制限時間 ー タイムリミット ー
コツコツと牙王に歩み寄ってくるゼブラ。牙王は身構えるが、ゼブラは攻撃を繰り出す気配は無かった。むしろ、牙王の攻撃を待っているかの様だった。牙王は、後ろへと少しずつ距離を取る。ゼブラの歩みは止まらない。
(まったく、行動が読めねー……。知的な奴の考えはホント理解できないな……)
ただ、浸すら力任せの筋肉バカには、このタイプは天敵だ。しかし、相手が何を企んでいるのかはわからないが、攻撃しなければ始まらない。
『どうしました? 何もしてこないんですか?』
ゼブラは立ち止まった。
『イマイチ、お前さんと戦う理由ってのが、見いだせなくってね』
確かに、直接危害を加えてきた訳では無い。本当は、戦うつもりだったが、戦わずに済むのであれば、それに越したことは無い。
『なるほど、それが理由ですか。でも、私はあなた方の敵ですよ?』
攻撃を誘っているのか、自らを敵と名乗った。
『敵かどうかは俺が判断する。だが、警戒は怠らないってだけさ』
少しでも時間を稼ぎたかった。未知なる敵の力を見定める為、自分が敗北した時に切り札である政宗の体力回復の為、理由は色々と有ったが、この男の無防備さに恐怖を感じていた。
『仕方がありませんね……戦う理由が無いなら作りましょう!』
ゼブラは空の魔法陣に術式を加えた。
『今、新たな術を加えました。10分以内にボクに勝たなければ、術は発動し、一生あなた方はこの世界から出る事は出来ません』
『早まりおって……』
いきなり無理矢理戦う理由を作られてしまった。オマケにタイムリミット付き。牙王は焦りを感じ始めていた。無防備の相手に攻撃を仕掛けるのは簡単だ。だが、その裏には何か潜んでいるのではないか? という疑念を取り払う事も出来ずにいた。
牙王は捨て身の覚悟でゼブラに殴りかかった。
ゼブラは避ける仕草も見せずに、その攻撃をまともに受けたのだった。次の瞬間、痛みを訴えたのはゼブラではなく、攻撃した側の牙王だった。
『グアアァァッッ!! ……貴様、何をした!?』
悲鳴を上げる牙王を見て、ゼブラはクスクスと笑みを浮かべていた。
『僕はただ、アナタの攻撃を受けただけですよ』
何が起こったのか牙王には理解出来なかった。確かに牙王の拳は確実にゼブラを捉えていた。それなのにゼブラではなく、自分自身を痛めつける結果になるのか……。
その謎を解く為に、再び牙王はゼブラに攻撃を仕掛けた。
『うああぁぁぁっっ!!』
やはり、ゼブラではなく牙王がダメージを受けてしまった。
今度はゼブラの動きを良く見ていた。しかし、ゼブラは何一つ牙王へ攻撃を仕掛けてはいなかった。
この時、一つの仮説が浮かんだ。それを確かめるべく、牙王はもう一度ゼブラに殴りかかったのだ。ただし、今度は力を極力抑えて。すると、その攻撃した箇所と同じ所に軽く殴られた感覚があった。これで、謎は解けた。
『なる程な、貴様を攻撃すれば全て自分に返ってくるということか……。それ故に、貴様は何もせずにいたという訳か』
ゼブラは手をパチパチと叩いた。
『その通りです。ボクの能力は【写し身】。その名の通り、攻撃した相手は自分にダメージを負わせてしまうのです。最も、コレを発動していると、僕自身も相手に攻撃すると返ってきてしまいますが』
何もせずに立っていた理由が判明した。相手にだけ攻撃をさせれば自分は傷付かずに済むということ。
制限時間が有る限り、牙王は何もしないで過ごす事も出来ない。術式を追加する前に始めておけば良かったと後悔した。
『おやおや、何もしてこないんですか? まぁ、残り8分そのままでもボクは一向に構わないんですけど……ねっ!!』
牙王の顔面目掛けゼブラは蹴りを喰らわした。
ゼブラの話によれば、ゼブラ自身に返るはずなのだが、牙王の額からは血が流れていた。
『何故、貴様に返らない!?』
ゼブラは笑った。
『そんなの簡単ですよ。マニュアルなので、ボクが攻撃する時だけ発動しなければ良いだけの事なのです』
このままでは一方的にやられるだけだ。何とかして、活路を見出さなければ……。
しかし、考える暇もなく、制限時間は刻一刻と迫っていた……。




