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乳がんとともに  作者: 蒼井 つばさ


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9/22

抗がん剤の開始

留置術から1週間後。


私はまだ産科一般病棟にいた。


本来なら、病棟も産科病棟から乳腺外科病棟に移るはずなのだ。

だが、当該病棟が満床なのだという。


今から思えば、この頃まだ産後2週間。

精神不安定な産婦に寄り添ってくれていたのだろうと、想像するに難くない。


私がいた部屋は大部屋でも、他の妊産婦がいなかったのだから。



事前に、医師から抗がん剤のサイクル表のようなものを渡されていた。

それには、


どのタイミングで

どのような副作用が出るか


などが書かれていた。


抗がん剤は3週間毎。

最初の2日ほど吐き気が出ることがあるということ。

脱毛は2週間目ごろから始まるということ。


「だから、帽子用意しといた方が良いと思う。」


と、医師からは聞かされた。


コロコロも必須だった。

シーツの掃除

脱毛の始まった頭に被るニット帽の掃除など…

超絶役に立ったことは明言しておく。


抗がん剤投与は約2時間。

吐き気どめの点滴からはじまり、私の場合は“AC”と呼ばれる抗がん剤。

最後に生理食塩水を流して終了。

という流れだ。


最初の吐き気どめの点滴の際に

「これはまだ吐き気どめだからね。大丈夫だよ。」

と助産師に励まされた。


そしてその助産師が

「しばらくは私がついてるからね!」

と、そばにいてくれたのも心強かった。


点滴による体調の異変などを看るためではあった。

それでも、理由はどうでも良かった。


誰かがそばにいてくれる。

ただそれだけでよかった。


そうして30分ほどで吐き気どめが終わり、いよいよ本番が始まる。


どぎついオレンジ色をした薬液だ。


『うわぁ…すんごい色…。』


そんな風に最初はぼんやりと眺めていた。


「じゃあ、点滴落とすよ。」


点滴のロックが外される。


ゆっくり


でも確実に


そのオレンジの薬液がチューブを通りながら迫ってくる。


『思ったより早くつたってくるんだなぁ…。」


まだぼんやりとそんなことを考える。


目は、無意識にその様子を追っていた。


そして上腕に到達する。


『あぁ、遂に入ってくるんだ…。』


ぎゅっと目を閉じる。


その目尻からは、涙が一筋流れた。


そばについてくれている助産師が、優しく手を握ってくれた。


言葉はなくとも、その手の温もりに励まされた気がした。



起き上がることが困難で、初めての抗がん剤。

それも、産科病棟。


そうこともあってのことだろう。

私には所謂“おしっこの管”がつけられていた。


これがついていると、尿意を感じることなくこの管をつたって袋の中に排出されていく。

それがまた見事にオレンジ色なのだ。


勿論、抗がん剤の色よりは若干薄いが。


事前にそんな色の尿が出るとは聞いていたが、

『本当に抗がん剤そのままの色で出るんだ!」

と、ある意味感心したのを覚えている。


抗がん剤といえば、主な副作用として真っ先に思い浮かぶのは吐き気だろう。

一昔前の医療ドラマなどで激しい嘔吐をする姿が表現されたりしているイメージだ。


近年でも、そんな人が多いのではないだろうか。


だが、

「今のお薬はそんなことないよ。特に妊娠経験してる人は、つわりの方がしんどいっていう人も多いよ。」

と医師からは説明があった。


『そういうものなの?でも、そういう人が“多い”だけでしょ?私がそうじゃなかったら…。』


そんな思いもあった。


だが、本当に医師の言った通りだった。


吐き気といっても

『ちょっと胸がムカムカするなぁ…。』

くらいで、本当につわりの方がしんどかったのだ。


だからこの時はまだ、抗がん剤が始まっても元気でいられた。


そう、まだ元気だった。


精神的に。

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