記念日
レイとの決闘を終えた次の日。
昨日、突然居なくなったレイは学校に登校していた。
心配になり話し掛けてみたが返事もしてくれなかった。
そこで、昼休みにレイと話をしてもらおうと隣のクラスのドロシー元へと赴いた。
すると、ドロシーの周りには人だかりが出来ていた。
転校生が珍しいというのも有るのだろうがやたら男子が多いのは気のせいだろうか…。
確かにドロシーは美人だ。
クラスの中、いや、校内、これも違う。とにかく、その辺の女性と比べても断トツでドロシーは比較にならない程に美人なのだ。
それでも政宗がドロシーを受け入れようとしないのには理由が有った…。
『おーいオズ。話が有るんだけどちょっと良いかな?』
ミハイルが政宗に近付き話し掛けてきた。
急ぎの用が有った訳ではないので、ミハイルに付き合うことにした。
弁当を持って人気の無い場所を選び、二人は座り込んだ。
『単刀直入に聞く。【ドロシー】の事どう思っているんだ?』
ミハイルは真剣な表情で聞いてきた。
しかもドロシーを呼び捨てにしているのを政宗は初めて聞いた。
まぁ、ミハイルとの会話で本人が居ない所でドロシーの名を口にしたのはこれが初めてなのだから特に驚く事ではない。
『で、どうなんだ?』
『どうって言われても…』
好きか嫌いで言えば、好きなんだろう。
だが、それを言う一歩が踏み出せなかった。
『まぁ、どっちでも良いんだけどコレだけは言わせてもらいたい。………ドロシーは止めておけ!!』
『………何でだ?』
『何でかって?それはオズも分かっている事なんじゃないのか?』
そうだ…その通りだ。
政宗はミハイルが言いたかった事を理解していた。
でも、そんな簡単に割り切れないのが人間だろ?
結局弁当には手を付ける事なく昼休みを終えた。
放課後、ドロシーは急いで政宗の元へとやってきた。
『政宗君、一緒に帰えろ〜!!』
『悪いな。ちょっと用事が有るんだ…。先に帰ってくれ…』
そう言って政宗は家とは違う方向へ行ってしまった。
用事なんて本当は無かった。
今は一人で居たかった。
目に映るのはカップルばかりだった。
あと、他に映る物といえば見た事のあるシスターの姿だ。
シスターは政宗に気が付くと話し掛けてきた。
『久しぶりじゃない。元気にしてた?』
エイラだ…。
今はあまり関わりたくはない相手だった。
『あぁ、お陰様で元気過ぎるくらい元気だ!』
『…何かあった?』
こういう時の女の感は面倒な事に鋭いのだ。
『ちょっと時間も有るから少し付き合いなさい』
エイラに言われるがまま連れて行かれてしまった。
普段なら絶対に入る事のない洒落た喫茶店へと入っていった。
「予め言っておくと、この喫茶店に兎は居ないのであしからず…」
とりあえずコーヒーを注文するとエイラは話始めた。
『何があったの?私で良ければ聞いてあげる』
いつになく優しいエイラだったが政宗は躊躇った。
シスターに恋話しても………意味が有るのだろうか? だが、教会なら結婚式とかも挙げたりするのだから大丈夫………なのか?
とりあえずは独りで悩んでいるよりは良いかもしれない。
『………実は…』
政宗が言いかけた瞬間エイラは言った。
『あっ、お金と恋の話は私駄目だから!』
駄目なのかよっ!!
『………もしかして…お金の話だった?』
そっちじゃねーよっ!!恋話ですよっ!!
悩みを打ち明ける事もなくコーヒーを飲んで喫茶店を出た二人。
『そろそろ私帰るから』
そう言ってエイラは独り帰っていった。
無駄な時間を過ごしてしまった政宗だった。
辺りはすっかりあかね色に染まっている。
行く宛も無くただ歩いていると、気が付けば家の近くの公園まで着てしまっていた。
公園を歩いているとベンチに腰掛けている制服姿のドロシーを見つけた。
ドロシーも政宗に気付き手を大きく振った。
『おーい、政宗く〜ん』
『どうしてここに?』
政宗が尋ねるとドロシーは足をバタバタさせながら言った。
『ここで待ってれば政宗が見えるかなぁ〜って』
『ずっと…待っていたのか?』
『うん』
『一度も家に帰らずに?』
『うん』
『…どうして!?家はすぐそこじゃないか!?』
バタバタさせていた足を止め、立ち上がり政宗にしがみついた。
『一秒でも早く会いたかったから………』
『だからってわざわざこんな所で待っていなくてもいいじゃないか!?』
『………駄目?』
ドロシーは潤んだ瞳で上目遣いをしながら言った。
正直なところ、政宗はドキッとした。
この時、政宗はドロシーの事を好きなんだと改めて実感した。
でも、それと同時に怖かった…。
政宗は思い切って勇気を振り絞りドロシーに尋ねた。
『なぁ…俺の事…好きか?』
『うん、大好き』
少し照れながら笑う姿は可愛かった。
『怖く…ないのか?』
その質問をした時、ドロシーは一瞬動きを止め静かに小刻みに震えていた。
『…怖いよ。…私だって怖いんだよ?私は歳を取らないのに政宗君は歳を取って………やがて…』
そう、政宗はソレが怖かった。
神と人間の違いが怖かった。
だから悩んだ。
だから最後の一歩を踏み出せなかった。
でも、次のドロシーの一言で最後の一歩を踏み出す事が出来た。
ドロシーは深く息を吐き呼吸を整え叫んだ。
『それでも私はこの気持ちに嘘は付きたくないの。私は…私は政宗君を愛してるっ!!』
泣きながら叫ぶドロシーを強く抱き締めた。
『俺もだ…俺もドロシーを…愛してる』
二人を何処からか見ていたのか…? それとも家まで聞こえていたのか…?
その日の夜、母は上機嫌で食卓には赤飯が並んでいた。
『やれやれ、結局くっついちゃったか…。さてと、そろそろあの人を覚醒させるとしますか!』
何者かが動き出している事をこの時の政宗達には知る由もなかった………。




