第13話〘初めて学ぶ武器の価格――鉱石で変わる武器の価値〙
第13話です。
ポーションの販売価格を無事に決めたサイジョウ。
今回はもう一つの製作品である短剣をエルフィに見てもらい、武器の価格や鉱石によって変わる価値について学んでいきます。
今回もよろしくお願いします。
サイジョウはマジックボックスから一本の短剣を取り出した。
それは、開店後に販売するために製作した五本の短剣のうちの一本だった。
「この短剣なんですが、鉄銀鉱石を使って製作しました」
「鉄銀鉱石ね」
エルフィはサイジョウから短剣を受け取ると、刃や持ち手を確認していく。
見た目だけなら、ごく普通の短剣にしか見えない。
「実は同じ短剣を、ナルガスさんが900Gで買ってくれることになったんです」
「ナルガスが900Gで?」
「はい。アラドの森でメタルホーンラビットと戦った時に使った短剣なんですが、その後ナルガスさんが試し斬りをして、それで売ってほしいと言われました」
サイジョウは、アラドの森で起きた出来事をエルフィへ説明する。
大量のホーンラビットと共に現れたメタルホーンラビット。
ナルガスたちの攻撃さえ弾いた硬い身体を、自分が製作した短剣で抵抗なく斬り倒してしまったこと。
さらに戦闘後、ナルガスが短剣を借り、近くにあった大木へ試し斬りをしたところ、その大木まで音一つ立てずに斬れてしまったこと。
そして、その性能を見たナルガスから900Gで売ってほしいと頼まれたことを話した。
「それで、開店後の販売用にも同じ短剣を五本製作しました」
エルフィは話を聞き終えると、手にした短剣を改めて見つめた。
「メタルホーンラビットを斬ったうえに、大木まで……」
「はい。自分でも驚きました」
「……少し、この短剣を試してみてもいいかしら?」
「もちろんです」
エルフィは短剣を持ったまま立ち上がる。
「それならサイジョウ、少し付き合ってもらえる?」
「はい」
サイジョウも椅子から立ち上がると、エルフィと秘書の後についてギルド長室を出た。
三人はそのまま商業ギルドの地下へ向かう。
階段を下り、しばらく進むと、広い部屋へ到着した。
「こんな場所があったんですね」
「ここなら武器の性能を確認できるわ」
部屋の中には、武器の性能を確認するために使われる太い丸太がいくつも置かれていた。
エルフィが短剣を構えると、秘書が一歩前へ出る。
「念のため、周囲を保護します」
秘書が片手を前へ向けた。
「【防御壁】」
その瞬間、魔法によって作られた防御壁が展開され、部屋の周囲を覆っていく。
「これで大丈夫です」
「ありがとう。それじゃ、試してみるわね」
「はい」
エルフィは一本の太い丸太の前へ立った。
そして短剣を構えると、そのまま丸太へ向けて振り下ろした。
――。
何の音もしなかった。
そして、何の手応えもない。
「……え?」
エルフィは思わず手にした短剣へ視線を落とした。
その直後――。
太い丸太の上部がゆっくりと横へずれ始める。
そして、そのまま地面へ落ちた。
「…………」
エルフィと秘書は、綺麗に斬られた丸太を見つめたまま言葉を失っていた。
サイジョウは以前ナルガスが試し斬りをした時と同じ光景を見ながら、心の中で呟く。
(やっぱり、この短剣おかしいよな……。)
エルフィは手にした短剣を何度も確認する。
「これが……鉄銀鉱石で作った短剣……?」
「はい」
「信じられない斬れ味ね……」
エルフィは少し考えると、離れた場所に置かれているもう一本の太い丸太へ視線を向けた。
「もう一つ試してみるわ」
「まだ試すんですか?」
「ええ。今度は投げてみるわ」
エルフィは太い丸太から距離を取る。
そして短剣を構え――。
勢いよく投擲した。
ズドッ――。
短剣が太い丸太へ突き刺さる。
しかし――。
短剣は止まらなかった。
そのまま太い丸太を一気に貫き、反対側へ飛び出した。
丸太には、短剣が通り抜けた貫通穴が残っている。
さらに短剣は勢いを失うことなく、そのまま後方へ飛び続け――。
ガキィィン――。
秘書が展開していた【防御壁】へ突き刺さり、ようやく止まった。
「…………」
再び地下の部屋が静まり返る。
エルフィは貫通穴が開いた太い丸太を見る。
そして次に、【防御壁】へ突き刺さっている短剣へ視線を向けた。
秘書も、自分が展開した【防御壁】に突き刺さった短剣を見つめながら驚いている。
「サイジョウ……」
「はい?」
「これ、本当に普通の鉄銀鉱石で作ったのよね?」
「はい。普通の鉄銀鉱石を使って製作しました」
エルフィは小さく息を吐き、もう一度丸太へ開いた貫通穴を見る。
「本当にクラウディル一族は……」
そう呟くと、エルフィは【防御壁】から短剣を回収し、サイジョウへ返した。
