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乳がんとともに  作者: 蒼井 つばさ


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5/13

出産日の決定

告知を受けた日は、病院側の配慮もあり元の病室に帰ることはなかった。

そのまま翌日の日付が変わる前ごろまで、個室で過ごさせてもらえたのだ。


勿論、1泊分の個室代は支払っている。

その時間が最大限許される限り、そこで過ごさせてもらうことができた。

夫も私が個室で1泊することを許してくれた。


大部屋では通話は禁止だったし、消灯時間も21時と決まっている。

だが、個室ではその辺りの規制が緩和される。


夜、なかなか眠れない私に、夜勤の助産師がつきっきりで話し相手になってくれていた。

きっと病棟内でも私のメンタルケアの指示も出ていたのだろう。

翌日からも個室の空いている日は、消灯時間から日付が変わる頃まで個室に連れて行ってくれ、時間の許す限りそばについていてくれた。


日中のふとしたタイミングに、涙ばかりこぼしていた私。

その事にどれだけ救われていたか…。


そんな当時、私は妊婦なのにも関わらず、ある漫画を漫画サイトで読み始めていた。


鈴ノ木ユウ氏の漫画。

『コウノドリ』である。


ある日、担当助産師に

「妊娠してからね、『コウノドリ』読み始めたんですよ。」

そう話したら

「え!!蒼井さんなんてことするんですか!!私、他の妊婦さんにも(妊娠中には)アレだけは見るなって言ってるのに!!」

と、言われてしまった。


確かに色んなケースの妊娠出産にまつわるストーリーだ。

精神的に不安定になりやすい妊婦にとっては、読まない方がいいこともあるかもしれない。

だが、私にとっては読んでいてよかったと思う場面もあった。


丁度21週の頃のスクリーニング検査で、娘が口唇口蓋裂かもしれないと言われたのだ。


その時には、既にそのエピソードを読んでいた後だった。

だからこそ、そのことでそこまで思い悩むことはなかった。

きちんと手術などをすればきれいに治るという知識がついていたからだ。


「だから、読んでてよかったなぁと思ったりはするんです。」

助産師にはそう答えておいた。


告知後、大部屋に戻る時に助産師から、お向かいのベッドの人が

「蒼井さん、帰ってくるのかなぁ。」

と、心配してくれていたと聞いた。


私が戻った頃には、逆にその人はいなくなっていた。


彼女はもう出産へ向かったのだろうか。

急変とかでFMICUに移ったりしたんだろうか。


「〇〇さん、いないみたいだけど、どうかされたんですか?」


気にはなったが、個人情報だ。

教えてもらえるわけがなかった。


そのまま再度彼女の声は聞こえることなく、日は過ぎていった。


そんな日々を過ごしていた、5月も下旬に差し掛かったある日の夕食後ごろだっただろうか。


助産師からその日と翌日に胎児の肺の成長を促す注射をすると告げられた。


告知を受けた時は、

「37週を待って帝王切開。その後全身検査をしてから治療方針を決める。場合によっては34週になるかもしれない。」

そういう話を聞いていた。


だが、現時点で30週後半

『このタイミングでそういう注射を打つという事は、思っているより出産が早まるのかもしれないな。』

と悟った。


1回目の注射の時、助産師から

「明日、旦那さんに来てもらいたいって先生が言ってるんやけど、来てもらえそう?」

そう言われた。


翌日、指定の時間に夫が来ると、私はいつものようにベッドごと移動させられる。

面談室か個室に行くのか思ったのだが、連れて行かれた先は入院初日に入ったFMICUだった。

『あぁ、面談室とか個室が空いてなかったのかな?』

と、その時はそう思ったのだ。


産科担当医、乳腺外科主治医、他の医師、看護師たち

広くはないその部屋に勢揃いした面々。


その数10名ほど。


乳腺外科医が話を始める。


「2週間前の検査では、肝臓への転移があるかどうか、殆ど見えない状態だったんだけど、この間の検査では一気に広がってた。このままだとね、自分の手で育児ができなくなるかもしれない。」


そう言われた。


そして医師は話を続ける。


「だから、早めに赤ちゃんを産んで、抗がん剤を始めたい。」


大体こんな感じだったと思う。


『あぁ、やっぱりな…。』

そんな思いも確かにあった。


医師から私の意思を聞かれたので

「それが、この子と私にとっての最善なのなら…。」

そう受託した。


ここまで静聴していた夫が、言葉を発する。


「出産は、早ければいつになるんですか?」


医師が答える。


「早ければ?明日。」


「え!?明日!?」


今度は、私が驚きの声をあげる。

「そう。明日。」


確かに、思っていたより早くなるだろうと予想はしていた。

予想はしていたものの、まさか翌日になるなんて思ってもいなかったため思考が追いつかない。


そんな私を他所に産科担当医により話は進んでいる。


「執刀は私ともう一人、上の先生とで担当するんだけど、その先生の予定をまだ聞いてないから時間はまだ分からない。」


ということだった。


そして出産方法について説明がされる。


まとめるとこういうことだ。


本来の帝王切開は横に切るのだが、私の場合は児が小さいため縦に切開する。

また、本来なら硬膜外麻酔で背中から針を刺し、骨の間から麻酔を入れる。

だが、私の場合はがんの転移により骨が潰れている。

そのため安全に麻酔がかからない可能性がある。

故に、全身麻酔で帝王切開を行うとのことだった。


こうして、急遽出産が決まったのである。

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