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うちの美人僧侶がドSすぎて、魔王より怖いです。〜治してはくれるけど、助けてはくれません〜  作者: キョウ


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第14話 それが、俺の決定だ

「俺はルカ。こっちのお姉さんっぽい人がリラさんで、妹っぽい方がミナだ」


「説明がちょっと雑じゃないかしら」


 リラさんが冷めた目で俺を見てきたが、気にしたら負けだ。


「それと、一応俺は勇者やってる」


 メルヴィは俺の顔ではなく、腰に下げた剣へ視線を向けた。


「勇者……」


 その声には、わずかな警戒が混じっていた。

 メルヴィの視線が、腰の剣から俺の顔へ戻る。

 わずかに身体が強張った。


「メルヴィは、誰かに追われていたのか?」


 そう尋ねると、メルヴィの指が器の縁を強く握った。


「……お前には関係ない」


「あるよ。追手がいるなら、俺たちも知らないまま動くわけにはいかない」


 メルヴィは俺の顔を見つめた。

 しばらく迷ったあと、焚き火へ視線を落とす。


「私は、人間とも魔王軍とも関わらない里で暮らしていた」


 ぽつりと、メルヴィが話し始めた。


「魔族だけの、小さな隠れ里だ」


 誰も口を挟まなかった。


「ずっと、ひっそり暮らしていた。人間とも関わらず、魔王軍に協力することもなかった」


「そんな里があるのか」


「……もうない」


 膝の上で握られた手が、小さく震えている。


「魔王軍に加われと言われて、里長が断った」


 メルヴィは炎を見つめたまま続けた。


「それから間もなく、里は襲われた」


 焚き火の中で、枝が小さく弾ける。


「みんな散り散りに逃げた。誰が生きているのかも分からない」


「メルヴィは一人で?」


「途中までは何人か一緒だった。でも、追手に見つかって……」


 そこで言葉が止まった。


 唇を噛み、炎を睨んでいる。


 そこから先は無理に聞くことでもない。


「帰る場所はあるのか?」


「……ない」


 メルヴィは短く答えた。


 リラさんは黙って焚き火を見つめている。

 ミナも何か言いたそうにしていたが、結局口を閉じた。


「じゃあ、明日は俺たちと街まで来るか?」


 メルヴィが顔を上げる。


「どういうつもり」


「このまま森に置いていくわけにもいかないだろ」


「一人で平気だ」


「倒れてたけど」


「……」


「傷が治っても、まだまともに歩けないだろ」


 メルヴィは悔しそうに眉を寄せた。


「街にはギルドもあるし、情報も集まるんじゃないか」


「人間の街に魔族を連れていくつもりか?」


「角は隠した方がいいだろうな」


「そういう問題じゃない」


 メルヴィは呆れたように息を吐いた。


「私が一緒にいれば、お前たちに迷惑がかかる」


「意外と優しいところあるんだな」


「冗談ではない」


 メルヴィの声が低くなった。


「おそらく、魔王軍はまだ私を追っている」


 赤紫の瞳が、まっすぐ俺を捉えた。


「私がいれば、お前の仲間たちまで狙われるだろう」


「……」


 すぐには答えられなかった。


 冒険者に危険はつきものだ。


 それでも、今回は違う。


 俺がメルヴィを連れていけば、リラさんとミナまで魔王軍に狙われるかもしれない。


 俺一人で決めていい話ではない。


「大丈夫よ、ルカ」


 隣から聞き慣れた綺麗な声がした。


 リラさんは俺を見ていなかった。

 焚き火の向こうにいるメルヴィへ、静かに視線を向けている。


「悩む必要なんてある?」


「え?」


「私は最初から、あなたについていくと決めてるもの」


「でも、リラさんまで巻き込むことになるかもしれません」


「あら」


 そこでようやく、リラさんが俺を見た。


「魔王を倒しに行く勇者についてきているのよ?」


 わずかに口元を緩める。


「魔王軍に狙われるくらい、今さらでしょう」


「それは、そうですけど」


「それに」


 薄紫の瞳が、まっすぐ俺を捉えた。


「私は、私の勇者様が決めたことについていくわ」


 ……そういうことを平然と言うから、ずるい。


「わ、私もです!」


 ミナが勢いよく手を挙げた。


「メルヴィさんを一人で置いていくなんてできません!」


「でも、危険なんだぞ」


「だ、大丈夫です!」


 ミナは杖を両手で抱き締めた。


「えっと、その……一緒にご飯も食べましたし」


「それで?」


「その……もう仲間です!」


 仲間になるのがだいぶ早い。

 出会ってまだ半日も経っていないぞ。


 でも、やっぱりミナは良い子だ。


「二人とも、ありがとう」


 俺はメルヴィへ向き直った。


「というわけだ」


「何が、というわけだ」


「俺たちはお前を街まで連れていく」


「私の話を聞いていたか?」


「聞いた。そのうえで決めた」


 メルヴィが眉を寄せる。


「お前が魔王軍に追われてるなら、なおさら一人にはできない」


「……」


「なにより、こんな美人が困ってるなら放っておけないしな」


 ぱちんっ、と乾いた音が森に響いた。


「いてっ!」


 頬を押さえて振り向く。


 リラさんが、にこやかに手を下ろしていた。


「あら、ごめんなさい、ルカ」


「絶対わざとですよね!?」


「私のルカが、誰かを口説いていた気がして」


「口説いてませんよ!」


「美人だから助けるんでしょう?」


「そこだけ抜き出さないでください!」


「ふふっ」


 ミナの口から、小さな笑い声が漏れた。

 俺と目が合うと、慌てて口元を押さえる。


「ご、ごめんなさい。でも、なんだかお二人らしくて……」


 リラさんもどこか満足そうに笑っている。


 俺は叩かれた頬をさすりながら、もう一度メルヴィを見た。


「……もちろん、それだけじゃない」


 メルヴィがわずかに目を細める。


「困ってるやつを見捨てるような勇者にはなりたくない」


「……」


「リラさんの勇者として、ミナの仲間として、それが俺の決定だ」


 メルヴィの赤紫の瞳が、少しだけ見開かれた。

 何かを確かめるように、しばらく俺を見つめている。


「……そう」


 今までより、少しだけ声が柔らかかった。


「ルカったら無駄にカッコつけちゃって」


「うるさいですよ」


 ビンタされた頬とは反対側まで熱くなった。


「ルカさん! 今のすごく勇者っぽかったですよ!」

 

「ありがとう、ミナ。俺はいつも勇者だよ」


 メルヴィは俺たちを順番に見回す。


「変わった勇者パーティーだな」


「否定はできないな」


 俺が答えると、リラさんは楽しそうに笑い、ミナも小さく頷いた。


 メルヴィは小さく息を吐き、残っていた水を飲み干した。


「……街までだ」


「ああ」


「一緒に行くのは、街までだけ」


「分かった」


「それと」


 メルヴィは俺を睨む。


「助けてもらったなんて思ってないから」


「魚は食ったけどな」


「……あれは余ってたんだろう」


「まあ、そうかもな」


 また腹が小さく鳴った。


 メルヴィは何も言わず、焚き火で焼かれている二匹目の人面魚へ視線を向けた。


 俺は串を一本取る。


「いる?」


「……半分」


「メルヴィは、遠慮するタイプだったのか」


「違う。見た目が限界なだけだ」


 確かに。


 結局、メルヴィは人面魚を半分どころか、きっちり一匹食べた。

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