そして、改めて短剣の価格について説明を始める。
「サイジョウ。この短剣の値段についてだけど、その前に一つ覚えておきなさい」
「はい」
「武器の値段は、使われている鉱石によって変わるの」
「鉱石によってですか?」
「ええ。どこでも採掘できる鉱石と、滅多に採掘できない希少な鉱石では、当然値段も違うわ。それに、完成した武器の性能によっても価格は変わってくるの」
「なるほど……」
サイジョウはエルフィの説明を聞きながら頷いた。
「今回あなたが使った鉄銀鉱石は、比較的どこでも採掘できる安い鉱石よ」
エルフィはサイジョウの持つ短剣へ視線を向ける。
「普通の鉄銀鉱石で作られた短剣なら、200Gくらいね」
「200Gですか」
「ええ。でも、あなたが作った短剣は普通の物とは違うわ」
先ほど斬られた丸太。
そして、貫通穴の開いた丸太。
その二つを見れば、普通の短剣との違いは明らかだった。
「これだけの斬れ味があるうえ、その斬れ味も長持ちする。店で普通に販売するなら600Gくらいが適正だと思うわ」
「600G……」
サイジョウは手にした短剣を見つめる。
普通なら200G。
しかし、自分が製作した短剣なら600G。
同じ鉄銀鉱石から作った物でも、完成した武器の性能によって価格が大きく変わるらしい。
そこでサイジョウは、ナルガスとの約束を思い出した。
「でも、ナルガスさんは900Gで買うと言ってくれましたけど……。900Gで売っても大丈夫なんでしょうか?」
「それなら問題ないわ」
エルフィはすぐに答えた。
「ナルガスは実際にその短剣の性能を見て、自分で試したうえで900Gを提示したのでしょう?」
「はい」
「それなら900Gでも妥当よ。ナルガス自身がそれだけの価値があると判断して提示した金額なのだから」
「そうなんですね」
サイジョウは安心したように頷いた。
自分から900Gを要求したわけではないとはいえ、普通なら200Gほどの短剣を900Gで売っていいのか、少し気になっていた。
エルフィから問題ないと言われ、ようやく安心することができた。
すると、エルフィはさらに続ける。
「それと、もう一つ覚えておきなさい」
「はい」
「店に並べて販売する商品と、お客から直接依頼されて製作する物では、値段の決め方を変えてもいいのよ」
「直接依頼された物ですか?」
「ええ。オーダーメイドの一点物なら、使用する素材や完成した性能、それに製作する手間を考えて、通常の商品より少し高めの値段を付けてもいいわ」
「なるほど……」
サイジョウはエルフィの話を聞きながら、一つひとつ覚えていく。
アイテムや武器を製作するための知識は、固有スキルによって自然と理解することができる。
しかし、それを商品として販売するための知識までは別だった。
この世界の商品相場。
使用する素材による価格の違い。
完成した性能による価値。
そして、通常販売とオーダーメイドによる価格の違い。
自分の店を開く以上、これから覚えなければならないことはまだたくさんある。
「エルフィさん、ありがとうございます。すごく勉強になりました」
「どういたしまして」
エルフィは微笑みながらサイジョウを見る。
「開店するまでは、製作した物の値段が分からなかったら私のところへ持ってきなさい。適正な価格を教えてあげるわ」
「本当ですか? 助かります」
「あなたはまだこの街へ来て二週間なんだから、分からないことがあるのは当然よ。少しずつ覚えていけばいいわ」
「はい。ありがとうございます」
サイジョウは改めてエルフィへ頭を下げた。
異世界へ転生して二週間。
製作することは少しずつできるようになってきたが、自分の店を開くためには、それだけでは足りない。
商品の価値を知り、適正な価格を決めることも、店を経営していくためには必要なことだった。
今回エルフィから教えてもらったことで、サイジョウは商売についてまた一つ新しいことを学ぶことができた。
こうしてサイジョウは、念願だった自分の店の開店へ向けて、一つずつ新しいことを学びながら着実に準備を進めていくのであった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
エルフィに短剣を見てもらい、武器の価格や鉱石によって変わる価値について学んだサイジョウ。
そして、通常販売だけでなく、オーダーメイドの一点物についても新たな知識を得ることができました。
少しずつ商売について学びながら、念願の店の開店へ向けて準備を進めていきます。
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今後とも『異世界で念願の店を開く転生者』をよろしくお願いいたします。




