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乳がんとともに  作者: 蒼井 つばさ


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6/13

出産

病状説明の後、私は大部屋には戻らず、そのままFMICUに残された。


その夜だっただろうか。


[時間決まったら教えてな。病院行くから。

 手術午前中とかって有り得る?]


そう、夫からLINEが入っていた。

私は返す。


[もう一人の先生の予定がわからないらしくて、まだわからん。

 明日来てからみたいやから、多分午後とかじゃないかなぁ。]


出産前夜。

点滴のためのルートとりだったり

「明日、頑張ってね!」

と、助産師たちが応援に駆けつけたりしてくれた。


翌朝。

出産当日の朝、8時頃だっただろうか。

日勤の助産師が巡回に来たタイミングでもう一度手術時間の確認をする。

しかし、まだわからないとのことだった。


だからだろうか、私はここで

『やっぱり、まだまだ先っぽいな。』

と、気を抜いていたのだ。


助産師が退室して、1時間ほど経っただろうか。

いや、きっと経っていなかった。

そんなタイミングで、再度助産師が入室してくる。


そして、助産師から発せられた言葉に一瞬耳を疑った。


「蒼井さーん。30分後には病棟出て手術室向かうよ!」


「え!?30分後!?」

「そう。旦那さんに連絡取れる?」

「連絡してみます!」


そういうほぼ同時くらいだろうか。

私の指はスマホ画面を忙しなく走っている。


[ユン(夫の呼称)ー!30分後に病棟出るって!]


少し待つ。

が、既読は付かない。


LINE通話をかけてみるも出ない。


[ユンー!]

[早く見てー!]

[急やけど、時間迫ってる!!]

[ねーえー!]


1分おきくらいに追いLINEをしてみる。

が、やっぱり既読は付かない。

コール音が一瞬だから気づいていないのだろうか。

あまり意味はないかもしれないと思いながらも、通常の電話に切り替えてみるがやっぱり出ない。


内心焦りがで始めた時、病室のドアがノックされる。

「はーい!」

と、返答すると、執刀医である産科担当医が顔を出した。


どうやらタイムリミットのようだ。


「旦那さん、連絡取れた?」

「それが、まだ取れなくて…。最近夜お酒飲んでるって言ってたから、もしかしたら寝てるのかも…。一旦うちの親に連絡してみます。」


そう言って、握っていたスマホ開く。


母は、携帯を携帯しない人やから出る保証はない。

家電は父さんか弟が出るだろうが、時間がかかりすぎる。


ということは…。


0.1(コンマ1)秒ほどの思考ののち、耳元では呼び出し音が鳴る。

3回ほどコールした後だろうか。特有の吃音まじりの声が聞こえた。

瞬間、私は話し出す。



手術室に運ばれているストレッチャーの上で。



「あ、父さん?今から出産になったんやけど、ユンくんと連絡つかんねん。私はもう手術室入るから、そっちからユンくんに連絡しとてほしい。」

用件だけを話して通話を切る。

スマホは同行してくれている助産師が預かってくれた。


そして、手術室に入室すると医師から説明がある。

「麻酔はお母さんにかかると、お腹の赤ちゃんにも効くことがある。だから、申し送りや手術の準備が全部終わって、“では、始めます”ってなってからかけるからね。」

「わかりました。」


そうして色々な準備が整えられていく。

しばらくすると、どうやら全て整ったようだった。


「じゃあ、麻酔かけるねー。」

数秒後、私の意識は強制シャットダウンをさせられた。


次の瞬間

「終わったよー。赤ちゃんは先に病棟戻ってるからね。」

と知らされた。


どうやら後処理をしているようだった。

この辺りはまだ、麻酔でぼんやりしていて覚えていない。


ベッドが病棟へ戻る。

病棟入り口では、一人の人物が私を待っていた。

夫である。

どうやら、娘のお迎えには間に合ったらしい。


「ありがとう。お疲れ様!」

そんな言葉と共に、まだ見ぬ娘の写真も見せてくれた。


私は麻酔で眠っていて、産声を聞くこともできなかった。

その上に、娘との初めましてをも夫に盗られた。


娘が無事に生まれてきてくれた事が嬉しくもあり、本来なら世のお母さんたちが経験している事さえ経験できなかったことが悔しかった。

私は陣痛さえ経験できていないのだ。

どことなくこの時から植え付けれた“母親”としての劣等感だった。


麻酔から覚醒し、色々落ち着いてからスマホを確認する。

すると、そこには


[今病院ついた…

 気づけなくてごめん…]

[手術室近くにいるからな!]

[頑張れ!!]

[頑張れ!!]

[3人で絶対家帰るで!]

[無事産まれたで!

 可愛い女の子や

 つばさ産んでくれてありがとう…お疲れ様!!]


そんな愛情たっぷりのLINEと、娘の写真が送られていた。


名付けは随分前に決まっていた。


お互いに候補を出し合って決めたのだが、夫から出てくる候補はほぼ私の本名の漢字を使ったものばかり。


なんだか娘を私の忘形見にされているようで、そんな名前は全力で拒否をした。


“一緒に生きたい”という、強い願望からだった。


それでも夫の出してくれていた候補の名前に、よく使われていた漢字に気に入った文字はあった。

だから、その文字を使った名前を考えたのだった。

(プライバシー保護のため、娘の本名は公開しませんが、呼称を“りん”とさせていただく。)



在胎期間:31週1日

体重:1554g

身長:39.4cm



小さな小さな娘の誕生だ。

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