不死鳥 ー後編ー
ゼブラがフェニックスの城に滞在してから、約一週間の時が流れ、身体の調子もすっかり良くなっていた。
ユーフォニアと共に散歩をしていると、突然こんなことを聞いてきた。
『ゼブラは、何で旅をしているの?』
それを聞いたゼブラは遠くを見つめ、こう言った。
『……復讐するためさ』
いつも優しくしてくれているゼブラから、そんな言葉が出てくるとは思わなかったユーフォニア。しかし、彼からは憎しみを感じなかった。
『復讐?』
『そうだ……。いや、そうだったと言うべきかな……』
ユーフォニアと過ごすうちに、彼の中の憎しみは薄れていっていた。今では、いつの間にか復讐に身を費やすよりも、この生活が気に入っていた。
『ねぇ、このまま一緒にココで暮らそうよ』
そんな事、考えもしていなかった。
ゼブラは目を閉じた。ココで暮らしたらどんなに幸せだろうか、そんな未来を空想した。
『それも、良いかもな』
その返事にユーフォニアの心は踊るようだった。そんな時、城から息を切らせながら一人の兵士が走ってきた。
『大変です!! 陛下が……!!』
すぐに城へ駆け付けると、王はベッドで苦しんでいた。
『お父様っ!! しっかりして、お父様っ!!』
王の口からは大量の血が吹き出している。
『……姫様、大変申し上げにくいのですが、王の病を治す方法はございませぬ……』
城の医者はそう告げた。フェニックスは死ぬ事はないが、痛みは感じるし、病にもかかるのだった。
なんということだろうか、王は不死身が故に、死ぬことも無く、激しい痛みを無限に感じ、苦しみ続けなくてはならなかった。
『誰がっ、ワダジを、ゴロジデ、グレ……』
もはや、不死身は奇跡などではない。呪いでしかなかったのだ。
王の苦しむ姿を見て、泣き崩れるユーフォニア。その姿にゼブラは心を激しく痛めた。
『なんて、御痛わしい御姿……。せめて、楽にして差し上げる事が出来たなら……』
医者がそうボヤいたのを聞いて、ゼブラはフェニックスを殺す方法を思い付いた。
『……俺が、俺が王を殺します!』
その場に居た者全てがゼブラの方に顔を向けた。
『しかし、王は不死身で死ぬ事は出来ませぬ』
そんな事、百も承知だ。だが、方法が無いわけではなかった。ゼブラは強く拳を握りしめて言った。
『メデューサだ……。メデューサの石化の呪いを使えばいい……』
それを聞いた兵達はザワ付き始めた。
『確かに、メデューサの呪いなら石化させ、苦しみから解放させる事ができましょう。ですが、それはメデューサが実在すれば……の話です』
皆がメデューサの事は知っていた。だが、それは都市伝説のような物で、誰一人として信じていなかった。しかし、次の瞬間ゼブラからは思いもよらぬ言葉が返ってきた。
『ボクの父親は、メデューサに石にされ殺された』
それを聞いたユーフォニアは、先程のゼブラの言葉を思い出した。
『……それって、まさか』
ゼブラは目を閉じ一呼吸すると、グワッと目を開き表情が強張った。
『そうだ。メデューサはボクの復讐相手だっ!!』
残酷な事に、旅に出た青年の復讐相手が、唯一の希望の光だった。それを聞き、どうすれば良いのかとユーフォニアは悩んだ。その姿を見てゼブラはユーフォニアの肩を、ポンッと軽く叩くと扉に向かい歩き出した。
『必ず、メデューサを連れてくる……』
そう言って、ゼブラは城をあとにした。この国の唯一の出入り口の洞窟へ辿り着くと、ユーフォニアが走って追い掛けてきた。
『待って、一緒に行く!!』
ゼブラは困った。どんな危険な事が待ち受けているのか分からない。そんな旅に一国の姫を同行させる訳にはいかないからだ。
『悪いが、それは出来ない』
それでもユーフォニアは、引き下がらなかった。
『ユーフォニアも行きたい!! ゼブラと一緒に居る!!』
少女の友人は、共に過ごすうちに初恋の相手と成っていた。ゼブラも同じ、命の恩人はいつの間にか掛け替えの無い大切な人に変わっていた。
ゼブラはユーフォニアに跪いた。
『今からボクは、貴方の騎士と成りましょう。例え命に変えても、貴方を守り抜くと誓います』
この時ゼブラは、ユーフォニアも不死身だという事は知らなかった。後にその事を知り、ユーフォニアに対し、少々厳しくなるのは別のお話……。
メデューサを探す旅の途中、雫に出会い共にメデューサが住む魔界へと辿り着いた。
しかし、時は遅く、既にメデューサはこの世に亡き者と成っていた。
だが、雫は自分達よりも過去から来たと知った。
ー 現在 ー
『そして、この時代のメデューサを元の時代へと連れ帰り、この子の父親。【フェニックスを殺すこと】、それがボクたちの目的なのです』
ゼブラの話を聞いていたドロシー達は、涙と鼻水を垂れ流し感動していた。
ドロシーはユーフォニアの手を握り締めた。
『辛かったよね? よく頑張ってるね』
その姿は、もはや神というよりオバサンだ。
『俺達も協力するぞ! うぅ……』
牙王は泣きながらゼブラに抱きついた。暑苦しい光景だ。
『あ、ありがとう』
ゼブラは引きつった顔で礼を言った。
『そうね、全て片付いたら快く協力させてもらうわ』
ドロシーもその提案には賛成の様子。
『なら、ユーフォニアもお姉ちゃん達に協力する〜』
さっきまで戦っていたのが嘘の様に、和解した両者だが、それを見逃すほど堕天使側も甘くはなかった。
『見ぃちゃったぁ〜。裏切りとは感心しないなぁ』
声の方へ振り向くと、そこにはミハイルの姿が有った。
『ミハイル!! よくヌケヌケと、私の前に姿を現せたわね!!』
『つれない事を言うなよ。俺と君との仲じゃないか。あと、今の俺はミハイルじゃない。【ルーン】と名乗っているので、以後宜しく。それより、君達……。どうしてココに居るのかなぁ?』
ミハイルから殺気を感じるとゼブラはドロシーの背中を押した。
『ここは僕が食い止めます!!貴方達は貴方達の目的を果たして下さい!!』
ゼブラは一人でミハイル、いや、ルーンを相手にしようというのだ。それをユーフォニアが黙っているハズもなかった。
『ユーフォニアもいっ……しょに……』
ユーフォニアが共に戦おうとしていたので、ゼブラはユーフォニアを魔法で強制的に眠らした。
『この子を頼みますっ!!』
ドロシー達にユーフォニアを託し、ドロシー達の姿が見えなくなるのを確認すると、ゼブラはルーンに向かって飛び掛かった。
『邪魔だ』
襲いかかるゼブラを片手で弾いた。見事にゼブラを誰かが受け止めた。振り向くとそこに居たのは牙王だった。
『何故ココに!?』
『俺も一緒に戦ってやる』
ゼブラはフッと笑った。
『それは頼もしいですね』
後のことはドロシー達に託し、牙王とゼブラは襲いかかるルーンに立ち向かっていった。




