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異世界で念願の店を開く転生者  作者: うさだデジ子
第一章『異世界転生』

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第29話〘王都公認の大商団――商団長ナルバスからの新たな依頼〙

いつも本作をお読みいただき、ありがとうございます。


念願だった店『ディルサイドウ』を開店し、少しずつ自分が思い描いていた形へと近づいていくサイジョウ。


そんな中、店を訪れたのは王都から正式な認定を受けている大商団『バルヴェル』の商団長ナルバスでした。


今回は、ナルバスが持ち込んだ新たな依頼をきっかけに、サイジョウの店にも新たな繋がりが生まれていきます。


今回も最後までお楽しみいただけましたら幸いです。

翌日――。


サイジョウはいつも通り『ディルサイドウ』の工房で、店に並べるアイテムを製作していた。


店を開店してから、少しずつではあるが訪れる冒険者の数も増えている。


そのため、店に並べているアイテムの中には売り切れるものも出るようになっていた。


しかしサイジョウは、必要以上に商品を作って店へ並べることはしていなかった。


『ディルサイドウ』だけですべての商品が揃ってしまえば、冒険者達が他の店へ足を運ぶ機会が減ってしまう。


それは、サイジョウが望んでいることではなかった。


自分の店だけが繁盛するのではなく、他の店にも冒険者達が訪れ、街全体が賑わっていく。


それこそが、元の世界で営業の仕事をしていたサイジョウが思い描いていた形だった。


製作を終えたサイジョウは工房から店内へ戻ると、窓の外へ視線を向けた。


通りには冒険者達の姿があり、『ディルサイドウ』だけではなく、周辺にある店にも人が出入りしている。


以前よりも、街を行き交う人達の姿が増えていた。


その光景を眺めながら、サイジョウは小さく笑みを浮かべる。


「この街も賑やかになったな。まさに自分が描いていた感じになったかな? 少しは」


自分の店だけに客を集めるのではなく、街にある他の店にも人が流れていく。


サイジョウが考えていた形が、少しずつではあるが現実のものになり始めていた。


その後、サイジョウは再び工房へ戻ると、店に並べるためのアイテム製作を続けていた。


しばらく作業を続けていると、工房の扉が開き、ベルティが顔を覗かせる。


「サイジョウさん、依頼をお願いしたいという方が来ています」


「分かりました。部屋に案内をお願いします」


「分かりました」


ベルティはそう答えると、依頼主を案内するため工房をあとにした。


サイジョウも作業を一度止めると、手を整えてから依頼主が待つ部屋へ向かった。


部屋へ入ると、そこには一人の男性が座っていた。


「お待たせしました。依頼主の方ですね」


サイジョウが声をかけると、男性は立ち上がってサイジョウを見る。


「貴方がサイジョウ様ですね?」


「そうですけど……」


「失礼しました。わたくし、王都より正式な認定を受けております大商団『バルヴェル』で商団長を務めております、ナルバスと申します」


「大商団『バルヴェル』……ですか?」


サイジョウは聞き覚えのない名前に、少し首を傾げた。


王都から正式な認定を受けていると言われても、この世界へ来てまだ日が浅いサイジョウには、それがどれほどのものなのか分からない。


そこでサイジョウは、一度ベルティを呼ぶことにした。


「ベルティさん、少しいいですか?」


「はい。どうしました?」


「大商団『バルヴェル』について知っていますか?」


サイジョウが尋ねた瞬間、ベルティの表情が変わった。


「もちろん知っていますよ。王都から正式に認定を受けている大商団です」


「やっぱり凄い商団なんですか?」


「凄いどころじゃありません。王都から正式な認定を受けられる商団は、ごく一部だけなんです」


ベルティはナルバスへ視線を向けてから、説明を続ける。


「商団としての実績や信用がなければ認定されません。『バルヴェル』は、その数少ない認定を受けている商団の一つなんです」


「なるほど……」


ベルティの説明を聞き、サイジョウはようやく理解した。


目の前にいるナルバスは、ただの商人ではない。


王都から正式に認められた大商団『バルヴェル』。


その商団を率いる人物が、わざわざ『ディルサイドウ』を訪れているのだ。


「その大商団の商団長であるナルバスさんが、私にどのようなご用件でしょうか?」


サイジョウが尋ねると、ナルバスは静かに頷いた。


「実はヴァラン様から、サイジョウ様にこれを渡すよう伝えられまして、本日こちらへ伺いました」


「ヴァランさんからですか?」


ナルバスはそう答えると、持ってきていた荷物の中から一つの鉱石を取り出し、サイジョウの前へ差し出した。


「こちらです」


サイジョウが差し出された鉱石へ視線を向ける。


【ミスリルオリバ鉱石】。


その鉱石を目にした瞬間、傍にいたベルティが驚きの表情を浮かべた。


「えっ……【ミスリルオリバ鉱石】!?」


「ベルティさん、この鉱石を知っているんですか?」


「もちろんです。これは超希少幻鉱石ですよ」


「超希少幻鉱石……」


ベルティの反応を見たサイジョウは、改めて目の前にある【ミスリルオリバ鉱石】へ視線を向けた。


それほど希少な鉱石を、なぜヴァランが自分へ渡そうとしているのか。


サイジョウには、その理由が分からなかった。


「ナルバスさん。どうしてヴァランさんが、この鉱石を私に?」


サイジョウが尋ねると、ナルバスは【ミスリルオリバ鉱石】をサイジョウへ渡した。


