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乳がんとともに  作者: 蒼井 つばさ


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11/13

退院へ向けて

転棟前後、私には漠然とした不安があった。


『もしかしたら、私は少なくとも夏は…下手をすると年内は病院にいることになるのかもしれない…。』


そんな思考が、いつも頭の片隅にあった。


ギャッチアップの角度は上がってきてはいた。

だが、移動のためのリクライニング車椅子への移乗には、看護師数人の介助が必要だった。

更に、その頃はまだ床上排泄。


先が見通せる状態ではなかったのだ。


しかし、いい意味で予想外だった。

転棟からしばらくすると、退院に向けての準備が始まった。


これに関しては、大学病院側が一番大変だったことだろう。

私や夫が少しでも過ごしやすくするためにと、準備手配をたくさんしてもらった。


その中のひとつが介護保険である。


当時、やっと普通の車椅子にも座れるようにはなっていた。

だが、歩くのにはまだまだ付き添いがいないといけなかった。


その他にも、足に荷重をかけられないことから、ピックアップ歩行器と呼ばれるものの使用や、骨の脆さから胸から骨盤までを覆うようなコルセットも使う必要があった。

これの着脱は一人ではできず、誰か手助けが必要だった。


ベッドも普通のベッドではなく、介護用のギャッチアップができるものである必要もあったのだ。

外出時は勿論車椅子。


そのため、病室に認定調査員が来たりもした。


基本的に介護保険が下りるのは高齢者が多い。

そのためだろうか、調査員から聞かれる質問も


「今日は何月何日ですか?」

「今の季節はなんですか?」


なんて質問から


「トイレには一人で行けますか?」

「お風呂は一人で入れますか?」

「食事は一自分で食べられていますか?」

「歯磨きはしていますか?」


そんな質問もあったのだ。


結果として、出た認定は“要介護4”。


予想よりもはるかに高い介護度だった。


医師が出す意見書には、少しでも認定が通りやすいようにという意味合いも含め、

“乳がん末期”

と記載してくれていたようだ。


Stage4

早ければ1、2年と言われた身。


ある意味至極当然の記載でもあっただろう。

理解はしている。


現実と、医師からの“少しでも退院後を楽に生活できるように”という配慮。

そう、理解はしているのだが、“末期”と言う言葉の響きは、不意に頭を殴られたような衝撃を伴い、一瞬頭の中が真っ白になった。


そんな準備が進み出すと、そこからの流れはとても早かった。

ホームケアクリニックを紹介してもらったり、ケアマネージャー(以下、ケアマネ)を紹介してもらった。

これから関わっていく面々の“顔合わせ”と称したカンファレンスも行われた。


そして、退院に向けた具体的な話も進められていった。


娘の退院も絡んでいる。


紆余曲折あったものの、順調な成長ぶりの娘。

本来の出産予定日ごろには退院可能な見通しで、私の退院日をどうしていくかという話にもなっていた。


私個人としては、同じ日に退院したいという気持ちが大きかった。

娘が先に退院して、私の入院期間が長引いていくのは、精神的に耐えられそうになかった。


平日は毎日、新生児室に娘に会いに行ける。

それが入院生活の中での、私の心の支えでもあったからだ。


夫も病院と掛け合うと言ってくれていたが、がんセンターの担当者があまりいい顔をしなかった。

夫の負担を懸念してのことだった。


一応、私の退院のタイミングに合わせて、実母が住み込みで助けに来てくれることになってはいた。

だが、昔から股関節の悪かった母は、正直万一の時に娘を任せっきりにはできない身体でもあった。


おそらく、担当者はその事も懸念していたのだろう。


それでも、私の願いも夫の願いもただ一つ。

“ふたり揃って退院したい”

それだけだったのだ。


そんな私たちの願いを受けて、病院側の判断が下された。


最終的に娘は7月下旬の金曜日。

私は土日を挟んだ週明け月曜日に退院という事で話がまとまった。


夏真っ盛りの8月を目前に、ようやく親子3人揃っての生活ができることになったのだ。

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