漢の背中
『さて、どうしたものか……』
北の魔女カトレアに力を借りる為には、牙王を国王にしなくてはならないのだった。
そして、何よりも問題なのは……
『俺は一度逃げ出したんだ。そんな臆病者に、王になる資格など毛頭ない』
当の本人が王になる気など無かった。
そこで、選択肢は三つ
一つ目:牙王を説得する
二つ目:カトレアの事は諦める
三つ目:この国の王に俺は成る
面白いが、当然三つ目は論外だ。カトレアとの約束を果たせていない上に、王になってしてしまったら本末転倒だ。
そして、残りの二つに絞られる訳だが、この国の現状を知りながら見捨てる事など出来はしなかった。
よって、【一つ目の牙王を説得する】しか残されていなかった。
そこまで見透かしていたのか、カトレアは難題を押し付けたのだった。
『なぁ、本当に王になる気は無いのか?』
『何度も言っているが、王になる資格など俺には無い』
やはり頑なに拒む牙王だった。
牙王は逃げ出した事より、友を裏切った事を何よりも悔やんでいたのだ。
『この国がこのままで良いの? 貴方は今まで王の為に戦っていたの? それとも国のために戦ったの?』
ドロシーの問いに、牙王は目を大きく見開き考えた。
(俺は国の為に戦ってきた……。王の為、国民の為……。そして何より友のために……)
『だが、国の為に戦ったとしても身を滅ぼす事もある』
『ジャンヌ、お前は黙っていてくれ』
政宗がそう言うと、トトは空気を読み黙ってジャンヌを外へ連れ出した。
『このままでは、本当の臆病者になるんじゃないのかい?』
牙王はしばらく黙っていた。長い沈黙の末、ようやく牙王は口を開いた。
『……少しだけ、考えさせてくれんか……。』
牙王を一人残して政宗達は部屋を出ていった。
ーその夜ー
牙王は政宗を外に呼び出し話をした。
『お前に頼みが有る』
政宗を背に漢は言った。
『俺に勇気をくれないか?』
政宗はフッと鼻で笑うと、一人の漢に向かって言った。
『アンタにやる勇気なんて無いね。アンタは既に勇気を持っている。そうだろ?』
政宗は続けて言った。
『アンタは逃げ出したって言ったよな? その時辛くなかったか? 本当は逃げたくなかったんじゃないのか? アンタは逃げる勇気を持っていたんだ!』
この時、牙王は背を向けていたので表情はわからなかった。
でも、その漢の背中は小刻みに震えていた。
泣いているのか、武者震いなのか、それはわからない。だけどそれは、まさしく漢の背中だった……。