「その鉱石は、今回お願いしたい依頼の対価としてお受け取りください」


「依頼の対価ですか?」


「はい。実は三日後、討伐へ向かう予定がありまして、その際に使用するアイテムを製作していただきたいのです」


ナルバスは、今回必要としているアイテムについてサイジョウへ説明していく。


討伐へ向かうメンバーは五人。


必要となるのは回復のためのポーションと、魔力を回復するための魔力ポーションだった。


その内訳は、ポーション二十個と魔力ポーション五個。


五人分で、合計二十五個を製作してほしいという依頼だった。


「三日後までに、二十五個ですか……」


「はい。お願いできますでしょうか?」


サイジョウはナルバスから受け取った【ミスリルオリバ鉱石】を見つめながら、依頼の内容を頭の中で整理する。


「ポーションなら何とかなると思います。ただ……」


サイジョウは少し考え込んだ。


「魔力ポーションの素材が足りないんです」


「素材ですか?」


「はい。【魔力草】と【魔水草】が必要なんですが、今は手元になくて……」


三日後までに必要となる数を製作するのであれば、まずは素材を手に入れなければならない。


どうしようかと考えていた、その時だった。


「それでしたら、わたくしが持っていますよ」


「え?」


ナルバスはそう言うと、自身のマジックボックスから二種類の素材を取り出した。


【魔力草】。


そして【魔水草】。


サイジョウが探していた、魔力ポーションの製作に必要となる素材だった。


「持っているんですか?」


「はい。商人は必要となる品を、常に決められた数だけ常備しておりますので」


「なるほど……」


サイジョウは思わず感心した。


必要になるかもしれない品をあらかじめ用意し、いつでも対応できるようにしておく。


王都から正式な認定を受けている大商団『バルヴェル』の商団長だけあって、その準備にも抜かりがないようだった。


「ナルバスさん。その【魔力草】と【魔水草】、必要な分を買わせてもらえませんか?」


するとナルバスは、少し考えてから口を開いた。


「こちらはお譲りします」


「いいんですか?」


「はい。ただ、わたくしからも一つお願いがあります」


「お願いですか?」


「サイジョウ様の店で販売されている短剣を、十本ほどお願いしたいのです」


「短剣を十本ですか?」


「はい。もちろん、短剣の代金は別にお支払い致します」


ナルバスが求めているのは、【魔力草】と【魔水草】との交換ではない。


素材はサイジョウへ譲り、そのうえで『ディルサイドウ』の短剣を十本、正式に購入したいということだった。


「でも、どうして短剣を十本も?」


サイジョウが尋ねると、ナルバスはその理由を話し始めた。


「以前、ヴァラン様に護衛をお願いしたことがありまして、その際に、ヴァラン様が短剣を使われるところを目にしたのです」


「ヴァランさんの短剣を?」


「はい。護衛の途中で魔物と遭遇したのですが、ヴァラン様はその短剣を使い、魔物を一撃で仕留められました」


ナルバスの話を聞き、サイジョウは思い当たる。


ヴァランはオーダーメイドの長剣について話をしたあと、『ディルサイドウ』で販売していた短剣を購入していた。


どうやらナルバスは、その短剣が実際に使われるところを目にしていたらしい。


「それで、あの短剣を十本欲しいということですか?」


「はい。あれほどの短剣でしたら、ぜひ購入させていただきたいと思いまして」


「なるほど……」


サイジョウは少し考えたあと、ナルバスへ一つだけ条件を伝えることにした。


「分かりました。ただ、一つだけお願いしてもいいですか?」


「何でしょうか?」


「短剣を私が製作したということは、他の人には話さないでもらえますか?」


ナルバスはサイジョウの言葉を聞き、静かに頷いた。


「承知致しました」


「ありがとうございます。ただ、この約束だけは必ず守ってください。もし他の人に話したことが分かった場合は、そのことをヴァランさんにも伝えます。それに、私も約束を破った貴方を許すつもりはありません。そのことだけは理解しておいてください」


サイジョウが真剣な表情で伝えると、ナルバスもその言葉の意味を理解したように頷いた。


「分かりました。お約束致します」


ナルバスの返事を聞き、サイジョウは静かに頷いた。


こうしてサイジョウは、三日後の討伐に必要となるポーションと魔力ポーションの製作。


そしてナルバスから新たに頼まれた、短剣十本の製作を引き受けることになった。


必要となる【魔力草】と【魔水草】も手に入り、魔力ポーションを製作するための準備も整った。


ナルバスとの話を終えたサイジョウは、依頼された品を完成させるため、再び工房へと向かうのであった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


今回は、大商団『バルヴェル』の商団長ナルバスが『ディルサイドウ』を訪れ、新たな依頼を受けるお話となりました。


超希少幻鉱石【ミスリルオリバ鉱石】を対価として、新たな製作を引き受けたサイジョウ。


次回の更新は未定となっております。


しばらくはメイン作品の執筆に集中する予定ですが、本作も少しずつ進めていきたいと思っております。


ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。


これからも『異世界で念願の店を開く転生者』をよろしくお願いいたします。

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