偽りの魔女
ジャンヌは己が信じた神の為、目の前の敵を倒す為に立ち上がった。
ジャンヌは青白い光に優しく包まれ、まさに聖女と呼ぶに相応しく、とても美しかった。
『貴様等はその女の手当てをしてくれ、私がコイツの相手をしよう』
倒れたエヴァノラを政宗達に託すと、ジャンヌはマーリンに飛び掛かった。
『この刃、見切れる物なら見切ってみせよ! せいっ!』
ジャンヌのその一太刀はマーリンに……当たるはずがなかった。何故なら素手だったからだ! ジャンヌってばウッカリさん。
『えぇい脅かしおって、今度はこちらの番じゃ』
マーリンは手を上げると、冷気が集まり、いくつもの氷の槍があっという間に出来上がった。マーリンが手を下げると一斉にジャンヌ目掛けて飛んで行ったが、間一髪の所で政宗のシールドが間に合った。
『ふぅ、危なかったな』
『手出しするな! 私一人で十分だ!』
ジャンヌはそう言ってマーリンの懐へ飛び込み、腹に一発肘打ちし、その勢いを殺す事無く手の甲で顎を攻撃した。
『地の利が悪すぎる』
マーリンは外へと走っていった。それを追いかけようとするジャンヌに対し政宗は、腕を掴み引き止めた。
『待てよ』
『えぇい邪魔するでない!』
『持ってけよ』
政宗は自分の能力で作った剣をジャンヌに渡した。
『こ、今回は使ってやる』
そう言ってジャンヌはマーリンを追いかけた。
『まったく、何処までも神様オンリーだな』
政宗がそう言うとトトはクスクスと笑っていた。
『何かおかしな事言ったか?』
『いいえ、そんな事無いですよ。ただ……』
相変わらずトトは一人で笑っていたが、政宗には理解出来なかった。
外ではジャンヌとマーリンが戦っていた。
マーリンの放つ氷の槍を躱しつつ剣から迸る斬撃で応戦するジャンヌ。
マーリンの顔を斬撃が掠め、頬からは血が流れた。
『素晴らしい剣技だ! 嘗ての我が主アーサー殿にも匹敵するやもしれんのぉ。だがコレならどうかな?』
ジャンヌの周りを囲む様に炎が湧き出た。
そして彼女はその場で膝をつき手から剣を落としてしまった。
『ふはははは、貴様の弱点など解っておるわい。どうだ、恐かろう?』
その瞳からは闘志は消え去り、光を失いジャンヌの体は激しく震えだした。脳裏に蘇る人々の冷たい視線。彼女には誰一人として味方は居なかった。
全ては祖国の為、民の為誠意を持って尽くしてきた。だが、彼女を待っていたのは縛られ灼熱の業火で焼かれる【処刑】の二文字だった。
『さて、そろそろ幕引きといこう』
マーリンは再び手を上げ巨大な氷の槍を作り始めた。その時
『ジャンヌッ!!』
政宗が駆けつけた。
『しっかりしろ! これは全てアイツの創り出した幻だ!』
政宗はジャンヌを強く抱きしめた。
『お前は独りじゃない! 今は無理でも良い! 少しずつでも良い! だから俺達を信頼してくれ! 俺達はお前の【味方】だっ!』
その言葉でジャンヌの瞳は光を取り戻し、ジャンヌを囲む炎は消え去った。
『て、手出しするなと言ったではないか!』
『悪かったよ。でも解っちゃったんだ』
『何をだ?』
口を尖らせジャンヌは聞いた。
『ジャンヌが本当に欲しい物は脳なんかじゃない。信頼できる【仲間】なんだって』
政宗がそう言って微笑みかけるとジャンヌの顔は真っ赤になった。
『き、貴様はそこで私がアイツを倒す所を黙っちぇ見ていろ』
噛んだ!!
『わかったよ』
クスリと笑いながら政宗はジャンヌに剣を手渡した。
ジャンヌを纏う青白い光は、さっきよりも眩い光を放っていた。
マーリンが大きな氷の槍をジャンヌ目掛け放った。ジャンヌは腰を深く落とし剣に意識を集中させると、剣に青白い光が集まっていった。
剣を大きく振ると光は解き放たれ氷の槍を切り裂き、そのままマーリンへと向かっていった。
マーリンは吹き飛ばされ血を大量に流していた。
『偽りの魔女め……。この深手では致し方ないか……。一旦引くとしようでわないか……。だが、次は無いと知れ!』
マーリンは立ち上がり、捨て台詞を言って消え去った。
ジャンヌの白銀の髪が光に照らされ輝き風に揺れていた。
(何だろうこの気持ち。こんなに清々しい気持ちで戦ったのは初めてかもしれないな……。これも全てコイツ〈まさむね〉のお陰なのか? ひょっとしてこれが恋!?)
ジャンヌは顔を真っ赤にしてその場で倒れ込んでしまった。




