザキヴァル。そしてベルティとウルティの姿もある。
「どうしました?」
「明日の店に並べる品については、私達にお任せいただけないでしょうか」
「え?」
サイジョウが四人を見ると、今度はザキヴァルが口を開いた。
「武器と防具については、私とカルロゼで製作致します。ですので、サイジョウ様はご自身が引き受けられた依頼を優先してください」
その言葉に続いて、ベルティとウルティも頷く。
「アイテムは私達が製作します」
「まだサイジョウ様と同じようには作れませんけど、店に並べる品なら私達でも製作できます」
四人の言葉を聞いたサイジョウは、すぐには返事をせず、それぞれの顔を見つめた。
店を始めたばかりの頃は、自分が多くの商品を製作していた。
だが今は違う。
ベルティとウルティは自分達でアイテムを製作できるようになり、カルロゼとザキヴァルも店を支えてくれている。
「……皆さんに任せてもいいんですか?」
「もちろんです、サイジョウ様」
カルロゼがそう答えると、三人も頷いた。
「サイジョウ様がすべてを製作する必要はありません。店の品は私達が製作致しますので、どうか依頼された品の製作を優先してください」
四人からそう促され、サイジョウは少し考えたあと、笑みを浮かべた。
「分かりました。それじゃ、明日の店に並べる商品は皆さんにお願いします」
「「「「分かりました。サイジョウ様」」」」
話を終えると、四人はそれぞれ明日の営業に向けた商品の製作に取りかかった。
カルロゼは武器の製作へ。
ザキヴァルは防具の製作へ。
そしてベルティとウルティも、店に並べるアイテムを補充するため、二人で製作を始めていく。
それぞれが自分の役割を理解し、迷うことなく製作へ取りかかっていく姿を、サイジョウは少し離れた場所から見つめていた。
この店を始めるために動き出した頃は、自分一人で商品を製作し、店をやっていくつもりだった。
だが今は、自分だけではない。
武器を製作してくれるカルロゼ。
防具を製作してくれるザキヴァル。
そして、アイテム製作を覚えながら店を支えてくれているベルティとウルティ。
四人がこの店に来てくれたからこそ、こうして自分は依頼された品の製作に集中することができる。
(本当に、皆さんが来てくれて良かったな……)
製作を始めた四人の姿を見ながら、サイジョウは心の中で感謝した。
そして自分も、残っている依頼品を完成させるため、再び製作へ取りかかることにした。
次に製作するのは、魔力ポーション五個。
サイジョウはナルバスから受け取った【魔力草】と【魔水草】、そして魔力水を準備すると、知識として理解している製作工程を頭の中で確認する。
まずは【魔力草】と【魔水草】の状態を一つずつ確認していく。
傷んでいるものと状態の良いものを丁寧に振り分け、傷んでいる部分についても捨てることはせず、【錬金】を使って粉末状へと加工していく。
今回の魔力ポーション製作では使用しないが、別の製作で必要になる可能性もある。
サイジョウは粉末にしたものをそれぞれ別の容器へ入れ、大切に保管した。
続いて、状態の良い【魔水草】を細かくすり潰し、粉末状へと加工する。
粉末にした【魔水草】を、用意していた魔力水の入った容器へ加え、全体へ行き渡るように混ぜ合わせていく。
その中へ、先ほど選別した状態の良い【魔力草】を漬け込んだ。
しばらくすると、【魔力草】が【魔水草】の成分を含んだ魔力水を少しずつ内部へ吸収し始める。
サイジョウはその状態を確認しながら待ち続けた。
やがて容器の中に入っていた魔力水はすべて【魔力草】へと吸収され、魔力草そのものも水分を含み、柔らかくふやけた状態へと変化していた。
「これで次の工程に進めるな」
サイジョウは魔力水を十分に吸収した【魔力草】を取り出すと、別の容器へと移していく。
そして――。
「【錬金】」
スキルを発動し、【魔水草】の成分を含んだ魔力水を吸収した【魔力草】から、魔力成分を抽出していく。
通常のポーションを製作する時とは違い、二種類の素材を選別し、【魔水草】を粉末にして魔力水へ混ぜ、さらにそれを【魔力草】へ完全に吸収させなければならない。
サイジョウは製作方法そのものを知識として理解していた。
そのため、次に何をすればいいのか迷うことはない。
だが――実際に自分で製作してみると、その手間はサイジョウが思っていた以上のものだった。
「作り方は分かっていたけど……普通のポーションより、かなり手間がかかるな」
そう呟きながらも、サイジョウは集中を切らすことなく製作を続ける。
抽出した魔力成分を調整し、完成した液体を用意していた瓶へと入れていく。
そして一本目の魔力ポーションが完成した。
その時、サイジョウは製作によって消費した自身の魔力量を確認する。
「一個で……4500も消費するのか」
通常のポーション以上に多くの工程を必要とするだけでなく、一個を完成させるために消費する魔力も4500。
知識として製作方法を理解していたサイジョウだったが、実際に製作したことで、その負担の大きさを改めて実感していた。
それでも、依頼されている数は五個。
サイジョウは再び素材を手に取ると、同じ工程を繰り返していく。
一個、また一個と魔力ポーションを完成させ――。
やがて、作業台の上には五個の魔力ポーションが並んでいた。
五個を製作するために消費した魔力は、合計22500。
「ふぅ……これで魔力ポーションも五個完成だな」
完成した魔力ポーションを確認したサイジョウは、ようやく作業の手を止める。
これでナルバスから依頼されたポーション二十個と、魔力ポーション五個。
二十五個のアイテムすべてが完成した。
残る依頼品は――短剣十本。
サイジョウは完成した二十五個のアイテムをマジックボックスへ収納すると、残る依頼品を完成させるため、次の製作へ取りかかるのであった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
今回は、ナルバスから受けた新たな依頼品の製作を進める中で、ベルティとウルティがサイジョウの製作に対する集中力を目の当たりにするお話となりました。
また、店を支える四人の存在によって、サイジョウ自身も依頼された製作へ集中できる環境が少しずつ整ってきました。
次回の更新は未定となっております。
しばらくはメイン作品の執筆に集中する予定ですが、本作も少しずつ進めていきたいと思っております。
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これからも『異世界で念願の店を開く転生者』をよろしくお願いいたします。




