勝利へのピース
敵意を持たぬ敵と対峙する牙王とジャンヌ。しかし、互いに真剣だった。心の奥底に信念が有ったから。
皆を無事に帰す事。政宗の妹を救い出すこと。そして、この二人が何の為に戦っているのか。全ては、勝利の先に有り……。
『時間が残り少ないのでな、一気に行くぞ!!』
牙王は小石を拾って握りしめた。メリケンサックの様に握力の底上げをする為だ。そして、そのままゼブラ目掛けて飛び出した。それに応じるかの様に、ゼブラも牙王目掛け飛んで行った。右の拳に冷気を集め、氷の剣を纏った。
何もせずに立ち尽くすだけで勝てるであろうが、騎士の精神がそうはさせなかった。例え負けようとも、今は堕天使としてではなく、一人の漢として牙王との一戦に臨みたかったのだ。
牙王は力いっぱいゼブラに向けて拳を振り上げた。ゼブラがその攻撃を受けようとしているのを感じ取れた。
間違いなく【写し身】を発動する!! そう感じ取りギリギリの所で拳を止めた。
それもゼブラの読み通り、攻撃を躊躇する牙王に向け、氷の刃が襲いかかる。
牙王はこの時を待っていた。
相手が攻撃する瞬間こそが攻撃のチャンス!! 【写し身】を発動していない状態はここしか無い。氷の刃を腰を落として躱すと、ゼブラの腹部を思いっきり殴った。だが、その攻撃は読まれていた。牙王の攻撃は、再び己を痛め付ける結果に終わった。拳に握られていた小石はボロボロと、掌から落ちていった。
『貴方の考えは丸分かりです。ワザと避けやすい攻撃を仕掛けたんですよ』
今のは完全に裏をかかれた。だが、牙王は大声で笑っていた。
『ガハハハハ、今のでようやく解ったぞ! いや〜、難題を解くとスカッとするもんだなぁ』
今の一瞬で牙王は勝利へのピースを手にしたのだ。
『そんなハッタリはボクには通用しませんよ? 何故なら、この能力に死角は有りません!!』
ゼブラの言う通り、【写し身】を破る手段はないのか、それとも、牙王の憶測が正しいのか、それはまだ分からない。だが、牙王はダメージを受けすぎた。どちらにしても、次の攻撃が最後の賭けに成るであろう……。
一方、ジャンヌは……。
ダメージは特に無いものの、体力の限界が近付いている。もう既にユーフォニアは生死を繰り返しては、ジャンヌに挑んでいるのだった。
ユーフォニアが戦いを経て成長しているのか、ジャンヌの動きが鈍ってきたのか、段々と戦況はユーフォニアへと傾きつつあった。
『お姉ちゃん、ユーフォニアね、段々楽しく成ってきたよ!!』
無邪気に少女は微笑む。
『私はそろそろ終いにしたいんだが……』
歪んだ顔で聖女は苦笑。
ユーフォニアはジャンヌに弾かれる度に突進に回転を加えたり、緩急をつけて相手を翻弄し始めた。
『動きが随分と良くなったじゃないか!!』
『本当!? やったぁー!! 次こそ頑張るぞーーっ!!』
ジャンヌが褒めると、ユーフォニアは心の底から喜んだ。敵というより、師と弟子の様な関係に成りつつあった。
楽しい時間が過ぎるのは早いものだ。この時、既に残り時間が1分を過ぎようとしていた。
『じゃあ、次いっくよー!!』
ユーフォニアは空高く舞い、勢いを付けようとした。すると、少女の目の前にジャンヌが剣を持って現れた。
『……どうしてここに?』
ジャンヌは風の魔法剣の力を使い、ユーフォニアの居る上空へと辿り着いた。
『暇が有ったら、再び相手をしてやる。だから、今は眠れ……』
ユーフォニアの首の後ろを手刀で殴り気絶させた。殺さずとも戦闘不能にし、ジャンヌは勝利を掴み取った。
だが、ジャンヌの体力は底を付き、ジャンヌも共に空から落ちていった。
そのほんの少し前の事、牙王は家一軒分程の大きな岩に手を掛けた。
『今度は何をするつもりですか?』
思いもよらぬ行動にゼブラは呆れていた。
『俺は他の仲間とは違って、体を張る事しか出来ん……。だから、この肉体を極限まで鍛える事にしたんじゃああぁぁっっ…………!!』
残りの力を振り絞り、大岩を持ち上げた。
『ま、まさか!?』
その突拍子もない行動に口を大きく開け、呆然と立ち尽くすゼブラ。
牙王はゼブラの頭上に大岩を投げると、空中で大岩を殴り岩の雨を降らせた。
『安心せい! 殺しはせん!』
必死に逃げるゼブラだが、岩の雨に巻き込まれ、命に別状は無いものの、見動きを取れなくなってしまった。
『どうだ? 降参か?』
岩に座り込みゼブラに問うと、ゼブラはフッと鼻で笑った。
『……はい、降参です』
ゼブラの敗北の宣言を聞き、牙王は大声で笑った。
『ガハハハハ……ハハ……ハ……グハッッ!!』
牙王の身体は限界まできていて、力が抜け落ち、その場に横たわった。すると、空からジャンヌとユーフォニアが牙王の体の上に落ちて来たのだった。
空に有った魔法陣は消え、ギリギリの所で勝利を手にした牙王とジャンヌ。
しばらくして二人の元にドロシー達が駆け寄り手当てをしたのだった。
『すまぬが、この二人も治療してやってくれ……』
牙王のその一言に驚くが理由を聞き、治療を施した。
ゼブラは問う。どうやってこの攻略方を見出したのかと……。
それはゼブラ自身も知り得ぬことだった。
牙王は言った。
『最後に殴った時に、落とした小石がお主に足に当たっていた事に気付かなかったのか? あの時、俺の足にはその感触が無かった』
それを聞いてゼブラはクスクスと笑った。
『なる程、ボクの能力は無機質の物には通用しないという事でしたか。まだまだ、ボクも勉強が足りませんね』
すると、ゼブラは少し黙り込むと、スッと立ち上がるとユーフォニアの手を取り語りだした。
『では、約束通りお話致しましょう。ボクとユーフォニアの目的を……』




