第94話:牢屋越しの御対面
すみません。更新が遅くて本当にすみません!
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相も変わらず龍人族が人間の子供をベルトで殴り続け、耐え兼ねた他の二人が訴え出たと聞き、長は牢屋へと入って行った。
牢屋番に様子を聞くと、この数日間で床には少女の血飛沫の跡も窺え、なんとも哀れな様子だという。
先日の彼女の悲鳴を思い出し、苦いモノが込み上げて来るのを意思の力で抑え込みながら目的の牢屋に到着した。
獣人の女が鉄格子にしがみ付きながら長の姿を見るなり牢屋内の惨状を訴えて来る。
それを聞きながら牢屋の奥を見ると、牢屋番の言う通り所々に血飛沫の跡がある。
そして、少女を見ると彼女は龍人族の傍におり、彼を恐れている様子はない。
そして、龍人族の彼もまた彼女を蔑んでいる様子もないため、先日隣の牢屋で聞いた通り、彼は本心から教育を施していたと思っており、彼女もまたそれを当然のように受け入れているように見える。
その証拠が、先日まで感じていた膨大な魔力を彼女から感じる事は出来なかった。
いや、それでも人間にしては魔力が強いが魔族の青年より弱くなっていた。
修行という名の拷問は、彼女に魔力調節を成功させるに至ったというわけだ。
長は、感情を抑えるように静かな声で問いかけた。
「……お前達に聞きたい事がある」
長の声に答えるように人間の少女は立ち上がり、龍人に支えられるようにして鉄格子に近付いてきた。
それにより、通路にある蝋燭の灯りで少女の姿が映し出されていく。
残忍なその憎らしい顔を見ようと目を凝らした長は、次の瞬間目を驚愕に見開く事になった。
何故なら、そこにいたのは夜の闇を照らす月のような輝きを放つ美しい少女だったからだ。
あどけない子供でありながら既に完成された『美』。
リザードマンの美的感覚とは明らかに違うのにも関わらず、美しいと感じずにはいられないその姿に、長の後ろで控えていた牢屋番は魂を奪われたかのように少女をうっとりと見つめていた。
いや、長でさえその美しさに心を奪われ、理性の力でそれを悟られないようにしているだけだった。
「長様。先ずは、私的な理由で牢屋内をお騒がせさせてしまった事を詫びさせて下さい」
天上の調べのような声が少女の口から放たれる。
顔の雰囲気が変われば声まで変わるのかとうっとりとそんな事を考えている自分に理性的な自分が否定してきた。
声は最初から変わっていない。
先日耳にした声も極上の楽器のような美しいものだった。
純粋な邪気のない心に至福の風が凪ぐような美しい声。
今、目の前にいる少女の口から発せられるとどんな事でも素直に受け入れたくなるようなそんな声だというのに、凶悪な顔で発せられると『心の隙間に入りこみ、隙あれば全ての物を奪ってやる』と不吉な事を企んでいるように聞こえてしまう。
だからこそ門番は警戒し彼女等を捕らえたわけなのだが、長は正直どう対応していいのか考えあぐねていた。
(極端から極端に印象の変わるこの娘。警戒するに越した事はないが……)
「今後、牢屋内で騒ぐ事は禁じる。だが、娘よ。そなたに聞きたい事がある」
「はい。私で答えられる事ならば」
交渉のチャンスと思ったのか、少女は一瞬口角を上げて長にそう返答した。
「そなたは人間か?」
「は?」
予想と違った質問だったのか、少女は間の抜けた言葉を発し、直ぐに首を縦に振った。
「は、はい。一応人間です」
『一応』とはまたかなり曖昧な返答である。
と、いう事は人間の血が混じった魔族という事なのだろうか?
そんな考えが再び頭の中に浮かぶ。
「で、そなたの目的はなんだ?」
「人間に攻撃するのを止めさせる為です」
「それは出来ぬ相談だ。人間は我々の仲間を無惨に殺めた。その償いは取って貰わねばならぬ」
「気持ちは解ります。ですが、もし、そのような事をすればリザードマンという種族が滅ぶ事になる。何故なら貴方方は人間という種族を理解しておりません。
ですので、人間がどんな種族なのかという事を話に来ました」
少女は、リザードマンという種族を守る為に来たのだと訴え続けた。
だが、長は警戒心を強めた。
自分はリザードマンの味方なのだと油断させようとしている。そんな振りをして何を企んでいるのかと訝しんだからだ。
(こちらの油断を誘おうというのか?なんとも浅はかだ。だが、誘われた振りをするのもいいかもしれない)
こちらを油断させようとしているとしても、直ぐに行動に移すような愚計をする事はないだろう。
ならば、こちらが油断したように見せかけて、本心を探るべきだろうと長は判断し、少女に頷いて見せた。
「ならば、話だけは聞こう。鉄格子越しでは話しにくい。牢屋番の待機室へ案内しよう」
一先ず牢屋から出しはしたが、信用はしていない。
そんな意思表示だったが、少女は何故か嬉しそうに笑みを浮かべた。




